fil.2 作戦1

「さぁ、基礎知識はここら辺で良いでしょう」


手を叩き、アルラスは話を終わらせる。


「次は、治す方法を考えなくてはいけませんね」

「ええ、先生」

「でも〜どうすればよいのでしょうか〜?」


三人は各々、思案した。


テルキが苦しまずに、周りに迷惑をかけないように・・・


メアリーは考え、悩む。


メアリー様、国王陛下、国民。全員が喜ぶ方法を・・・


宰相アルラスは立場もあり悩む。


 簡単にできる方法を〜。後〜、今日の晩ご飯は何にしようかな〜・・・


・・キャシーは色々と悩む。


「メアリー様〜、叔父様〜。今日の晩ご飯何に?」

「キャシー!ちゃんと考えなさい!」と、アルラス。

「・・ふぁ〜い」


再び沈黙が訪れる。


少しすると、キャシーが手を挙げた。


「魔王を復活させて〜戦ってもらうのは〜?」

「「だめーー!!!!!世界のことを考えろーー!!!!」」


メアリー&アルラス、二人の言葉が見事にハモった。


「キャシー。国民のことも考えてね」


暴走しそうなキャシーをメアリーはなだめる。


「・・いい案と〜思ったんですけどね〜」

「「だめ。絶対!」」


二人は強く念を押した。



一時間後。



「はぁーーー、いくら考えても全然思いつかないよぉ~」

「メアリー様。失礼ですが、そのようなお言葉遣いは・・・」

「もう私は王族じゃないんです。それよりもです。先生も思い浮かばないんですか?」

「私は天才ではありません。知識はいくらかありますが・・・なにせ、魔法中毒者を本格的に治すなど、これまで不可能とされてきましたから・・・」

「過去にはどんなことが〜?」


キャシーが聞く。


「・・ちょっと待ってください」


そう言って、アルラスは机の上にある資料から冊子を取り出した。


「記録されているだけで、過去に3回ほど。

300年ほど前の実験は臓器を取り替えようとしたらしいですが対象者が亡くなりました。しかも、非人道的のため、絶っっっ対今回はやりません。

200年ほど前は、魔力と人間を断ち切る呪いをかけるという、意味のわからない実験をした結果、対象者の精神が崩壊したそうです。もちろん、もう二度とやりませんから・・・、メアリー様、私を睨むのはおやめください。

えっーと次は、100年ほど前の実験。逆に対象者に魔力を注入して拒否反応を起こさせ、その後、全ての魔力を出し切らせた瞬間に、魔力遮断をして・・・という難しい工程を踏むことをして、結果、対象者が別の障害を負ってしまいました。

とまぁ、主な過去の事例がこの3つです。他にもいくつかありますが、やり方が古くて、私達も何回かやったことがあるようなものばかりです。って、こらっ!キャシー寝るでない!」

