第7話 不思議な依頼
計算事務所『アルゴリズム』は、計算にまつわる問題を解決する仕事をしている。
その事務所の所長である陸前ペルゲは、この日も計算にまつわる依頼を引き受けようとしていた。
「わざわざ遠い所からおいでいただき、ありがとうございます。こちらにお掛けください。」
ペルゲはお客にそう言って、ソファに座らせた。
「私は商社で経理の仕事をしている者です。これらを計算してほしくて、こちらへやって参りました。」
「別にメールやお電話などの手段で仕事を依頼することも可能ですが、なぜこちらへ足を運ばれたのですか?」
「実は、読めないんです。」
「読めない?」
そう言ってペルゲは依頼主に不思議そうな顔をした。
その後、依頼主から読めないと言った資料を確認すると、驚いた表情を見せた。
「罫線が引かれていなく、しかも数字が縦横バラバラに入力されているではないですか。これでは読めません!」
ペルゲは少し怒った様子を見せた。
「ええ、これは私が無知であったために、このようなことになってしまいました。機械で入力する際、どこかをいじってしまい、縦横の数字がバラバラに見づらくなってしまいました。」
依頼主は申し訳なさそうにそう言った。
ペルゲは渡された資料を読み進めると、あることに気がついた。
「でも、下の方に分かりやすく合計金額が記入されているので、わざわざ計算しなくても良いのではないでしょうか?」
「いや、ちゃんと確認しないと・・・。」
そう言って、依頼主はペルゲに計算をするようにお願いした。
そうして、ペルゲは数分で計算をし、記入されている合計金額が正しいかどうか確認した。
「確認が終わりました。おそらくこのように罫線を引き、縦横を合わせて計算を行うと正しく答えが出ます。」
ペルゲはそう言って、依頼主から預かった資料を本人に返した。
「これで依頼は以上ですか?」
ペルゲは今回の依頼の費用の請求を進めようとした。しかし、客はまだ頼み事があるそうだ。
「実は、こちらの資料は所々穴が空いてしまって、この通り読めなくなってしまいました。こちらも穴が空いた部分を計算していただけませんか?」
「データは残っていませんか?」
ペルゲはまた少し怒りつつそう言って質問すると、
「申し訳ないですが、全て消去してしまいました。」
「ではこちらも数分で終わらせます。少々お待ちください。」
そう言って、ペルゲはエニグマで計算を行い、それを参考に穴の空いた部分を推測した。
「終わりました。こちらが答えになります。」
ペルゲは依頼主に資料を返却し、答えを渡した。
さらに依頼主は頼み事をペルゲに依頼した。
「こちらの資料の数字1000個をあらゆる計算記号を用いて1億になるように求めていただきたい。」
客はもう一つ面倒くさい計算を頼んできたため、ペルゲはついに罵声をあげて怒ってしまった。
「一体いくつ頼み事があるんですか?まとめて頼んでください。しかも、これらの計算は一体何に使われるのですか?」
「申し訳なく思っております。しかし、これらは機密事項ですので、その質問にはお答えできません。」
依頼主がそう言うと、ペルゲは少し冷静になり、もう一度依頼の資料を見つめた。
「すみませんが、この量は少し時間がかかります。答えが分かり次第、またお伝えします。」
ペルゲはそう言うと、依頼主はできるだけ早く答えを求めてほしいことを伝えて、事務所から出て行った。
依頼主が帰ってすぐに、積が部屋の奥からやってくると、ペルゲにコーヒーを渡してソファに座った。
「何なんだろうな?こんな依頼主初めてだよ。穴が空いた資料とか、1000個の数字を計算式で無理やり1億にしろとか。」
「何か裏があるのかもな。明日、勤務先の商社について調べてみるか。」
そう言って、積とペルゲは翌日依頼主のことを調べることにした。
翌日、昨日の依頼主の職場である商社についてネットで調べてみると、とんでもない事実が発覚した。その商社は昨年、売り上げ額を改ざん疑惑が浮上していた会社であった。
