花見

今年は晴れ間に桜は見れなさそうだ、と諦めていた初晴はお花見する早朝、晴天でひゃっほうと飛び跳ねてしまった。


「嬉しそうだな」


「そりゃあまぁなぁ」


「支度は」


「出来てる」


「じゃあ行くか」


「参ろうぜー参ろうぜー」


春の木漏れ日が雲の隙間からしっかり世界を暖めている。

風は、あまり吹いてない。

曇る要素も不安も感じられないお天気に、初晴は喜び勇み菖蒲の手を取った。


「いつも思うが、桜って逃げるのか?」


「逃げないけどっ、分ってるけどっ、やめらんねぇのっ」


素っ気なく「そ」と呟く声色は慈愛に満ちていた。

昨日と一昨日、冬に逆戻りしたかのような冷たい風が吹き荒れていた。

だけど日中晴れて気温が上昇したもんだから、桜は咲いた。

満開だ。

その薄桃さくら色の世界は儚いから、初晴はわざと足を重くしてる菖蒲を引っ張た。

歩道の上に花びらが敷かれてた。

何処からともなく花びらが舞い落ちる。

歩いているだけで満たされる。

一年経つと忘れてしまうのは、やはり儚い満開だからだろう。


「きれーだなぁ」


「そうだな」


初晴は素直に同意してくれた菖蒲を盗み見る。

立ち止まり、見上げている、桜を。

初晴は素早くスマホのカメラで写真を撮った。

美しい、と言うような顔をしたひとの横顔は、なにより綺麗だった。


「んふー今年も撮れた。花より菖蒲」


「好きだな」


「仕方ねぇだろ、好きなんだから」


「そ」


「そぉー」


軽妙に掛け合った後真顔、それからうふふといつも通り笑い合う。

初晴は照れ笑いだった。

菖蒲のそれは、愛情一杯だった。

あつい、と感じる日差しと同じ熱量が籠っている。

そう感じさせられた初晴は「な、なんか飲もうか!」「そうだな」誤魔化す為に食欲を押し出すこととした。

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