第3話 魔王と勇者と、美味しいクレープ!

//SE 街の人が、がやがやと賑わう音。


「勇者よ。お前の言うことは確かにあっているのかもしれないな。街の人が逃げなくなったぞ。」


「このフリフリな服でも、特に何も言われないのだな。人々に逃げられなくなったとしても、笑われたりするかと思っておったぞ」


「意外と良いかもしれないな? どうじゃ? 私は可愛いか?」


「うむうむ。ストレートに褒めしてもらうと嬉しいのお」


「そこは、お前の良いところじゃな! 意見が真っすぐしている。そして、それが人に伝わるというところが良いな!」


「しかし、ちょっとだけ恥ずかしくもなるのじゃな。こんなことは初めてじゃ」


「勇者よ。人間の街を歩いてみて思うたのじゃが、人間というものも良い物じゃな。魔王城付近では感じられない、暖かい日差し賑わう人々の声」


//SE 街の人が、がやがやと賑わう音。



「あっ!あれはなんじゃ! クレープというのか? 食べ物なのじゃな。美味しそうじゃのぉ」


「けれども、わらわには人間界でいうお金というものが無いのじゃ。残念じゃが諦めるしかないかのぉ」



「なに、勇者よ! わらわのために買ってくれるのか! 良い笑顔じゃ。お前は本当に良いやつじゃな。ありがとう!」



「ふふふ。わらわだって素直にお礼だっていうのじゃ」


「お前のおごりということじゃな。これは、一つ借りじゃな。いつか必ず返す!」


//SE 街の人が、がやがやと賑わう音。


「おお、お前の分と私の分と二つ買ってきたのじゃな。少し座って食べようぞ」


//SE 椅子を引く音。



「これは、こうやって食べるのじゃな。はむはむ」


//SE クレープを咀嚼する音。



「柔らかい。そして、甘い! 後から来るイチゴとやらの酸味もあって、これはなかなか美味い」


「一口でこんなに楽しめるとは。勇者よ! これは美味しいぞ!」


「人間界にはこんなおいしいものがあるのじゃな!素晴らしいぞ!」



「ん? 勇者よ、お前が食べているのは、何じゃ? チョコレートクレープというのか?」


「黒いのぉ。そちらこそ、魔王のわらわにふさわしいのではないか? ちょっとくれ」



「わらわは、魔王ぞ。欲しいものはすべて手に入れる。けど、人の物を無理やり取るのは良くないと。お前のその瞳で言われると、説得力がすごいのじゃ」


「うーむ。また、借りを作ることになるが、どうか一口だけ分けて欲しい。これで良いか?」



「どうかお願いじゃ、何でもするぞ! お前の趣味であろうこんなフリフリな服。もっともっと、色んな服を来てやっても良いぞ」


「お願いじゃー」 //右からの声。

「お願いなのじゃー」 //左からの声。



「おお! 良いと申すか! さすが勇者じゃ! 見込みのある男じゃ!」


「ほれ、わらわの口まで持ってくるが良い。わらわは、口を開けて待っておるぞ!」


「あーん」


//SE 椅子を引く音。


「はむはむ。美味しい!」


//SE クレープを咀嚼する音。



「良いの良いのー! チョコレートがこんなに美味しいとは」


「なに? 勇者よ。今あげた代わりに、こちらのイチゴクレープが欲しいと申すか。しょうがない、借りはすぐ返すに限るしな。ほれ口を開けろ!」


「あーん」


//SE 椅子を引く音。



「どうじゃ? 美味しいか? わらわのお気に入りじゃ! 良いじゃろ良いじゃろ」


「なんじゃ、にやけおって。気色悪いぞ。とりあえず、わらわは自分の方を食べちゃうぞ!」



//SE クレープを咀嚼する音。



「ふぅ。美味しかった。ごちそうさまじゃ」


「ん? どうした、わらわの顔をまじまじと見て。ほっぺに何かついているのか?」


「わらわの顔にクリームが付いていると」


「失礼したの。先程食べた時についてしまったのじゃな。拭かせてもらおう。」



「おいおい勇者よ。わらわの手を止めるでない。そんなに強くつかまれてしまっては、拭くものも拭けぬ!」


「拭いてしまうのは、もったいない?」


「おい! 人のほっぺに着いたチョコレートを、勝手に食べるでない! そんな、何がついているやら……」



「いや、それでも美味しいと申すか。そうか。クレープは偉大ということじゃな」



「うーむ勇者よ。なんだか、わらわは今までに感じたことが無い幸せを感じているぞ」


「魔王城では感じられなかった……。こんな幸せな気持ちは初めてじゃ。勇者よ! 連れ出してくれてありがとう!」


「わらわは決めたぞ! 人間を滅ぼすのはやっぱりやめよう! そうと決まれば、魔王城へ戻って、魔王軍に解散命令を出そう!」


「みんな揃って、クレープ屋さんなんてものを作るのもいいかも知れぬな!」


「そうなったら、お前を初めて客にしてやるぞ! 喜べ! ははは!」

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