fil.1 魔法中毒

その澄んだ瞳に整った鼻筋。品のある彫刻のように凛とした顔立ち。美しく輝くロングの金髪。上品な清楚感をまとった凛々しい立ち姿。そして、その透き通る白い肌を通したカーネーションピンク色のドレス。


誰もが振り向くその容姿とプロポーション。

この国の人ならば誰もが知るその人は、この国の国王の娘であり、現在は勇者クドウテルキの妻、クドウ・メアリー。


誰にでも慈悲深く、国民の聖女的存在。気高く、賢く、魔法使いとしても優秀。優しさに溢れるその笑顔は、老若男女問わず魅了する。


この国の勇者にして英雄クドウテルキも、彼女と同じくらい人気だ。


優しい顔立ちに爽やかな笑顔。逆立つ短髪の黒髪で、特徴的な額に小さな火傷の跡。長身のほっそりとした体つきだが、剣を振れば右に出る者はいない。


国民全員がこの完璧な夫婦を愛していた。



「あら、メアリー様だわ!」

「今日も、お美しいわぁ」


王都内の市場が開かれている通り。

そこを縫って通るメアリーを見て、周囲の人達が小声で話す。


「皆様、おはよううございます!」


透き通ったきれいな声が通りを明るくする。

親しみやすい元王女の周りには多くの人々が取り囲んで集まり、世間話をし始める。


それが一段落すると、メアリーは皆に別れを言い、家へと向かった。


王都内の一角にある家。

その家はけして大きくはなく、英雄と元王女が住んでいる家とはきっと誰も思わないだろう。


ただ、メアリーはこの家を気に入っていた。

家族四人が団らんできる、大きからず小さからずの丁度良い家。

門をくぐり、家に入った。


「おかあさま、おかえりなさい!」

「かあちゃま!おかえり!」

「ただいまマリー、シュンキ!」


幼い娘と息子の出迎えを受け、メアリーに笑みがこぼれる。

普段は、二人の面倒を三人の執事とメイドが見ている。


メイドたちに今後のことを話した後、その日、一日子どもたちと一緒に過ごし、次の日の朝を迎えた。



早朝、昨夜準備した荷物を持って王城へ向かう。王城の門の前には二十名ほどがメアリーを待っていた。今回、魔法中毒の勇者を治すための極秘プロジェクトのメンバーたちだ。宰相アルラスを筆頭に、メアリーの元側仕えのキャシー。魔法使い10名ほどと聖騎士10名ほど。


向かうのは王都から少し離れた場所。

テルキはすでに出発しており、メアリーたちもそれに続いて向かった。



最近のテルキは2日置きに中毒症状を起こす。

一日中それは続き、周りの建物、壁などを魔法で破壊する。

テルキが発動する魔法の威力は強大で、本気を出したら一発で町一つが滅してしまうだろう。今はなんとか、本人が自力で中毒症状を抑えているが、それでも強力な壁を壊すぐらいの威力である。今まで王都民に気づかれなかったのが不思議なくらいだ。


テルキのための治療施設は2つに分かれている。

テルキが寝泊まりする周囲を塀で囲まれた頑丈な造りの宿泊施設と、それ以外の人用の、つまり極秘プロジェクトメンバー用に、近くの丘に建造された観察用施設だ。

時間を交替しながら24時間体制で、魔法使いと聖の騎士二人ずつがテルキのいる施設の護衛および監視をしている。メアリーは基本的に、テルキと寝泊まりをする。


王家所有の土地であるため、部外者は入ってこれないようになっている。

そのため、今回の極秘任務も秘密裏に行えるのだ。



メアリーたちは到着すると、早速治すための方法を相談した。


メアリーとアルラスとキャシー。

三人は机で向かい合った。


アルラスは国王の親友として、この国を支えている宰相である。博識で人柄も良く、多くの人に慕われている。

キャシーはアルラスの姪っ子で、栗毛のおっとりとした女性。小さい頃からメアリーの側仕えをしていた。


「先生、何か方法はあるかしら?」


メアリーはアルラスに尋ねた。

実は幼い頃、アルラスに家庭教師をしてもらったことがある名残で、いまだにメアリーは彼をそう呼ぶ。


「・・・まずは、魔力について知っておいたほうが良いかと」

「魔力ですか?」

「そうです、メアリー様。魔力はどこに溜められているか知っていますか?」


少し間をおいて、メアリーが答えた。


「たしか・・・『無』の空間でしたっけ?」

「その通り。昔から伝えられているのですが、それは人物を問わず、生物の体にあるとされている『無』の空間に、魔力は溜められています。ただ、それが体のどこなのか、いまだ解明はされていません」


アルラスは話を続けた。


「その『無』の空間の大きさによって魔力保有量が決まります。そして、そこに魔力を貯めることも可能とされています。

しかし、魔力保有量を上げすぎたり、魔力を溜めたたままにしておくと、いつしかダムが決壊するように魔力が溢れてしまうのです。それが体中に溜まることで、体の器官にも害を与えます。だから自然と体はそれら魔素を体の外部に吐き出そうとして、魔法が突発的に打たれるのです」


「なるほどですね〜。でもどうして中毒症状になるんですか〜?」


のんびりとした口調で、キャシーが尋ねた。


「酒や薬物といったものと同じ原理だよ。そうやって、一時的に全ての魔力を外に放出されると、一種の快感が生まれる。さらに、魔力は勝手に補充されていきますが、魔力が入り込んだ体の器官が中毒症状を起こし、魔力を溜めてしまう。するとまた、害をなすため吐きたくなる・・・と悪循環。ただ、クールタイムはあるのが、少し利点」

「そういうことですか〜。ですが、どうして勇者様の魔力は無くなっているんですか〜?勇者様が全ての魔力を吐いたら今頃〜王都は焼け野原になりますよね〜」


「その心配は今のところないわ。これを見て」


そう言って、メアリーが取り出したのは、大きな直方体の透明な物。


「それって〜魔力動源機ですか〜?」

「そうよ」


魔力動源機。

大量の魔力を使う時に用いるもの。井戸から水をくみ上げる時や城壁の結界の維持、勇者テルキ考案の『自転車』の動力としても使われ、日常的になくてはならないものだ。


「キャシー、この魔力はどこで補充されているか知っているか?」

「う〜ん、空気中から取り出しているんですかね〜?」

「多少は空気中からも取り出せるけれど、実は魔法中毒者から集めているんだ」

「え〜〜!!そうなんですか〜!!!」


大げさなほどに驚くキャシー。


「ええ、そうよ。国で保護している中毒者が、『魔力注入インゼクシング』と魔法を魔力動源機に向けて打つと・・・ほら!」


メアリーが放った魔法は、魔力動源機に吸い寄せられた。


「すご〜い!!」

「こんなふうに魔法を取り込むから、魔力も吸われるってわけ。

ほら、よく見て。中心部分がほのかに青く光ってるでしょ?これが満帆になると、いつもの青く光るものになるってわけ。ちなみにこのことは、トップシークレット。機密技術だから」

「つまり〜魔法中毒者の方は、簡単に魔力をなくすことができて〜、国も助かっているということですか〜?」

「そういうこと!Win-Winの関係ということね」


二人の会話を見守っていたアルラスが補足する。


「魔力動源機にも制限はある。生産も大変で、一日に魔力注入インジェクシングできる個数には限りがある。現在、勇者様のその膨大な魔力を溜める物が足りず、結果、勇者様は攻撃魔法を放つことになってしまっているんだ」

「なるほど〜」と、キャシーは深くうなずいた。


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