第10話 定禅寺の正体

 ペルゲと積はフェルマーに頼まれ、株式会社ホテル勾当台の調査を行なっていた。


 そこで、会場のステージに定禅寺政宗という人物が現れた。


 その人物は目にサングラスを掛けており、少し明るい表情をしていた。


「皆さん、私はホテル勾当台の新社長の定禅寺政宗です。先日の数学界での騒動において、ご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ございませんでした。これからは数学界をより盛り上げて参りますので、皆さんもご協力お願いします。」


 定禅寺はそう発言すると、会場からは拍手が鳴り響いた。


 その時、ペルゲはステージ上の定禅寺を強い視線で見つめていた。


 一方、積は堤に質問をした。

「あの社長さん、数学界で何かやらかしたのか?」


「いや、定禅寺は巻き込まれた側だよ。定禅寺の父親が前まで社長をやっていたんだけど、取引先と何かあったらしく、それで辞任する事になって、新社長誕生って訳。」

 堤は積の質問にそう答えた。


 さらに積はもう一つ質問をした。

「定禅寺は数学界では有名なの?俺たちは最近入ったばかりでよく分からないんだ。」


「特に有名でも何ともないんだが、サングラスを掛けているからか、格好良く見えて、人気があるってところかな。まさに、一目惚れってやつ?」

 堤はそう答えると、ペルゲは奥歯を噛み締めていた。


 すると、それを見た積はペルゲに何かあったのか様子を尋ねた。


「なあペルゲ、お前どうしたのか?」


「あいつはどこかで見たことある。あの派手な感じとか。」


「へ、お前あいつのこと知っていたのか?」


 積はペルゲの言った事に対し反応し、戸惑いを見せた。


「これから出題する問題に正解すると、もれなく数学界のポイントで、1ドラクマを獲得できます。ただし、解答権は1人1回、制限時間は1分です。できた方から紙に答えを記入し、挙手をして下さい。担当スタッフが答え合わせに参ります。」


 定禅寺はそう言うと、会場にいた人たちはペンと紙を持ち、何やら構えた様子を見せていた。


 それと同時にペルゲと積はペンと紙を持った。


「では、こちらの問題です。それでは、スタートです!」


 定禅寺がそう言うと、ステージ上のスクリーンに図形らしき問題が表示され、その横に「60秒」と表示されたタイマーがカウントダウンされた。


 会場内には問題を頭の中で解く人々がいて、紙とペンが擦れる音がしていた。


 ペルゲと積も頭の中で考えていた。

 ペルゲはエニグマで計算を進め、積は一つ一つ暗算を用いて計算をしていた。


 ペルゲは30秒程で紙に答えを記入し、挙手をした。それに続く形で、積も手を挙げる。


 すると、担当のスタッフがやって来て、2人の回答を確認した。


「回答は確認しました。1分経過まで少々お待ちください。」


 スタッフはそう言うと、2人のそばに立って待っていた。


 その頃ポツポツと手を挙げる人が現れた。

 別なスタッフはその人たちの回答を確認し、他にスタッフは不正行為がないか、会場内を巡回していた。


 そんなこんなで1分が経過し、スクリーンのタイマーが0秒となった。


「回答終了です。それでは正解を発表します。正解は5:8です。」

 定禅寺がそう言うと、正解者の元にスタッフが再度駆けつけた。


「おめでとうございます。1ドラクマ獲得です。名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 担当スタッフはペルゲと関にそう言うと、2人はそれぞれ自分の名前を告げた。


