第2話 魔王と勇者と、オシャレなお着替え!
//SE 街の人々が、がやがやと賑わう音。
「人間の街へ着いたな。これからどうやって説得をするのじゃ」
「街の人を集めて演説をするというのか? それは頼もしいが、上手く行くのか?」
「……って、街の人が集まってきたら、わらわに気づいてパニックになり始めたぞ勇者よ。どうするのじゃ勇者よ」
「集まった人々に向かって、カッコよくポーズを決めて」
//SE パチパチ。拍手する音。
「拍手されておるのではない。お前の力は信じておるが、どうも不安じゃな……」
//SE カシャン。カシャン。金属製の鎧を脱ぐ音。
「おいおい、勇者よ。なぜ服を脱ぐのじゃ。説得するときに服を脱ぐのは人間相手にも有効なのか?」
//SE カシャン。カシャン。金属製の小手を脱ぐ音。
「いや、勇者よ。あまりにも突飛な行動だと、皆が驚いておるぞ。わらわは見慣れたが……」
「お前を信じて任せて良いものか……」
//SE 街の人が、がやがやと賑わう音。
「おい、勇者よ。わらわが、お前を操っているみたいと街の人が言うておるじゃないか? これはまずくないか?」
「なに? わらわも、この装備を脱げと。いや、これを脱いでしまっては、恥ずかしい恰好に……」
「こんな大衆の面前で脱げというのか。これも世界平和のためなのか?」
「これさえ脱げばよいのじゃな。わらわの、自称グラマラスなボディがあらわになるぞ?」
「……これを脱ぐ」
「……うう」
「……う」
「勇者よ!! どんなプレイをさせようというのじや!! 絶対にダメじゃ!」
「とりあえず、退散じゃ!!」
//SE 羽ばた羽の音飛び立つ音。
//SE 上空の風が吹き抜ける音。羽ばたく音。
「勇者よ、急いで飛び立ったから、お前を裸のまま連れてきてしまった。何で裸のお前を抱きかかえて飛ばねばならんのじゃ、まったく……。作戦は失敗じゃ」
「わらわが脱がなかったのが悪いとかじゃない。根本的な作戦ミスじゃ!」
「そもそも、説得させるっていう時になると、何で服を脱ぎだすのじゃ」
「武器は持ってないアピールかも知れないが、よくよく考えればお前は素手でも強いじゃろ。魔法だって使えるわけじゃ。街の人よりもはるかに強いのじゃ」
「わらわが脱ごうかどうしようか迷っている間に、お前は裸で街の人を追いかけ回すし。裸で走り回る奴の話なんて誰も聞かないのじゃ。一旦頭を冷やして考え直せ!」
//SE 羽ばたく羽の音。着地する音。
「まったく。どうしようもなくなったから一旦魔王城まで戻ってきたが。街の人を説得できなかったが、この状況をどうするんじゃ? 何か他に作戦は無いのか?」
「今の移動中に、次の作戦を考えたと? お前の事だから期待しないで聞くが。言うてみよ」
「なになに? そもそも、わらわの恰好が怖いから人間たちが怖がると」
「脱がないなら、わらわの衣装を替えて、村に行けば大丈夫というこのなのじゃな? 原因はそこじゃない気がするんじゃがな」
//SE サササー。道具袋から服を出す音。
「どうした勇者よ。お前の万能の道具袋。見た目にそぐわずなんでも入ると聞いておるが。そこから取り出したこの服はなんじゃ」
「これは、村の娘が着る服なのか? こんな服が流行っておるのか?」
「というか、なぜお前がそんなものを持っているのじゃ。……いや、深くは聞かぬ。お前はきっとそういうやつなのじゃ」
「この服、こんなフリフリが付いていて。こういう服を着る人間とは、つくづく不思議な生き物じゃ」
「腕の部分はなんじゃ、袖が短いのは百歩譲ってわかるのじゃ。袖口に、なにやらフリフリがついているのじゃな。しかもこの素材はなんじゃ? 防御力に不安があるような、ふわふわ素材じゃな」
「勇者よ、お前を本当に信じていいのかの? わらわも人間との争いの歴史を止めたいのは同じ気持ちなのじゃが……」
「うーむ。とりあえず、試しに着てみるかの」
「今から鎧を脱ぐから、そっちを向いておけ。魔王といえど見てわかる通り、小さき女子ぞ」
「ぜーーーったいにこっちを向くで無いぞ! それ、そっちを向いておれ!」
「……ちゃんと目もつぶるのじゃぞ?」
