fil.3 作戦2
騒動が起きてから一日後。
丘の上にある観察施設に、メアリーとアルラス、キャシー。護衛の魔法使いたちが集まった。
全員眠い目をこすり、椅子に座っていた。
「あの出来事から1日経ちました。まず、テルキの妻として謝ります。皆さま、私の力及ばずで、申し訳ございませんでした」
頭を下げるメアリー。アルラスとキャシーもそれに倣った。
「メ、メアリー様、宰相様、キャシーさん!頭を下げないでください!私たちは全てを承知した上でここにいるのですから!」
魔法使いの代表が立ち上がり、声を挙げて言った。
「これからも、頭を下げないでください!私達はくじけませんから!」
魔法使い全員がうなずいた。
「・・・そう言ってくれて、みんな、ありがとう!これからもよろしくお願いしますね」
「「「はい!」」」
チーム全員の絆が強くなった。
「それでは、みなさん。今回の失敗の原因は何だったでしょうか?」
メアリーは全員に聞く。
今回の失敗。
それは回復魔法と光魔法を使った治療のこと。
初日は何も起こらず、成功したかに見えた。だが二日後の深夜、突然テルキが魔法を発動。仮家の施設は破壊され、辺り一帯には無数の魔法が放たれた跡が。魔力量は少なかったため大惨事にまでは至らなかったが、それでも、収束するのに1日を要した。
今回の失敗を振り返り、原因を考察する。そのために、魔法使い全員が呼ばれた。
「すいま・・せん」
一人の若い魔法使いが、恐る恐る手を挙げた。
「えっ〜と、ライアンくんだっけ?」
「はい」と気弱そうな声。
丸メガネをかけた、おかっぱ頭の青年だ。
「僕は、魔法研究室の出身なんですけど・・」
そう言うと、周りの魔法使いたちが一斉に渋い表情をした。
ー魔法研究室ー
名前の通り、魔法について歴史を調べたり、魔法実験をしたりする研究室。
日々、魔法を使う機械を作ったりしているが、それがあまりにも変テコなため、周りからは奇人変人扱いをされている。実はメアリー自身も過去に苦い思い出があり、思わず苦笑いを浮かべる。
「僕は主に歴史を調べているのですが、約120年ぐらい前に勇者様と同じ異世界の『地球』から迷い込んだ異世界人がこの国にいました」
「・・・知らなかったわ」
魔法使いたちも隣の者と声を潜めて口々に話し始めたが、誰も聞いたことがない様子だった。
唯一、アルラスだけがうなずいた。
「その異世界人は、向こうの世界で医者をやっていたらしいのです。向こうでは、魔法が存在しない分、医学が発達しているそうです。
で、その異世界人が言うには、人間や生物は”細胞”と呼ばれる物質で形成されているらしいです」
「!それなら聞いたことあるわ。魔法学的にそれは無いと言われているけれども」
「ええ。魔力が存在するこの世界では古来より、魔力によって生物は出来ていると考えられています。しかし、私達の研究室では、人間や生物の成り立ちについての研究も長年してきまして、もしかすると本当に細胞が存在するかもしれないと、近年の研究成果でわかってきたのです」
「な、なんと。本当にそうなのか?」
「まだ研究途中ですが・・・」
話は元に戻る。ライアンは話を続けた。
「それで、です。もし、”細胞”と呼ばれるもので人間は形成されていると仮定します。そうなると、魔力を体中に行き渡らせようとする必ずこの細胞を通して、ということになります。別の言い方をすれば、中毒症状の原因となる魔素、魔力が体に溜まるわけですが、その魔力が溜まるのは器官を形成する”細胞”に溜まる、ということになります」
「つまり?」
「メアリー様が回復魔法や光魔法で干渉したのは魔力に対して、ですよね?」
「ええ。器官は魔力で・・」
「そうです。魔力に干渉して元の状態に戻しても、細胞自体は修復してない。回復魔法は、その発動者のイメージする干渉しか相手に与えられないわけですから」
「つまり、私が細胞や、細胞と魔力がどのように関係してるか知らなかった。だから回復魔法を使っても根本的には治療が出来ていなかった。そういうこと?」
「そういうことです」
全員も、その説明にうなずいた。
「勇者様の体は細胞で形成されている。だから私達の回復魔法では根本的に治せない」
「でも〜、なんで回復魔法で〜人の体を治せるんですか〜?」
「キャシー、私達は体のつくりとかはわかっているでしょ。心臓や胃とか。傷や毒、呪いのことも詳しく知っている。イメージすればできる。でも、魔法中毒や細胞は、まだまだ理解し切れていない。だからうまくイメージできないし、干渉もできないの」
キャシーは納得したようにうなずいた。
「ちなみに、以前、勇者様に体のつくりについて尋ね、その時に色々と知ったのですが、ただ勇者様も専門的なことまではわからないようで・・・」とライアン。
「それは仕方ないわ。とりあえず、これで回復魔法では無理だと分かったわ。ありがとう、ライアンくん!」
