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狐照
春告げる鳥
ただいま、おかえり、とやりとりしてから色々あって数分後。
珍しくぐだっとした格好でスマホを片手にソファに座って居る菖蒲の隣に、初晴はちょこっと座った。
「今日さ、鳥、見つけたんだ」
「そう」
「嘴が黄色だった」
「へぇ」
「雀よりちょいデカかった」
「ふぅん」
「で身体が全体的に孔雀みたいな緑色だった」
ぐぐぐぐーっと菖蒲に寄り掛かり、初晴そっと手を握り締める。
昨日も一昨日も触ったのに、はじめて触ってしまった背徳感を覚えるのは何故だろうか。
触れてはいけない美術品、無遠慮に滑らかさを堪能する。
健康的に焼けた自分の手の荒々しさが、きめ細やかな白い肌と細長い指先によって浮き彫りになる。
「なんの鳥か、分かる?」
至近距離から見た所で菖蒲が損なう部分なぞなくって、むしろ良さばかりが増して見えた。
何年経っても綺麗は綺麗、衰えぬ。
むしろ増してるような美と妖しさに、初晴は不覚にもいつも通り胸が高鳴った。
「今まで見たことないヤツだった」
肩に顎を乗せ問うと、濃い紫の双眸が、ゆっくり初晴に向く。
慣れてるのに逃げたくなる。
多分永久に、この瞳に閉じ込められるというのは面映ゆい。
「…何処で見かけたんだ?」
「朝出勤する時、植え込みに居たんだぜっ」
「この時期に珍しい鳥、となると渡り鳥?嘴が黄色?この、シロハラじゃないか?」
菖蒲はするする片手でスマホを操作し、初晴に検索した鳥の画像を見せた。
「うーん…似てるけどなんか違うなぁ。濃い緑だった」
「…朝日で色が変わって見えたんじゃないか?」
これはツグミだと見せられるが、初晴は違う違うと顎で肩をぐりぐりした。
「ううん、ビンズイ…マヒワ…カワヒラは違う、か…」
次々候補を見せられるが、初晴は一切妥協しなかった。
いや本当に全部違うのだ。
「あのさ、菖蒲」
「何だ」
「明日、休みだよな」
「そうだけど」
「俺も」
「知ってる」
「ちょっとその辺一緒にさ、歩こうぜ、明日、朝、デート、な?」
初晴ュは言った途端に頬が熱くなった。
菖蒲とはもう長い付き合いなのに、どうしていつもいつもこうも照れるのか。
息をすると麗しい薫りが鼻腔一杯胸一杯。
離れたくなる、離れたくないので踏ん張る。
「…ふぅん…」
スマホを操作する為に逸らされてた視線が初晴に戻る。
紫の眼の魔力だろうか、唇の合わせてるトコがもぞもぞしてしまう。
アイコンタクト、慣れて親しんでるはずなのに、意識するととことん駄目だった。
だって嬉しそうに微笑むんだもの。
無反応が反転、指交差して抱き締められる。
思わずへへっと、初晴は声を洩らした。
「いいよ…ふふ、うん、実に佳い提案だ初晴」
「だろぅ?」
的皪見せ合い、そのまま軽く唇触れ合い、それから明日の話をポツポツと。
ゆっくりゆっくり、雨水の夜、更ける。
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