第16話 計算狩り
数学界では計算機の開発が急速に進んでいた。人々は、より高性能な計算機を求めていた。ピタゴラス教団に所属するライプニッツとパスカルも、その開発に取り組んでいた。
「ライプニッツ、計算機は完成したか?」
教団のリーダー、ピタゴラスがライプニッツに尋ねた。
「はい、もう少しで完成です。パスカルもほぼ出来上がっていると言っていました。」
「計算機の名前は何とする?」
「まだ特に決めていません。」
「では、ライプニッツが以前作った歯車式計算機になぞらえて、『Stepped Reckoner』にしよう。」
ピタゴラスは窓の外を眺め、微笑んだ。
しかし、ライプニッツはその名前を聞くと、急に怒り出した。
「それでは駄目です!もっとインパクトのある名前にしないと!」
「君は何でも細かいな。名前なんてそれほど重要ではない。」
「名前は大事です。計算記号だってシンプルで分かりやすくなくてはなりません。計算機の名前もそうあるべきです。」
「では、何と名付けるのだ?」
「ゴットフリート。強そうでかっこいいでしょう。」
自信満々にライプニッツが答えると、ピタゴラスはため息をついた。
「では、パスカルの計算機の名前は?」
「『パスカリーヌ』だそうです。」
「まあ、普通な名前だな。」
ピタゴラスはつぶやき、次の質問をした。
「ところで、『計算鬼』と呼ばれる人物を知っているか?」
「はい、大手事務所アルジェブラに所属する、陸前ペルゲです。」
ピタゴラスは一瞬、顔をしかめた。
「奴はアポロニウスの称号を持っている。早めに潰しておかねばな。ライプニッツ、アキレスとデカルトを呼んできてくれ。奴らを叩き潰す。」
「はい、かしこまりました。」
ライプニッツが部屋を出ると、すぐにオイラーが入室した。
「話は分かりました。彼らに計算機の出力を許可させます。」
「素早いな、オイラー。アキレスとデカルトに何をさせるか、分かるよな?」
「数学界の規定、『計算狩り』ですね?」
「その通りだ。負ければポイントはゼロ、勝てばライバルを潰せるデスマッチだ。」
ピタゴラスは再び窓の外に目をやったが、何かが引っかかっているのか、険しい表情に変わった。
「しかし、なぜ精度の高い計算機を持つ者が、我が教団の外にいるのか?そして、この噂を広めたのは誰だ?」
ピタゴラスはつぶやき、何かに思い当たったように椅子に腰を下ろした。
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その頃、アルゴリズム事務所では、ペルゲ、積、建部、小町がのんびりしていた。突然、ペルゲの電話が鳴った。
「もしもし、父さん?」
電話の相手はペルゲの父、フェルマーだった。
「ピタゴラス教団から『計算狩り』の挑戦状が届いた。アキレスとデカルトが全力で賭けてくる。狙いはお前だ。どうする?」
ペルゲは関と目を合わせた。積が頷く。
「俺たちが戦うよ、父さん。」
「大丈夫か?」
「ああ、1万ドラクマ稼ぐためにはやるしかない。」
「頼んだぞ、ペルゲ。お前たちなら大丈夫だ。」
フェルマーは電話を切った。
建部と小町も協力を申し出たが、ペルゲは静かに断った。
「これは俺たちの戦いだ。」
ペルゲと積は事務所アルゴリズムを後にした。
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オリュンポスのリーダー、ゼウスは暇そうに天井を見上げていた。そこへ部下が来て、計算狩りが始まることを伝えた。ゼウスは目を閉じ、計算空間に入った。無数の数式やグラフが浮かび上がる。
(ペルゲ、積・・・。彼らの実力を見せつけてくれ。)
ゼウスは少し不安そうな表情を浮かべながらつぶやいた。
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アルジェブラ事務所には、アキレスとデカルト、そしてペルゲと積が集まり、計算狩りが始まろうとしていた。オリュンポスのメンバーが審判を務め、ルールが説明された。3問の問題を制限時間内に解く、早い者が勝者となる。
「始め。」
監督がそう言うと、白紙に問題が3つ浮かび上がった。
4人は計算空間に入り、各々独自に計算機を起動させ、計算を始めた。
計算空間での計算内容は暗号化によって相手には見えず、カンニングができないようになっている。
ペルゲは砂を空中に浮かべ、計算を進めた。
すると、アキレスは、結界のようなものをペルゲの計算式の近くに張った。
「何をするんだ!計算内容は暗号化されてお前らには見えないはずだぞ。」
ペルゲはアキレスにそう強く言った。
「計算妨害だよ。この結界を張ると、計算処理速度が遅くなり、相対的に俺の計算速度がお前と同じになるという事だ。カンニングではないさ。」
すると今度はデカルトも積に計算妨害を始めた。
デカルトが何か操作をすると、積の書いた計算式の数値が変化し始めた。
「何だ?」
積はこの状況に困惑した。
「座標の値を俺は操ることができる。だからお前の計算した値も変わってしまうのさ。」
するとペルゲはアキレスとデカルトに質問した。
「これらの計算妨害はお前らの計算機の機能なのか?」
「まあ、そうだ。でも、俺らの計算機はピタゴラス教団が生み出した特殊な仕様になっている。お前らの計算機とは少し違うのさ。」
そんなこんなで4人は問題を2つ解き終わり、全員最後の3問目を解いていた。
問題は(太陽光の真下のシエネから925km離れているアレクサンドリアで太陽光が7.2°角度で入射していた。このとき、地球の直径はどのくらいか。)であった。
「お前らは解けないから計算妨害しかできないのか?」
ペルゲはアキレスとデカルトを馬鹿にするかのようにそう言った。
そこで怒った2人は数字を浮かばせると、結界がより赤く光り、計算が始まった。
「計算妨害だけではなく、計算もできるかよ!」
積は驚き、負けじと空中にある手元の数字を動かして計算をした。
「出来たぞ!」
デカルトはそう言うと、解答用紙に答えを書き、審判に提出した。
「嘘だろ・・・。」
積は絶望し、計算した手を止めてしまった。
計算空間の中央にデカルトの解答が浮かび上がった。すると、1問目、2問目と正解だったため、それぞれに「T(true)」が表示された。
「これで終わりだな。」
デカルトはそう言うと、ペルゲと積は悔しそうにうつむいた。
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