「ふぁ〜〜。すいませ〜ん。じゃあ〜、体の臓器は〜治せないの?」

「ええ。回復薬は試したけど、駄目だったの」


キャシーは黙りこくり、別のことを尋ねた。


「じゃあ、回復魔法は〜、かけたんですか〜?」

「かけるも何も・・・」


言葉を失い、メアリーは固まる。


 私としたことが、今までそのことに考えが及ばなかったなんて・・・


「メアリー様、何か気づかれたんですか?」

「ええ、先生。私達は『回復魔法』の存在を忘れていました」

「どういうことですか?」


頭の中で整理をしながら、メアリーは説明する。


「私達は、臓器を治すのは回復薬ばかりだと考えていました。しかし、魔法でもそれは可能。昔の人々もそれに気づきませんでした。理由はおそらく2つ。

まず、回復魔法を使うことができる人が少なかったこと。

もう1つは大量の魔力を必要とするから、ということ。

私の仮説では、魔力が”害”となった臓器に魔法をかける。そうすることで、”害”は取り除かれ、元に戻る。元、というのは中毒前」

「そうか!回復薬だと威力は弱い。しかし、回復魔法ならば溜まった直前にやれば治る。そういうことですか?」

「先生のおっしゃるとおりです!」


二人は難題に光が差したように盛り上がるが、一人置いてきぼりがいた。


「なんで〜、溜まった直前まで待つんですか〜?器官に害を与えてしまうじゃないですか~?まだ害が起きる前に回復魔法を使えば、いいじゃないですか〜?」

「害が起きる前だと害がないからよ。うまく説明できないけど、つまり、魔法が”害”を”傷”と認識しないと発動してくれないの」

「認識する〜?」

「例えば呪いとかは、回復魔法や聖なる力で解くことができる」

「たしかに〜」

「それは、魔法が”呪い”を”害”と認識したからなの。精神に与える呪いが解けるのも同じ理由」

「つまり〜、その”害”を”傷”と認識させるために〜”わざと溜める”~ってことですか〜?」

「そういうことよ。より大きければ大きいほど、”傷”と認識するはず」


「それともう1つ」


アルラスが会話に割って入る。


「その”害”を取り除くには、”害”と同じくらいの魔力を使うのです。魔力中毒者になる方々は、大抵魔力保有量が多い。だから、並みの回復魔法の使い手が同じことをしても、効果が無いのです。しかし、メアリー様はとりわけ回復魔法や光魔法に関しては、この世界随一のお方です。なにせ我が国の聖女なのですから!」

「や、やめてよ!それは、元、だし」

「申し訳ございません!」

「とりあえずこの方法で行くわね。それと、キャシー。いい提案をありがと!」

「ふぁ〜い」


眠そうに返事をするキャシー。


「先生もありがとうございました。では、これにて解散!」



次の日の夕方。


「それでは始めていくね!」

「う、ん。た、のんだ」


苦しそうにするテルキ。

もうすでに限界は来ており、なんとか力を抑えている。


ー今回の治療法ー

まず、回復薬を飲み、さらにメアリーが回復魔法と光魔法をかける。重複させることで治る確率を上げる。回復薬を飲むのも、確率を上げるため。


「じゃあ、いくわよ」

「ああ。・・ゴクッ」


テルキが回復薬を飲み込むのを見届けると、メアリーは魔法を発動させた。


「聖なる精霊よ、どうかこの者を癒やし、救い願い奉る『大聖域治癒サンクリウ・ヒーリング』」


体の隅々に癒やしが行き届くイメージをする。

黃緑色に輝く魔法陣ができ、テルキを包み込む。


「我らが神アナタカ様。我に聖なる力を与え、害を滅せんと欲する『大聖域光サンクリウ・ライトニング』」


続けざまに、光魔法を放つ。

白く光輝く魔法陣は、もう一つの魔法陣と重なった。


「う、うっううーー!!」


テルキがうめき声を上げる。


遠くから見守っていたキャシーはふと疑問に思い、隣りにいるアルラスに尋ねる。


「叔父様ぁ〜。どうして〜複数人で魔法をかけないのですか〜?」


呆れた感じでアルラスは答える。


「そんなこと学校でやっただろ。いいか、回復魔法や光魔法、闇魔法など相手に干渉する魔法は、人によって干渉の仕方が異なる。色々な方法で干渉され続けると、その肉体が耐え切れずに壊れてしまう。だから、メアリー様お一人でやるのだ」

「なるほど〜!」


間延びした声の姪っ子を見て、アルラスも小さく微笑む。


おっとりとした調子のこの子だからこそ、幼い頃のあの勝ち気で負けず嫌いなメアリー様の友人でいられたのだな。


恐る恐る様子を見守るキャシーの横で、妙に納得するアルラス。



「はあ・・、はあ・・」


治療は終わった。

メアリーとテルキは同時に倒れた。

二人は騎士たちに抱えられ、医務室のベットに寝かされた。


「成功しましたか〜?」

「ああ、たぶんな。勇者様からは魔力を感じない。メアリー様は成功されたのだ」



数時間後の医務室。


先に目覚めたのはメアリーだった。

隣の寝台で静かに眠るテルキを見て、安堵する。


成功したのね!後は、今後の経過を観察するだけ。ふ~、終わったわ。これでまた、家族みんなで幸せに暮らせる!


メアリーは、おぼつかない様子で立ち上がった。全ての魔力を使い果たしたせいか、全身がまだフラフラしていた。


この極秘任務に当たった全員が喜びに包まれていたのだが・・・



治療から2日後。


  ドガッッッーーーーーーー!!!!!!!! 


深夜、突如、何かが崩れる大きな音が森中に響いた。


念のため別施設で寝ていたメアリーは何事かと飛び起きた。


「メアリー様、お休みのところを失礼します」

「どうぞ」


アルラスが寝室に入る。


「何事なの?」

「・・・実は申し上げにくい事なのですが、勇者様が中毒症状を起こし、施設を破壊しました。治療は失敗です・・・」と暗い顔のアルラス。


「・・・そうですか」


メアリーは寝室の窓の方を見ながらそう答え、窓の外の暗い闇を見つめていた。


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