小春日和
小春日和。
そうだ小春日和という言葉がとてつもなくお似合いな天候だ。
春なのに。
初晴はもはや何を身に纏えば良いのかわかんなくなっていた。
だって暦の上では春なのに、日差し暖かいのに、秋冬のやうなちべたい風が吹くのだ。
空気が、冷たいのだ。
でも太陽は暖かい。
そして春。
このなんとも言えぬ季節の境目に、何を着たら良いのです?
初晴はクローゼットの前で硬直してしまっていた。
ただの買い物だったなら、パーカー着て終わり、だ。
だが、デートなのだ。
これからデートなのだ。
晴れた日でもどんな天候でも場所でも美青年さが増す菖蒲とのデートなのだ。
ちゃんとしたい。
「初晴、行くぞ」
「ぇ」
考えが纏まらなくって放心状態になっていた初晴は、軽やかなジャケットスタイルの菖蒲に若干苛ついてしまった。
は?なんでんなにカッコイイんだ?
それが顔に出ていたのかどうか、菖蒲が手にしていた物を初晴の首に掛ける。
「ストール一枚、あればいいんだよ」
「ぉ」
それは春らしい明るい紫と緑のストールで、良く見たら菖蒲も首に掛けていた。
お揃いってやつだった。
「首さえ暖かければ良い。暑ければ取れば良い」
そんなストールを、くるっとふわっときゅむっとされて、鏡の前にきちんとした自分が出来上がったのを見た初晴は、
「知ってんだけどさ」
「何」
「菖蒲って天才だなっ」
本当に天才頭良い凄い。
初晴はしみじみ、目をきらきら、菖蒲を素直に褒め称えた。
「…はいはい、ありがと」
菖蒲が照れを苦笑いで誤魔化して「行くぞ」と肩を叩くから、初晴はちょっとスキップ気味に「うんっ」と言ってその背を押した。
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