//SE コツコツと、石の床を歩く音。
「勇者よ、見てないか?」 //左からの声。
「わらわのグラマラスボディなんて、想像していないか?」 //右からの声。
「本当に目をつぶってしまって。まったく。わらわの体には興味が無いのか。まあ良いわ」
//SE カシャーン。鎧が地面に落ちる音。
「なに? わらわが何で魔王をやっているかって。着替えを待ってるのも退屈だからということじゃな。答えてやろう」
「昔の話じゃ。お前とは違う先代の勇者が魔王城に来ての。それでわらわの父上を封印してしまったのじゃな。わらわは死んだとばかり思っておったが」
「どちらにしても、わらわの父上はいきなりいなくなってしまったのじゃ。わらわはその時は赤ん坊じゃった」
「その時の勇者は、わらわの存在に気づいていなかったのじゃろう。父上を封印したらすぐにいなくなったらしい。だからわらわは生き残ったのじゃ」
「あれから10年。赤ん坊だったわらわは、この城で他に生き残った魔物達に育てられてな。父上が住んでいた城に住まわせてもらっておるのじゃ」
「寂しかったのじゃぞ。誰も同い年の話し相手などいないし。なんか怖い顔した魔物ばかりじゃし」
「わらわの父上がいなくなった後も、来る日も来る日も人間達は魔王城に攻めてくるし。どうにか追い払っても、すぐに来るのじゃ。わらわは、一刻も早く平和が欲しかったのじゃ」
「どうすればよいのか悩んでおっての。少しずつわらわにも力がついてきたら、人間どもに恐怖を植え付けるために、辱めたりをし始めてのけれども、どれも上手く行かなったのじゃ」
「結局、どうすれば良かったのかの……」
「そうじゃそうじゃ。その方法がこの服に着替えるのじゃな。ちゃんとあっちを向いておれよ」
//SE カシャコーン。鎧が地面に落ちる音。
「この服はどう着るのじゃ。鎧とかとは違うのじゃな? えーっと、下から履いていくように」
//SE サササー。服を着る音。
「まずは背中のあたりにチャックがあるからそれを下ろした状態にして、そこへ向けて足を通す」
「ふむふむ。そのあとで肩部分を上に持っていって、袖を通す。そして、もう片方も袖を通す」
「最後にチャックを閉めると」
「何でそんなに詳しいのじゃ? お前が着たことある訳じゃあるまいし……」
「いや、詳しく聞くのが怖い。お前の事じゃ、着たことがあると言いそうじゃ」
「いや、言うでない! 着たことも脱いだこともたくさんあるなんて聞きたくない! ぜーーーったいに聞かないのじゃ!」
「なんでお前みたいなやつが勇者をやっているのか、つくづく疑問じゃな。それで、一旦肩まで通せたが、最後は背中のチャックを閉めるんじゃな」
「むむ。届かない……。わらわが魔王であっても、さすがにできないこともあるのじゃ」
「背中のチャックは閉められない。これは悔しいが、勇者よ。お前に手伝ってもらうしかないようじや」
「勇者よ、少しだけこっちを向いて良いぞ。背中のチャックをどうにかしてくれ。そうは言っても、わらわの無防備な背中をマジマジと見るでないぞ? ほれここじゃ、ここ」
//少し沈黙。
「はっ! まさか、お前それが狙いなんじゃ!」
//SE 勢いよく振り返って、服がすれる音。
「……って、なんでにやけているんじゃ!」
「わらわに攻撃を仕掛けてくると思いきや。何を考えておるのじゃ!」
「絶対に手は触れないと。そんな力強く言われてもじゃな。カッコ良いなんて絶対に言わないぞ」
「うーむ。わらわに対して攻撃を仕掛けないっていうところは、ちょっと信じられる気もしてきたがの」
「ただ、違った意味でちょっと危険な気がしてきている。これも、世界平和のためか……」
//SE サササー。服を着る音。
「勇者よ、できたぞ! どうじゃ。これで、お前たちの言う女の子になれたかの?」
「これで、街へ行ってみようかの! そうしたら、またお前を抱きかかえて人間界へと行こうとするかの」
「おい、勇者よ。とりあえず、そのにやけ顔はやめるのじゃ!」
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