四夜目
……やぁ。
(声 困惑)ええと……その、どうやって来たんだい?もう此処には来ないよう処置を施したはずなんだけれど………。
(SE 肌を撫でる音)
…動かないで、調べるから。
……うぅん……………えー…………。
(声 呆れ)………あのさぁ……いや、本当によく来たね。
やっぱり、もう原因は治ってるんだけど……昨日の話、覚えてる?ほら、私に会いたいって思っていると距離が縮まるってやつ。
……君ね、忘れているくせに、その力だけでここへ来たんだよ。昨日寝た時の感情が、忘れても残っていたというべきかな。
まったく、頭が痛い問題だなぁ……そう簡単に来ていい場所じゃないんだって……。
……うん。わかった。
この機に色々、この場所のことを教え込む。そうしたらきっと、来る気も失せるはずだからさ。で、膝の上ってのも締まらないけれど……ま、いいか。リラックスしながら…だと困るけど、そのままで、うん。
まず、この場所の説明から。
ここは…精神世界、とでも呼ぶべき場所かな。ざっくり言うと、魂の状態で来れる場所。あの世とかの言い方が君には分かりやすいかな?
…あーうん、大丈夫だよ。別に死んでるわけじゃない。夢を見てる間、一種の幽体離脱をしているようなものだと思えばいいさ。魂がこっちに来てるだけで、肉体は生きてるから、夢が覚めたと認識すれば勝手に戻って行くんだよ。
でも時々、戻れなくなる子がいるんだ。現世に未練が少ない、もしくは戻りたくなくて、ここが気に入ってしまった子。君みたいな変な子だね。
そういう時に、精神的エネルギーを活性化させて、紐帯を復活……あー、えーと。肉体に戻る手助けをしているのが私だと思えばいいさ。この世界へ来にくくなるようにして、夢だと思うように記憶を消して、元の世界に返す。
だからまぁ、夢魔のようなものだと名乗ってはいた身だけれど。君たちの価値観に合わせるなら、神様の方が近い存在なのかもしれないね。迷い込んだ魂を送り返しているわけだし。
…と、ざっくりした説明だけれど、これがこの世界と私の正体さ。
つまり、君は一つ間違えばこの世界に永住、つまり死んでしまう所だったわけだよ。
(声 少し怒ったような)…分かるかな、この危うさが。それを私がどうにかしようと、物凄く頑張って活性化させたっていうのに、君と来たら………………。
(SE ため息)
………まぁ、いいよ。
今日も送り返すだけさ。
っ…さ、残念だけど、今日は旅は無し。すぐさま返させて貰うから、目を閉じて。
(SE 肌を撫でる音)
ほら、深呼吸して……瞼を閉じて……すると、眠気が………眠気が………………。
…………君、寝る気ないのかい。流石に瞼くらい閉じて欲しいんだけど………。
……そこまで離れたくないかい?
君がここを気に入ってくれるのは嬉しいけどね。
私の方は、君に、離れて…………離れて……………っ……はぁ。
…………本当に、いいんだね?夢を見続けているうちに、死ぬかもしれないけれど。
……うん。なら、もう止めないよ。そもそも、私には止める資格もなかったんだ。
だって、君が覚えてしまうように御呪いをかけたのは私なんだからさ。
こういうことになるなんて予想もしなかったけれど、始まりは結局私の特別扱いからなんだ。だったら、最後まで責任は取らなきゃね。
…大丈夫。死なせやしないさ。君が入り浸ったって平気なように、どうにかする。してみせる。だから、その…………遠慮せず、また、来るといい。別に、君といる時間が嫌いになったわけじゃないんだ。私のせいで君が死ぬなんて、嫌だっただけ。
……ああ、もう。柄でもないことばかり喋ってしまったような気がする。
この事だけ忘れるような御呪いは……あは、冗談だよ。
…さ、寝たまえ。勝手だけど、今夜はもう話し疲れてしまった。
旅をさせてあげる元気は無いから、これで我慢してくれ。
(SE 髪を撫でる音)
(間)
…こちらで意識が飛んで、あっちで起きた時には、忘れてしまうだろうけど。
それでも、忘れないでほしい。
君のそばに、私がいるってことを。疲れた時は、やってきていいんだということを。その障害は、さっきも言った通り、どうにかするからさ。
……うん。安心してくれたら、何より。
それじゃ、おやすみだ。……良い目覚めを、ね。
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