fil.5 作戦3

朝日が昇ると同時に、闘いの火ぶたが切られた。


「う、うう!!!おーーー!!!」


うめき声を上げ、苦しむテルキ。


「テルキがあんなに苦しんでいるなんて・・・」

「倒せますかね〜」

「フッ、無様だな、テルキ・・・」

「兄様!」


「お二人共!!」


兄妹喧嘩が始まりそうなところを(一方的だが)アルラスが止めに入る。


「とりあえず、全員、戦闘の位置につけーー!」


ルイスの一声で、勇者パーティーはいつもの位置につく。

他の魔法使いや聖騎士らは、彼らを遠くから援護をすることになった。


「いくぞーー!!!」

「「「おおおーーーー!!!」」」


戦闘が、今まさに始まる。



「炎の精霊よ〜。廻り、廻り、燃やし尽くせ〜。『炎下車輪エンブレス・ウェール』」


ロイが発動した炎の大車輪が勢いよく廻り、猛スピードでテルキを目がけてゆく。


防壁シールド


 バッッーーーンンン!!!


爆風が起きる。

全員が爆風から身を守る。


「グレース姉様!」

「分かってる!」


大雷炎サンダーブレスラー!」


テルキが魔法を放つ。今度は、メアリーたちに向かってくる。

グレースは襲ってくる魔法の前に仁王立ちし、盾を構える。


威力の高い魔法が、盾にぶち当たる。

大きな爆発が起きたが、盾の後でグレースはなんとか耐えた。


治癒ヒール


メアリーが、すぐさまグレースを癒やす。


周囲の木々は吹き飛んでいき、援護の半数の魔法使いや騎士たちは負傷をし、離脱している。

すでに10時を過ぎ、戦闘が始まってから3時間も経つ。

彼らは次の作戦に出た。


「ルイス!」

「ああ、遊んでくるよ!」


そう言って、テルキと一人で対峙するルイス。


「こんなに血が騒ぐのは、魔王戦以来だよ。最近は政務ばかりで体もなまって飽き飽きしていたところだ。テルキ!全力で行かせてもらうぜ!」

「う、ううん」

「何だ、まだ少しは理性があるじゃねーか。でも、魔力はまだ全然あるな・・・。おい、グレース!」

「何?」

「持って半時だ。それまでには」

「分かってるわ!メアリー、そういうことだから!」

「わかりました!」


メアリーたちは、すぐさま治療に当たる。ルイスが粘っている間に、全員の体力を回復させるために。


「行くぞ、テルキ!」


二人は一斉に走り出す。



「ぐっ、『防壁シールド』!・・・・・・がはっ!」


吹き飛ばされ、大木に当たるルイス。


「テルキ、お前相変わらず強すぎるだろ・・・ハハハ」


テルキを睨みながら笑う。


「メアリー、まだか!」

「兄様、もう少しです!」

「りょーかい!」


ゆっくりと立ち上がるルイス。弓を握りしめ、構える。最後の矢で狙いを定める。


「木の精霊よ!弓の神よ!天を地を切り裂く力を!我は欲する!『天地断斬アースヘブン・カットキル』」


鋭く矢が変形する。放たれると、視認できないスピードでテルキに向かって進む。


 カッッーーーーンンン!!!


テルキが発動させたシールドに刺さるも、貫通はしていない。


「そう簡単にはいかないか」

「兄様、もう十分です!お休みください!」

「オーケー!」


ルイスは急いで安全地帯に向かう。それを見た暴走中のテルキが後を追う。


「たす・・け、て」


悲痛な声でつぶやく。


「大丈夫だ、必ず!」


ルイスは返答する。


「魔法を打てーーー!!!」


テルキに向けて、魔法が飛んできて、行く手を阻む。

二人の会話はそこで途切れた。



正午を回り、午後3時。

全員でテルキと戦い、負傷者が続出したら、ルイス一人で時間を稼ぐ。その間に、回復させる。これを何回も繰り返してきた。

やがて、疲労も溜まっていき、リタイアする人も増えてきた。

一方で、テルキの魔法の威力も確実に落ちてきている。



午後6時。


「はぁー、はぁー」

「どうした、もうお終いか?」


あおり口調でルイスは言う。だが、本人も精神的に疲れていた。


「ま、だーー!!」

「く、どんだけ強いんだよ!」


日はすでに沈み始めていた。


「ま・・だ・・・」


 ドサッ!


急にテルキはその場で崩れた。

それを見た全員が勝どきを上げた。


「「「か、勝ったぞーーーー!!!」」」


森に、雄叫びが響く。


「やっと・・か」


ルイスも倒れ込んだ。


「兄様!」


メアリーはすぐに駆け寄った。


「テルキを・・」

「大丈夫です。今、先生が運んで下さっています」

「そうか、無事か・・・」

「何でそんなに嬉しそうなお顔なんですか?」

「いや、まぁ〜」

「言ってください!」

「それは・・・久しぶりにみんなと戦えたからだ。我のほうが、あの日々を思い出してしまった・・・」

「兄様・・」

「それに、テルキのことも殴れたし!」

「兄様!いい加減に!」


すでに気を失っている兄を見て、叩くのをやめた。

ルイスはグレースに運ばれ、テルキとともに治療を受けた。


メアリーは、周りを見渡す。

辺り一帯に生えていた草木は無く、仮家の施設も崩壊していた(3回目)。燃えた跡や雷が落ちた跡がそこら中にあった。

今日一日、どれだけ壮絶な戦いだったかを物語っていた。

しかし、幸いにも死者はなく、皆、修復に取りかかり始めていた。


 今回もテルキは治らないかもしれない。でも、何かが変わるかもしれない。


そう思ってしまうぐらい、熱く壮絶な戦いだった・・・



結果から言うと、治療は、半分成功した。

なぜだか分からないが、暴走する日が一日伸び、三日に一回となったからだ。

理由は、魔法研究室が現在調査中だ。


「とりあえず、なにかしら成功したな!我の策のおかげだ!」


天高く拳を突き上げるルイスの姿を見て、周りは呆れる。


「たまたまだよ。偶然」

「何も〜考えてなかった〜ですよね〜」

「兄様より、他の方々のおかげです」


散々の言われようで凹む王子。


「まあまあ、みんな。事実、兄様の策でテルキも少し回復できたし。ありがとう、ルイス」


メアリーは手を差し出し、握手を求める。ルイスはふて腐れながらも、それに応じた。


 次こそは絶対に・・・


治療は続く。


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