第9話 その名はアルキメデス
ペルゲと関は数学界大手事務所「アルジェブラ」での会議が終わり、事務所「アルゴリズム」に帰ると、カウンターに建部と小町がいた。
「お帰り。」
小町が事務所に戻って来た2人に対し、そう言った。
「何か土産話はあるか?もち、なかったら良いけど。」
建部がぐったりした様子で2人にそう聞いた。
その質問に対し、ペルゲは「アルジェブラ」リーダーが父親であったことと、数学界で起こっている出来事について建部に説明した。
「ペルゲのお父さんは数学界に所属していたの?もしかして、ペルゲは前から知っていたの?」
小町はペルゲにそう聞いてみると、
「知らなかったよ。しかも、父さんが何でこんな事をしているのかも分からない。」
と、ペルゲは下を向きつつそう言った。
「建部、お願いがあるんだけど良いかな?」
ペルゲは建部にそのように頼み事をしてみる。
しかし、建部はあまりそれに乗り気ではないのか、元気なさげに呟いた。
「ペルゲはエニグマがあるから俺はもういらないんじゃないの?もちもち、掃除ぐらいならできるけどな。」
「計算ではなくて、調べて欲しいことがあるんだよ。立派な機械担当の仕事だよ。」
ペルゲは建部にやる気を出してもらうためにさらにそう言った。
すると、建部は乗る気になったのかパソコンを開き始めた。
「何を調べれば良いんだ?もち、何でも聞いてくれ。」
「株式会社ホテル勾当台について調べてくれ。」
ペルゲはやる気を取り戻した建部にそう言った。
「株式会社ホテル勾当台。計算に関する娯楽施設で、数学界の人々もここで計算の腕を試しにやってくることが多いらしい。社長は・・・、書いてない。従業員もよく分からない。」
「そうか、だからペルゲのお父さんはこの施設で働いている人たちのことに関して調べてほしいと、俺とペルゲに言ったのか。」
関は建部が調べた事について、フェルマーが気になっていた事との関係を考察した。
「ありがとう、分かった事があったらまた教えてくれ。」
と、ペルゲは建部にお礼をした。
「うん。」
建部もペルゲのお礼に対し、そのように照れ臭く返事をした。
「じゃあ、もうちょっとしたら俺とペルゲでホテル勾当台に行って、調査をしてみるか。」
積はそう言うと、別の部屋へと消えて行き、建部はトイレへ行った。
ペルゲは積と建部が部屋から消えたのを見て、カウンターに座り、ため息をついた。
「大変そうね。」
小町はそう言いつつ、ペルゲにコップに入った水を出してあげた。
「ああ、先生には計算機を渡された挙げ句、姿を消してしまい、父さんには色々とあれやれこれやれと言われる。自分は何をやっているんだか。」
ペルゲはそのように愚痴をこぼした。
「でも、陸前くんは昔から周りの人に従う素直な人だったじゃない。それが大人になっても変わっていないのよ。」
小町はペルゲにそう教えた。
ペルゲは水を飲んだ後、小町に一つ質問をした。
「なあ小町、俺はこのままで良いのか?それとも、何か目標でも持った方が良いのか?」
すると小町は手を後ろに組み、それに答えた。
「陸前くんの事だから、私はこのままで良いと思う。ただ、人間は向上心が重要。そして不安定にならないと人は変われない。まさに今その状況じゃない?」
「ありがとう。」
ペルゲはそう言って、コップに入った水を全て飲みの干した。
すると、建部がトイレから戻り、カウンターに座る。そしてパソコンを使い始めた。
積が部屋に戻ってくると、ペルゲはカウンターから立ち上がり、積に近づいた。
「早いけど行くか?」
ペルゲは関にそう言うと、
「うん、良いよ。」
と、返事が返って来た。
その頃、ペルゲに弟子入りをしていた川内は高校へ通い、授業を受けていた。
授業内容は二次曲線であった。
(楕円、双曲線、アポロニウスの円・・・。そういえば、ペルゲさんは『アポロニウス』の肩書きを名乗る事になったんだよな。アポロニウスって、こんな凄いことやっていたんだー。)
川内はプロジェクターに映っている説明を眺めながらそう思った。
アポロニウスの円とは、2定点A、Bをとり、点PをAP:BPが一定となるようにしたときの点Pの軌跡である。
その後、川内は教科書の巻末に載っている数学史の年表を見た。そこにはアポロニウスの名が書いてあった。
すると、川内は同世代の人物に誰がいるのか探してみると、そこには『アルキメデス』の名が書いてあった。
(アルキメデス・・・。そういえば、アルキメデスも『A』の称号を狙っていてもおかしくないよな。でも、『アルキメデス』を名乗っている人は数学界にいるのかな?)