「この中で1番早かったのは君だね。」

 定禅寺はそう言うと、とある男を指差した。


 その男は黒い服を着て、少し近寄り難い雰囲気を出していた。


「誰だあいつ?」

 ペルゲはそう堤に質問すると、

「あいつは小次郎というらしい、俺も詳しくは分からない。」

と言ってそのまま返されてしまった。


「それでは、今日はこれで終了です。また次回お会いしましょう。」

 定禅寺はそう言ってステージ裏へと消えていった。


「これで終わりか。それじゃあ俺はこの辺で。」

 堤はそう言って紙を丸め、近くのゴミ箱へ投げると、1人で先に会場から退出した。


「ところで何か忘れてない?」

 ペルゲは積にそう言うと、積はペンを机に置き、呆れた表情をした。


「従業員に関する調査だよ!」


 積はペルゲに怒鳴りつけた。


「そうだった、そうだった。忘れてないよ。」


 ペルゲは調査の事をあたかも忘れていなかったかのように誤魔化した。


 2人は会場から退出し、受付の時に会ったディーラーらしき服装をした男にもう一度話をする事にした。


「お時間よろしいでしょうか?」

 関はその男にそうお願いをすると、了承を得ることができた。


「実は我々とある調査をしていて、この施設の従業員は何人ほどいるのでしょうか?」


「およそ100人程ですかね。」


「社長は定禅寺政宗さんですが、就任してから何か月になりますか?」


「ついこの間ですので、1週間程しか経っておりません。」


「前社長のお名前は何ですか?」


「定禅寺輝宗です。」


「前社長との交代の経緯を教えていただけませんか?」


「あまり内部の事ですので、詳しくは語れません。」


 積は質問を止めてしまった。質問する事が尽きてしまったからである。


 すると、今度はペルゲが質問した。

「あいつは何を狙っているんだ?」

 ペルゲは少しきつくそう言った。


「私には分かりませんが、数学界のトップを狙っているかと思います。彼はああ見えて、野心が強い方です。」


 ペルゲと男の話に割り込む形で積はさらに一つ質問した。


「ところで、あなたのお名前と役職は?」

「取締役台原陽一と申します。」


「あなたが社長の側近ですか?」


「ええ、他にも泉、八乙女、黒松、旭が組織におります。」


 質問が終わり、台原はどこかへと消えて行った。また、ペルゲと積も事務所へと戻って行った。





 ペルゲと積は事務所アルゴリズムへ戻ると、部屋には建部と小町と川内の3人がいた。


「ホテル勾当台はどんな感じだった?」


 小町はペルゲにそう質問した。


「別に、ただのライバル同士の集まりってところかな。」


 ペルゲは無愛想にそう答えた。


 そして早速、関は建部に検索を頼んだ。


「建部、調べ物を頼みたいんだがお願いできるか?」


「もち。」


「定禅寺政宗、定禅寺輝宗の2人について調べてくれ。」


「もちもち。」


 そう言うと、建部はインターネットで検索を始めた。


 すると、小町はそれに反応を示した。

「定禅寺政宗?」


「ああ、聞いた話その人が社長らしい。」


 関がそう言うと、川内がホテル勾当台の事について話し始めた。


「実は僕も一度聞いたことはあるのですが、ホテル勾当台は『数学界の神殿』なんても言われているそうですよ。」


「それはどう言う事だ?」

 関は川内に聞くと、

「『定禅寺』は寺、すなわち『Temple』、『神殿』も英単語は『Temple』だからです。あのホテルも式に使われたりしますし、元々神殿は儀式を行なったりする場所ですから。」


 そんなこんなで建部は定禅寺について検索結果を見つけた。


「帝北大理工学部卒業後ホテル勾当台に父親の秘書となったらしい。その父親の情報はほぼ消されてしまっている。もち、そんな中、一つだけ手がかりがある。画像でペルゲの父親と一緒に写っているものがあった。」


 建部はそう伝えると、皆んなにその画像を見せた。


「なぜ・・・?」


 ペルゲはそう呟くと、少し怒った様子を見せた。


 そこで建部は気がづいた事をペルゲと小町に話す。


「ところでお前ら、定禅寺政宗の事、昔から知っていたんじゃないの?」


 すると、積と川内は驚いた様子を見せた。

「おいペルゲ、そういえばお前、ホテル勾当台の会場でもそれっぽい事を言っていたよな?一体どういうことなんだ?」


 積はペルゲにそう聞いてみると、

「あいつは高校の頃、俺を邪魔する存在だった。」

と、ペルゲは衝撃の一言を言い放った。

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