五夜目

こんばんは。…ふふ、昨日ぶり。

来れなさそうだったら、私の方から少し手を加えようと思ったんだけれど……。

うん、問題なく来てしまったみたいだね。想ってくれるのは嬉しいけれども、流石に嬉しさより驚きだとか呆れが先に来てしまうね。

…ま、もうその辺りはどうでもいいんだ。


(SE 肌を撫でる音)


……昨夜は、私のせいでごたついてしまったからね。

今夜は、ゆっくりやろうか。

……うん、じゃあ、いつも通り。目を瞑って、ね………。


(SE 耳を塞ぐ音 徐々にフェードアウト)

(SE ちゃぷちゃぷとした水音 時々)

(SE 鈴虫やコオロギの鳴き声)


……さ、どうかな。秋の空の下なんだけれど、やけに水の音がするよねぇ……。


(SE 水を手でパシャパシャと鳴らす)


……ふふ、さて、ここは一体どこでしょう。

ヒントは……そうだな。温かいってことかな。君はまだ音ばかり聞こえるだろうけど、私は満喫させて貰ってるよ。


(声 ここからトーンを落とす)

(SE 濡れた手で髪に手櫛を通す音)


どうだい?撫でる動きが随分板についてきただろう。君にやりすぎて、慣れてきてしまったんだよ。………あは、場所が気になるかい?髪もいつもよりしっとりした音がするものね。


(SE 手で起こした波を肌にぱしゃりとぶつける音…美容院で髪に水を馴染ませるような)


…答えは“露天風呂”だよ。どうかな?気付けた?

うん?ああ、こっちは見ないでね。私が形作るイメージということは、温泉に入るときの姿、つまり服を着ていないかもしれなくて……あはは、冗談だよ。大丈夫、音だけ。だからそんな動かないで。


(SE 手で起こした波を肌にぱしゃりとぶつける音 断続的に)


…温泉で身体を休めながら、自然の音に身を預ける。

できれば現実の方でやってほしいものだけれど、君は忘れちゃうんだもんな。

…別に。怒ってはないよ。ただ、ここでどれだけ心を休めても、君の身体は休まったか怪しいから……少し、微妙な気分ではあるかも。


(間)


……ね。虫の声、わかるかい。

さっきからずっと聞こえている、これ。

……コオロギと、鈴虫。こうやって聴く分には悪くないと思うんだ。

今君が、これで癒されてたら。私はそれで十分なんだよ。


(間)


……少し、眠くなってきたかい?

安心して眠って。どうせ君のことだから、明日もまた来るんだろう?

見守っててあげるし、待ってもいるから。


(間)


……ふふ、分かった。まだ眠れないなら、もう一工夫しようじゃないか。そう……シャンプーというやつ。

せっかく温泉気分なのだから、そういうのもアリだろう?

…それに。(声 近くに)…私も少しだけ、やってみたかったんだ。


(声 元の距離に)…よし、じゃあやってみようか。

なに、これもどうせ、イメージでしかない。ただほんの少し、君に聞かせる音をリアルにできるよう私が頑張っているだけ。だから、楽しんでくれ。


(SE 手にシャンプーを出し、泡立てる音)


泡っぽい音……うーん?

多分、こんな感じだと思うんだ。


(SE 泡のついた手をぐーぱーさせる音)

(間)


……どうかな。心地よかったら何より、なんだけど。

にしても、あれだね。人のシャンプーだと少し凝りたくなる。自分だと腕が疲れるばかりなんだけれど、せっかく人にやるなら、満足して欲しいから。

…さ、どんどん洗っていくからね。目を開けないように。


(SE 髪を洗う音)


…気付いてた?香り。柑橘系の、割と私が好みなやつだよ。眠そうな顔だったから、そこまでは感じてないかな。それとも音だけで、香りまでは感じれない?…うん、いつか分かるようにしてみせるね。


(間)


……さ、少しずつ眠くなってきたかな。うとうとして、反応が鈍くなってきた。

今夜もゆっくり休むんだよ。なに、これは結局音だけのイメージで、シャンプー途中に寝てしまったって問題ないんだから。


(SE 髪に付いた泡をシャワーで流す音)


リラックスして、落ち着いて。あちらで起きてしまう寸前まで、私のことを思っていて……なんて、ふふ。最後のだけは冗談…かもね。それじゃ、おやすみ。


(SE 流す音でフェードアウト)

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夢の旅路 注文の多い死刑囚 @nemo3712

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