川内は心の中でそう呟いた。
ペルゲと積はフェルマーに頼まれ、株式会社ホテル勾当台へ行き、従業員について調査をしていた。
2人はホテル勾当台のビルの前に立ち、上の方を見上げていた。
「すごい建物だな。数学界の人たちは皆んなここに来ているのか。」
関はそう呟くと、ペルゲは無言でその建物へと入って行った。
建物の中には広いエントランスと、受付の人が数人と、客らしき人たちが沢山いた。
「とりあえず、受付に行って中に入らせてもらうか。」
ペルゲは関にそう提案すると、2人で受付に並んだ。
受付に問い合わせてみると、数学界に所属していることを証明するものを提示するよう言われた。
しかし、2人は数学界に所属していることを証明するものは一切持ってなかったため、困った様子をした。
するとそこに、知らない人物が現れた。2人は人の姿を見てみると、カジノのディーラーらしき服装をした男であった。
「あなたたちはこちらは初めてですよね?であればお名前を教えていただけないでしょうか?」
その男は2人にそう言うと、ペルゲと関は自分の名前を言った。
「陸前ペルゲです。」
「積孝正です。」
2人は男によう言うと、何かを思い出したかのような表情浮かべた。
「陸前ペルゲ・・・、あの計算鬼!そうでありましたか。では大丈夫です。」
男はそう言うと、2人を連れて大きなドアがあるところへ行き、そのドアを開けると、そこには沢山の人たちが机の近くで紙とペンを持ち、何かを考えていた。
「ごゆっくりどうぞ。」
そのように男はペルゲと関に言うと、どこかへと消えて行った。
2人はドアの近くにあった紙とペンを取り、近くの机のそばに立った。
「もしかして、皆んな計算をしているのか?」
ペルゲはそのように自分の推測を呟いた。
そこへ先ほどの男とは別に、また違う男が2人の後ろに現れた。
「久しぶりだな、天才。」
その男は関にそう言うと、積とペルゲは振り返った。
「お前は、堤辰雄じゃねーか!」
積はその男に向かってそう言った。
「天才?」
ペルゲはふと疑問に思ったことを口に出した。
「お前は何しにここに来たんだ?もしや、ここでもトップを狙っているんじゃないんだろうな?」
堤は積に対し少しキレた様子でそう言った。
「いや、今回は調査でここに来ただけだよ。別に何も怪しい事はしないよ。」
積はそう言うと、ペルゲも2人の話しに割り込む形で、一つ質問をした。
「ところで、あんたらはどんな関係?」
「ああ、俺らは高校時代から大学の時までずっといろんなことを競い合っていたライバルだよ。でも、俺はこいつに数学では全く勝てなかったんだ。だから、俺は積のことを天才と言っているだけだよ。」
ペルゲの質問に対し、堤はそう答えた。
すると、会場にアナウンスが鳴り始めた。
<それでは、本日のトリを務めます、真打ちの登場です。ホテル勾当台の新社長に上り詰め、現在話題沸騰中のこの人物。定禅寺政宗又の名を『アルキメデス』!>
そのアナウンスと同時に、会場の前方にあるステージに定禅寺と呼ばれる目がつりあがっている男が現れた。
「定禅寺・・・、新社長・・・。」
ペルゲはステージに立っているその男を見つめ、そう呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます