春眠

だらりグダクダと午前中をベッドで消費したふたりは、のろのろ昼食を済ませ、今度はリビングでだらだらしていた。

滅多にない揃った休日の過ごし方は、もう何年も前から一緒にだらけるが定着していた。

予定を組んで出掛けるとあらば全力で元気な初晴も、完璧な外見通りさを外出時には貫く菖蒲も、だらんとべちゃーんと、ソファで凭れ合う蜜月に夢中だった。

こういうのが、いちばん、よい。

長い付き合いの末の結論だった故、会話無くとも密着してれば何も問題が無かった。


「あ、洗濯物、取り込んでくる」


菖蒲の膝で蕩けていた初晴は勢いよく起き上がった。

天気だったから外に干したのを思い出したのだ。

いそいそベランダに出ると、午前中の快晴が灰色に塗り替わっていた。

半袖に染み渡る冷風が吹き荒れていたのだ。

初晴は顔を歪めながら洗濯物を取り込んだ。


「半袖で何してんだ」


急な寒さで身を縮めていた初晴に、何か温かいものが掛けられる。

菖蒲が着ていたカーディガンだった。

初晴にはオーバーサイズで、温もりが残っててすごく温い。


「春なのに、寒い」


「春はいつもそうだろ」


そう言って菖蒲は手際よく洗濯物を取り込み、初晴も手を動かした。

片手にカゴ、片手に初晴の下着を持っても、恰好が良いのが菖蒲。


「色気の無い下着」


「俺に色気出たら困るの菖蒲だろ」


「困らないが?」


「…」


それはつまりそういう下着を履けということ?

初晴は想像して羞恥で顔を赤く染め、黙ってしまう。


「ここからでも見えるのか」


「ああ、桜?…うん、みえるよな…」


ふ、と紫の双眸が景色へ桜へ向いてしまう。


「…」


いつまで見てんだろ、と初晴は菖蒲の下着を握り締めた。


「…花に現抜かしてる余裕、無いから安心しろよ」


菖蒲に微笑みながらそんなことを言われ、初晴は先ほどより体温が上昇したのを感じた。

それは、その。

心の中で激しくどもる。

それでも、と、初晴は菖蒲の手を握った。


「それは」


「何」


「そーしてくんない」


「うん」


「そーじゃないと、困る」


最後の方は消えいった。

ああ、なんて女々しいことを口にしちゃったんだと。


「…初晴」


菖蒲の声は優しかった。

紫の双眸には、愛情ばっかり灯ってた。

そうさ困るのだ。

それを花に向けられるのだって。


「俺も困るから」


「あやめ…」


「そうしてくれ」


「っ…そうするぅ…」


確かめるように繋いだ手、力を籠める。

応えるように握り返される。

にやけた。

なんだかほっとした。


「寒いから、戻ろ」


「うんっ」


初晴は菖蒲に連れられ室内へ戻ってソファじゃなくてベッドへ潜り込む。

ちゃんと閉じられなかったベランダの隙間から風が、桜のはなびら飛び込んだ。

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