改ざん方法は資料の罫線を消し、仕分けの内容を誤魔化すというものだった。
「それであんな馬鹿げたことをやったんだな。それで誤魔化せるとでも思っているのか?」
ペルゲは罵るかのように言った。
「分からないけど、その合計金額を適当に考え、それを何らかの形で数字をすり替えるつもりなのか。今すぐその依頼主を呼ばないと。」
積はすぐに依頼主に電話をかけた。しかし、電話を掛けても依頼主は出なかった。
その結果、ペルゲは怒ってしまい、積と共に依頼主が勤めている商社へ足を運んだ。
その商社に着くとすぐに、受付にいる人に依頼主が今ここにいるか確認した。すると、受付の人は依頼主に連絡をし、依頼主が今この建物内にいることが判明した。
ペルゲと積はエレベーターで上に上がり、依頼主と直接話をすることができた。
「お騒がせして申し訳ございません。今回はどのような件でここへ来たのでしょうか?」
依頼主はペルゲにそう聞くと、ペルゲは商社の改ざんの件について話した。
「何でこんなこと黙っていたのですか?」
「それが、とある取引先と上層部からの命令の板挟みでこのようになっております・・・。」
ペルゲの質問に対して依頼主は動揺した様子でそう答えた。
話を詳しく聞くと、取引先の娯楽施設が経営不振に陥り、そのしわ寄せが依頼主が勤める商社に来たという。また、上層部からの命令は資料の改ざんであった。
「そのため、あなたたちに迷惑をかけるつもりではなかったのですが、私はどうしても命令を受け入れなくてはならないのです。」
依頼主はそう言って、困った様子を見せた。
「別に、会社辞めれば?」
と、ペルゲは依頼主にあっさりと言った。
「いいえ、私の命が狙われます。」
「誰に?」
「社長です。社長はこの会社を辞めた社員を全員安否不明にしています。真相はわかりませんが、私も辞めてしまえば命はないかもしれません。」
ペルゲの提案を否定するように依頼主はそう言った。
すると、積はこの商社の取引先の名前を教えてもらうことを提案した。
「その取引先の名前は何ですか?」
「あまりあなたたちを事件に巻き込みたくはないですが、知りたいですか?」
依頼主はそうペルゲと積に忠告すると、
「ええ。」
と、ペルゲと積は答えた。
「株式会社ホテル勾当台。私が話せるのはこれで以上です。計算、ありがとうございました。」
依頼主はそう言うと、ポケットから千円札をペルゲに渡し、その場から消えていった。
翌日、残っていた最後の依頼の計算が完了したため、ペルゲは依頼主に直接電話をした。しかし、その電話には一切出ることがなかった。
ペルゲは一人で依頼主が勤めている商社に再び足を運んでみると、最後に直接話をした後、社長から解雇を言い渡されたという。そのため、現在依頼主はここにいないということが分かった。
そのため、ペルゲは残された依頼の計算結果が書かれている書類を受付に渡し、事務所へと戻った。
事務所に戻るとすぐに、ソファで横になりそばに座っていた積と会話を始めた。
「あの人、会社クビになったらしいよ。」
「そっか・・・。」
ペルゲが積に依頼主のことについて分かったことを伝えると、積は素気なくそう言った。
「でも、俺たちは関係ないよな・・・。」
と、ペルゲは元気なくそう言うと、さらにそれに付け足す形でもう一つグチをこぼした。
「あの人さ、千円しからなかったんだよ、おかしくね⁉︎」
積は同情するように言った。
「何か・・・、俺たちやられたな、ペルゲ。」
その後も、ペルゲと積は商社の改ざん問題について調査を続け、次第にその裏に潜む陰謀の存在を感じるようになった。依頼主の話や資料から浮かび上がる疑惑の影は、これから彼らをさらに深い真実へと導いて行くのであった。
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