三夜目

おや。今夜も来てしまったのか。

…悪い子だね、君は。本当に。


(SE 微かな衣擦れの音)


おっと、動かない。夢の中とはいえ、落ちたら痛いんだよ?…全く、毎回来る場所が変わるとはいえ、君のような子は初だよ。日に日に距離が近づいていくとは思っていたけれど……まさか、最初から膝の上で目覚めるなんてね。


(SE 頭を撫でる音)


昨日もそうだけれど、その場所、気に入ってしまったのかい?私は気にしないタチだけれど、皆がそうではないから。周りに頼むと引かれる……といっても、覚えてやいないんだったか。君の方は起きた時には忘れてしまっているのだものね。

……そんな顔をしてはいけないよ。夢を忘れるのは人間にとって当然のことなんだから。

…さ、暗い話はやめて、今日もまた、夢の旅へ。さぁ、目を瞑って……。


(SE 耳を手で塞ぐ音 フェードアウト)

(声 声のトーンを抑え、これから続く環境音を主役に)


(声 かなり距離を近づけて)……こうやって眼を塞いでしまえば、きみは私の体温と、私の語る世界だけに包まれる。いつも通り、ね。

想像して、身体を、リラックスさせて。雨の降る、自然の中へ。


(間)


湿った風が、草むらを揺らし…。


(SE 草むらの揺れる音 小さめ 続ける)

(間)


降り注ぐ小雨が、身の回りの音以外をシャットアウトする…。


(SE 小雨の音 続ける)

(声 穏やかな息遣いの音で存在感を出しつつ間を開ける)


(声 元の距離に戻す)どうかな。なかなか、雨の日に自然の中で耳を澄ませることなんてないから、新鮮だろう。…三度目だから慣れてきているのだろうけど、これは君を寝かすためなんだからね。あまりはしゃがないように。

あと、夢が覚めてからやってはいけないよ。風邪を引いてしまってはいけないから……と(声 少し儚げに)……そういえば、覚えていないんだったね。


(間)


(声 優しく)……眠くなってきたかい?

眠れば、この夢は終わる。私の体温に身体を委ねて、意識を手放すだけ。


(少し長めの間)


…ふふ、眠らないんだね。

(かなり距離を近づけて)なら、もう少しだけ旅を続けよう。


(SE 耳を塞いでいた手を離す音)


さぁ、次は……そうだ、海に行こうか。うっすら気付いてるかもしれないけど、水の音が好きな私は、波の音がいっとうお気に入りなんだ。


(SE 耳を塞ぐ音)

(SE 草むらの音だけ終了)

(SE 雨の音 さらに小さめに)

(間)


浜辺、穏やかな波が、寄せては返す。


(間)

(SE 波の音をフェードイン)


まだ少し、雨が降っているみたいだね。


(間)


少し、肌寒い気分になるかな。


(SE 抱きしめるような衣擦れの音)


…暫くは、このままでいようか。


(間)


(声 小さな欠伸)…こうやってくっついていると、私まで眠くなってきそうな気がするよ。夢魔のようなものなのにね、ふふ………君は、どうかな。無理をしないで、眠くなったら寝るようにね。大丈夫、いつも通り、君が意識を飛ばすまでは、離さないでいてやるとも……。


(SE 軽く撫でる音 しばらく)

(間)


(声 元の距離に)……まだ意識が落ちないか。どうやら、今日の君は相当疲れているらしいね。そうなると、もう少しだけ。うん………。

(声 更に近くに)……本当に、もう少しだけだから。たまには温もりの方を強く感じてみたらどうだろう。ほら、効果があるかもしれないし。


(SE 衣擦れの音…膝の上で少し位置が移動した音)


………その、眠るためなんだから、ちゃんと目は瞑っておくようにね。

じゃあ、いくよ。


(SE 耳を優しく掴む音…今までのー肌より距離が近めの触れる音)


……痛くはないね?あまり人に触れた経験はないから、何か困ったことがあればちゃんと言っておくれよ。

……うん。なら、いいんだ。


(SE 耳を塞ぐように潰した時のぐにゃりとした音)


……こう、かな。君の記憶を参考に、動画とやらのを再現してみたんだけれど……。

(声 悪戯げに)…ああ、大丈夫。君の好みは多少なりとも分かっているつもりだよ。


(SE 耳に息を一瞬吹きかける音)

(SE 一拍置いてくすりと笑う)


…ね。

手が冷たくないか心配していたけど…これなら、むしろ冷えた方が心地いいのかな、なんて。続けるよ。


(SE 耳を掌で潰して回すような音を続ける)

(間)


……これ、記憶を辿るだけだと何が良いのか分からなかったけど。君の反応を見てる分には楽しいね。

うん。気付いてない?瞼にすごく力が入って、眉間に皺が寄ってるよ。ふふ、緊張してるのかな。


(SE 耳を手で握りしめるような音の繰り返し)


ほら、リラックス、リラックス…。


(SE終了)


…逆に緊張しちゃうよね。ごめん、ちょっと悪戯しすぎた。

君の反応が面白くって、つい。

大丈夫、ここからは優しくやるよ。


(SE 耳を掌でこする音)

(長い間)


………実はね。今日、わざわざこんなにぺたぺた触れているのには訳があってさ。

なんというかな…そう、夢魔パワーでね。君の精神的エネルギーが回復するよう促しているのさ。だからこれで、君はここに来なくて済むようになる。

良いことなんだからね?


(SE 深いため息)


……君は、分からないだろうけど。


(SE 衣擦れの音)


こら、動かない。大丈夫、そろそろ意識が薄れてくる頃だから…ほら。

(声 優しげに)大丈夫、起きた時には全て忘れているさ。だから、ゆっくりおやすみ……。

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