第6話 魔王と勇者と、世界平和!

 //SE 街の人が、がやがやと賑わう音。


「おお、勇者よ! やーーーっと目を覚ましたか。わらわは待ちくたびれたぞ!」


「なに? 幼女体系からなんだか大人っぽくなっていると?」


「そうじゃろ。お前はかなーーり長い間眠っておったからの」



「今のわらわは、お前が眠りについた時と同いくらいの歳じゃな!」


「ん? ここは、人間の街じゃ」


 //SE 街の人が、がやがやと賑わう音。


「なんで、人間の街にいるのかって? それと、なんだか美味しそうな料理があるなって?」


「勇者よ、質問は一つずつにするのじゃ。ここは、わらわと爺やとお前の暮らす家じゃ。順を追ってはなしてやるわい」



「次の質問も、まずは答えるぞ。わらわは、お前が寝てる間に、いろんな職業を転々として覚えたのだぞ! これを作るまでにどんな苦労があったか」


「胸の傷? どんどん質問するでない。お前の傷は、ちゃんと塞がっておるじゃろ。わらわが直したのじゃ」


 //SE ぐつぐつと鍋が煮える音。


「ちょっと待っておれ。お味噌汁が出来上がるところじゃ」


 //SE カチャカチャ。朝ごはんをしたくする音。



「起きてすぐじゃ、腹も減ったろ。一緒に、いただきますじゃ!」


「話してやるから、お前はゆっくり朝飯でも食べて聞いておれ。お前は一度死んでおったのじゃ」


 //SE カチャーン。フォークを落とす音。



「おいおい、落とすでない。新しいのを使え。お前を生き返らせたのじゃ。死者蘇生術というやつじゃ」



「そんな険しい顔をしてもじゃな。倫理に違反するって言われても。お前は、魔王に向かって何を言っておるのだ?」



「まずは黙って聞いておれ。死者蘇生は禁則魔法じゃ。それを使うとなると、何もリスクが無かったわけじゃない。代償は自分の寿命半分が無くなる事じゃ」



 //SE カチャーン。フォークを落とす音。



「もう拾ってやらぬ。自分で拾え」


「……寿命の半分、それさえも惜しくはない。お前とまた一緒に生きられるならな。ほらほら、気にせず食べろ食べろ」



「そうそう。お前が寝てる間にな、世界を平和にしといたんだぞ」



 //SE カチャーン。フォークを落とす音。



「いや、また険しい顔をするんじゃない。朝ごはんのお供の、かるーい会話じゃ。ゆるーく聞いておれ」


「なに? 人間界を破滅させたんじゃないぞ。ちゃんと正攻法じゃ。私の手にかかればちょちょいのちょいじゃ」


「……そうは言っても、私がこんな大人に成長するくらいには、時間がかかったがの」


「王を誘拐したりなんてしてないわ。聖教会を盾になんてしていないし、大富豪を捕まえたりもしてないわ!」


「……疑い深いのじゃな。ちゃんと正当な手段じゃ!」


「だから、人間を滅ぼしてないわ。私は子供か! まぁ、昔は子供だったがの……」


「あれから何年たったと思っておる? 12年じゃ。お前が死んでしまったあの日、人間の世界へと行き王と交渉をしたのじゃ」


「不平等だったかも知れないが、その場で和平を結んできたぞ。和平のために、わらわの領土をほとんどあげてやったわい」


「私の城も含めて、全部じゃ。あと、魔力もほとんど提供してやったわ」


「その代わりに、わらわも人間と同じく扱って欲しいと頼んだのじゃ」


「それで、この街で一から生活を始めたのじゃ」



「色んな職業を転々としたんじゃよ。爺やと悪戦苦闘しながらの」


「その間に知ったのじゃ。死者蘇生なんて魔法があるのを」


「そこから、魔法教室に通ってじゃな。魔力も無くなっているから、それこそ一からじゃ。けど、魔王だけあって魔法の素質はあるって言われたぞ! ははは」



「だが、死者蘇生は光魔法。覚えるのにはとっても苦労したぞ。適正ってものがあるらしいな」


「勇者のお前ならすぐ覚えられたじゃろう。そこは悔しかったが、頑張ったんじゃぞ」



「死者への冒涜だろうが、禁術じゃろうが、魔王には関係ないじゃろ。勇者を生き返らせるためと聞いたら、みんな黙って協力してくれたぞ。やっぱりお前の人望はすごかったのじゃ」



 //SE カチャーン。食事をする音。



「わらわはな、お前がいればよかったのじゃ。だからわらわの寿命をな、半分分けたのじゃ」


「ははは。泣いて喜べ!」


「死者蘇生して、心臓が動き出してからも長かったのじゃ。全然お前は起きないし」


「こうやって、毎日朝ごはんを作り続けてじゃな……」


 //SE 抱き着く音。



「……やっぱり我慢できぬ」


「……起きてくれて、本当に良かったぞ。ずっと起きないかと思っておったのじゃ」 //涙声。


「……別に泣いてなんかないぞ! 顔を見るんじゃない」


「何か目の下にあるとしたら、それは泣きぼくろじゃ! 昔から、あったわい。わらわは泣き虫なのじゃ!」



「……わらわをもう泣かす出ないぞ? 次にお前が死ぬときは、ちゃんと寿命で死ぬのじゃ。わらわも寿命をも全うして死ぬから」


「寿命を半分分けたってことは、私とお前は同じ寿命ってことじゃ。次に死ぬときは一緒に死ねるぞ」


「光栄に思え。いや、私も死にたくはないぞ。けど、どっちかが寂しい思いをしなくて済むってことじゃ」



「……あんな思いは、もう嫌じゃ。お前にさせるのも嫌じゃ。わらわは優しいのじゃ」


「一緒に生きるぞ! 勇者!」


「寿命の半分? ははは。気にするでない。魔王の寿命は人間と違って、数百年はあるぞ!」


「寿命が尽きるまで一緒に暮らすのじゃ」



「私は魔王じゃぞ。わがままで結構! 欲しいものを手に入れるのが魔王じゃ」


「そうじゃろ、勇者よ」


 //SE 抱きしめる音。



「……そうじゃ、勇者よ。 なんと、わらわとお前でも子供ができるらしいぞ!」


「爺やが言っていたのじゃ。やり方は勇者に聞けって言っておった。お前なら知っておるのか?」


「何顔を赤らめておるんじゃ」


「わらわも少しくらいは知ってはいるが。……え、ちょっと待て。脱ぐんじゃない! バカ! あほ!」



「一旦落ち着け。そんなことよりも、わらわは、クレープ屋さんをしたいのじゃ! 早く服を着ろ!」


「勇者よ。お前を蘇らせたことで、借りはチャラにしてもらおう! 蘇ったからには、楽しく生きようぞ!」

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