一拍おいて続ける。
「では、みなさん。次の作戦の案をお願いします」
皆、押し黙る。しばらく沈黙が続いたが、またライアンが自信なさげに手を挙げた。
「これは、僕の案というより、魔法研究室からの治療法の提案です」
「何かしら?」
全員が息を飲んだ。
「僕たち魔法研究室は、”無魔力結界魔法装置”を開発しました」
「”無魔力結界魔法装置”?ずいぶんと長い名前ね~」
「まるで早口言葉みたい~!」と喜ぶキャシー。
「魔力が無い空間を作る魔法を発動させる事ができる装置です。闇魔法系統の制限結界魔法(特定の相手が魔法を使えなくさせる魔法)を応用しました。細かいところは秘密ですが・・・」
「なるほどね」
「ただ・・・勇者様がお住みになっている施設をこの結界で覆うためには、大量の一人の魔力が必要でして・・・」
「私が発動させればいいのね」
「は、はい、すみません!」
「心配しないで、大丈夫よ。他に提案がある人はいる?」
見渡すが、皆、首を振る。
「反対もないわね。なるべく早く治したいけど・・・」
「最速で、装置は2日後に届きます」
「・・・分かったわ。ではその間に、準備や次の発作の対策をしておきましょう!」
「「「はい!」」」
それから、三日後。
テルキにいつもの中毒症状の発作が起き、それが収まった頃。
「それでは、行きます!」
朝日を浴びて輝く金色の髪を後ろで結び、メアリーは四角い装置に手を添える。装置の中心部には、赤色の魔法陣が描かれており、そこに手を添えて魔力を注入する。
仮家2の施設の傍に置かれた装置は魔力が入り、水色に光る。装置全体が水色にな変わると、魔法を発動させた。
「マホウ、ハツドウ。ムマリョククウカンノ、ケッカイヲハツドウ」
片言の機械音で、装置がしゃべり始める。
同時に魔法が発動し、透明な壁が施設を覆う。
結界を作っている透明の壁はなんとか視認できるレベルで、人も簡単にその壁を通り抜けられる。
「すごいわ!まったく魔力を感じないわ!」
結界に入ったメアリーは、興奮した声で言う。
「そうだねー!すごい、さすが魔法研究室だ!」とキャシー。
施設内で寝ていたテルキは、異変に気づき外に出てきた。
昨日、暴れてしまったせいか目には隈ができ、体もフラフラだった。
「テルキ、寝てなさい!」
「!ああ、すまん」
護衛の騎士たちに支えられ、施設内へと戻った。
今回の作戦では、魔法使いは施設の護衛をしないことにしたため、メアリーはテルキを騎士たちに任せている。
装置を発動させるために自分の魔力を半分持っていかれたメアリーだが、やることがあり、丘の上の観察施設へと向かった。
今回はきっと・・・
そう思ったメアリー。
だが・・・
結界発動、3時間後。
「メ、メアリー様〜!大変です〜!」
キャシーが資料整理中のメアリーのところに駆け込んで来た。
「何があったの!?」
不安な面持ちで、聞く。
「結界と勇者様が〜おかしくなっていて〜」
「どういうこと!?」
「直接見てもらったほうが〜わかりますぅ〜」
キャシーたちと急いで丘を下る。すでに、複数人が集まっており、魔法を発動させている。何やら周囲の者たちに指示を出しているアルラスを見つけ、呼び止める。
「何があったの、先生?」
「あ、メアリー様。あれをご覧ください!」
そう言って指さしたのは、テルキがいる施設。結界が張られていたはずだが、中では何かしらの魔力反応が起きていた。
「な、何が起きているの」
「そ、それに関しては、僕から説明します」
アルラスの背後から汗だくのライアンが姿を現し、曇ったメガネを拭く。
「今から1時間前のこと。寝ていたはずの勇者様が苦しみだしまして。護衛の騎士たちが、医務班まで報告に来ました。その後、騎士と医務班が一緒に施設に向かったところ、中で何やら魔力反応が起きていたようで。そこで彼らはすぐに、今度は僕たち魔法使いを呼びに来て、僕らが到着した頃にはこのような状態でした・・・」
「どうして、こんなことに」
「仮説ですが、魔力がなくなったことで取り込むことができなくなり、何らかの”拒否反応”が起きたかと。『無』の中にあった魔力が暴走したと思われます」
「たしかに、拒否反応のことまで私たちは考えていなかったわね」
「すいません・・。もう少し―」
「ライアン、あなたの責任ではないわ。この任務の全ては私の責任だから。とにかく今は、被害を最小限に食い止めることだけを考えて!お願い!」
「はい!」
メアリーは、結界内を注意深く見回した。
魔力が暴走し、仮家の施設が壊れる(2回目)。結界はなんとか、まだ保たれている状況だった。
メアリーは頭をフル回転させ、この状況の打開策を考え始めた・・・
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