第4話 魔王と勇者と、平和会議!

 //SE コツコツと、石の床を歩く音。


「勇者よ。なぜ魔王城まで来たのじゃ? わらわは、人間は滅ぼさないといったじゃろ」


「なのに、なぜまたこんな辺鄙なところまで歩いてきて。お前の役目も終わったじゃろ?」


「わらわのことを信じていないのか?」



「信じてると。相変わらず真っすぐした目で言わなくていい」


「お前がわらわを信じてくれているは、とてもありがたいことじゃ。なんだか胸の辺りがほっこりするぞ」


「ならばなぜここにいるのじゃ?」

「なに? 行く場所が無いのか? ここに住まわせて欲しいと」


「捨て猫じゃなるまいし、そんなこと言われてもじゃな……」



「なになに。勇者とは、魔王を倒すために雇われるものなのか。それで、わらわを倒さなくて良くなったから、仕事がなくなったと」


「そんなことを言われてもじゃな。」


「倒したわけじゃないから英雄にもなれないと。そんなクレームを言われてもじゃな。お前がわらわを説得する道を選んだのじゃ?」



「これで一件落着じゃろ。そもそもじゃな、そういう話はそなたの雇用主に相談をすればよかろう」


「なに。王様は厳しい人なのか? ブラック企業? そんなことをわらわに言われても」


「何か成果を上げればいいのじゃな? そうしたら、勇者よ。世界平和が形に見えるように、わらわと一緒に活動をするかの」


「そのためならば、しょうがない。わらわも一肌脱ごう!」


「そういうことであれば、ここに住むのを許可しよう。世界平和が形になったら、出ていくのじゃぞ?」



「うんうん。相変わらず素直で良いのお前は」」


「そうしたら、まずは何をするかの? 作戦会議じゃな。王座の間にでも行こうかの」



「お前は、知らなかったのか? あそこはミーティングスペースになっておるのだぞ?」


「広いし、声も良く通る。あとは、何と言っても、あそこの椅子は長時間座っていても疲れないのじゃ! 私のお気に入りじゃ」


「座ってみたいと申すか?」


「うーむ。ここに住む許可はしたが、わらわの椅子に座るのはダメじゃ! わらわのお気に入りの椅子じゃ」


「絶対にダメじゃ! 魔王だけが座れる玉座じゃ! 絶対にダメ!」



「昔から、これに座るのが夢だったと? そういうことは、やっぱり人間界の王にでも頼め」


「魔王を倒せば、王座が約束されていたのか……。そうであれば、わらわはお前の夢を一つ壊してしまったことになるのか?」


「そういうことなのか。わらわのせいという事であれば、しょうがない。少しくらいなら座っても良いぞ」



「あんまり汗とかをつけるではないぞ? わらわは、その間立っておるか」


 //SE どさっと椅子に座る音。



「うーむ。なんかこれは嫌な光景じゃの……。わらわがお前の下について働いているみたいじゃ」


「一緒に住むにしても、お前の方が位は下じゃ! わらわが魔王ぞ!」


「勇者よ、やっぱり私にも座らせろ!」



 //SE コツコツコツ。石の床を歩く音。


「ふふふ。別に、お前はどかなくて良いぞ!」


「わらわは、魔王じゃ。どんな者の上にも立つ立場じゃ。おぬしの上にいさせてもらおう」


「よいしょ」


 //SE もそもそと椅子に座る音。


「ん? 顔が近い? それはそうじゃ。椅子というものは、しっかりと背もたれを使ってこそ、くつろげるのじゃ」 //左からの声。


「なんじゃなんじゃ。恥ずかしがるでないぞ。わらわがくつろげぬではないか。」 //左からの声。


「ちょっと体制を戻すか。それにしても、お前の太ももは硬いのぉ……」


「力を入れるでない! 何か緊張しておるのか?」


「リラックスするのじゃ。大丈夫、初めての会議じゃ。お前にあまり厳しくはしないでおいてやろう」


「ふふふ。わらわは優しいのじゃ。お前には借りもあるしな」


 //SE もそもそと体制を変える音。



「それにしても、固い! リラックスせいと言うておるじゃろ。足の筋肉がこわばっておるぞ」


 //SE パシパシ。太ももを叩く音。



「ここじゃここ。腿の筋肉。まさか、凝っておるのか?」


 //SE 椅子を立ち上がる音。



「わらわが、少しマッサージをしてやろう! 喜べ! 魔王直々にしてやるのじゃ。こんなサービス滅諦ないぞ?」


 //SE カサカサ。布がすれる音。


「たくましい体をしておるのお。さすが勇者じゃな!」



 //SE カサカサ。布がすれる音。


「意外とよいのお。人間の筋肉というものは、程よく硬くて。なかなか良い」



 //SE カサカサ。布がすれる音。


「わらわは、そういうのが好きというわけじゃないぞ! 勘違いするなよ! これから会議は長いのじゃよ。椅子としての座り心地をじゃな」


 //SE コツコツコツコツ。石の床を歩く音。



「あ、爺や。これはな、新しく勇者を椅子として使ってやろうと」


「いや、特に恥ずかしいことなどしてはおらぬぞ! わらわは椅子の調子を整えておってじゃな」


「勇者! お前が固いから行けないじゃ! 早く力を抜け!」


 //SE もそもそと椅子に座る音。


「うむ。さっきよりかは良い感じになったぞ」


「ありがとう」//近くでささやくように。



「よし、勇者よ。会議を始めるぞ! 好きなだけ意見を言うのじゃぞ!」

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