第6話 計算機(エニグマ)起動

 ペルゲは事務所にコンピュータに詳しいというチューリングを呼び、ペルゲ遺跡から持ち帰った計算機(エニグマ)を見せているところであった。


 そこへ、事務所の機械担当の建部が用事から戻って来た。


「お前がチューリングか?」

 建部がチューリングにそう聞くと、

「はい、はじめまして。」

と返事をした。

「そんで、計算機は動くのか?もち、俺もわかんないから聞き返すなよ。」

 建部がぶっきらぼうな口の聞き方でチューリングに言った。


「おそらく、どこかに電源があるはずだ。まずはそれを見つけることが第一。」

 そう言うとチューリングは計算機の文字に指を当てた。

「これらの文字はよく見るとギリシャ文字からフェニキア文字、ローマ字やどこかの地域の象形文字まで沢山の文字が使われている。これは解読が難しい。」

 チューリングがそう言うと、ペルゲと建部は頭を抱えてしまった。


 3人は少し考えた後、建部は提案をした。

「なあペルゲ、お前この前宅配で届いたパソコンで、電源入れても画面がつかなかった時、エンターキーを押したよな?もち、今回は電源が分からないけど。」


「ああ、こういう時はエンターキーを押せばなんとかなるって言うじゃん。」

 ペルゲはそう言うと、計算機を触り、エンターキーを探し始めた。


「エンターキーないか?」

「ペルゲ、そういえば『エンターキー』って言うけど、昔は『改行キー』なんて言っていたらしいよ。」

 チューリングはそう言うと、ペルゲはエンターキーを探すのをやめ、文字に目を移した。そうして、何かを考え始めた。


 すると、ペルゲは思い付いたかのように、「はっ。」

と声に出し、いきなり頭の上まで計算機を持ち上げた。

「ペルゲ、何をする気だ?」

 チューリングは慌ててそう言うと、ペルゲは持ち上げていた計算機を地面に叩きつけた。


 大きな音とともに、計算機は粉々に砕け、あたり一面に欠片が飛散した。文字はバラバラになり、解読が困難な状態となった。

「ペルゲ、何やっているんだよ。もちもち、こんなの誰も直せねーからな。どうしてくれんだよ。」

 建部は怒ってそう言うと、ペルゲは済まなそうな態度をした。


 しかし、チューリングは欠片の中から何かを取り出した。

「いや、どうやらこれでよかったらしい。改行とは文章を分解することだったのかもしれない。これを見な。」

 チューリングがそう言うと、ペルゲと建部はそれを見た。

「すごい、砕け散ったカケラの中に大量の砂のようなものがあった。」


 ペルゲはそう呟くと、チューリングはもう一つ何かを見せ、それをペルゲに渡した。それはたくさんの円が描かれている板であった。

「星の数ぐらい円があるな。目がチカチカする。」


 すると、ペルゲは突然頭を手で抑え、その場に跪いてしまった。何やら頭痛が起こったらしい。

「痛っ。てか、目がチカチカしてきた。しかも耳鳴りが激しい。あっ、グァァ・・・。」


「おいおいペルゲ、大丈夫か?チューリング、どうすれば良いんだ?」

 建部はペルゲをかばい、ペルゲの背中をさすった。

「とりあえずベッドに横にして、水を飲んで安静にしてもらおう。」

 チューリングはそう言って、ペルゲを横にさせ、水を飲ませた。


 やがて数分経ったところで、それらの現象が収まった。それと同時にペルゲは話し始めた。

「すごい、なんだこの空間!」

「ペルゲ、お前何言ってんだ?頭壊れたんじゃねーの?」

 建部はペルゲが言ったことを馬鹿にするかのようにそう言った。


 一方チューリングは何かを考えた後、突然問題を言い出し始めた。

「ペルゲ、『(-6a)×2a÷(7b/3)』はいくつになる?」

 ペルゲはチューリングが出した問題の答えを求めようとした。


「えっと、あれ?なんだこれ?」

「おいペルゲ、計算しているか?もちろん、計算できないから誤魔化しているんだろ?」

建部はペルゲに煽るようにそう言った。

「いや、頭の中で砂のようなものが浮き上がり、勝手に動いている。あっ、答え?『(-36a^2)/7b』」


 ペルゲは答えを言い当てた後、チューリングは別の問題を出した。

「ペルゲ、『不定積分((2/3)x^2-4x)dx』の値は?」

「((2/9)x^3)-(2x^2)+C」


「『xyの値が奇数ならばx+yの値は奇数』の命題の真偽は?」

「命題は偽。反例はx=y=1の時。」


 チューリングが出題した問題に対し、ペルゲは即答した。それは、まるでコンピューターが計算しているかのように、建部とチューリングからは見えた。


「どうやら、計算機は本物らしいな。もちや、機械担当の俺いらねんじゃね?」

 建部はそう不貞腐れたように言った。


「でも、見ている限りここにある大量の砂には変化が見られない。石灰岩の塊の中に入っていた大量の砂とペルゲの脳内に見えている砂には何か関係があるのか?」

 チューリングはそのように疑問を上げるとペルゲと建部は考えた。


「まあ、そのうちわかるでしょ。」

 ペルゲはそう言って、辺り一面に砕け散った破片と大量の砂をかき集め、大きな袋の中に入れた。




 その頃、事務所アルゴリズムでペルゲの弟子入りをしている川内は八幡高校に通っていた。そこで休み時間中、学校からのお知らせをスマホで眺めていた。


<来年度から本校は数学界大手事務所ピタゴラス教団の提携により、マイニング制度を導入致します。>

 そのような内容が記されていた。


(数学界大手事務所?そういえば、ペルゲさんも『アルゴリズム』とは別に、どこか大きな事務所に所属しているんだよな。もしかして、そこかな?)


 また、眺めていたお知らせの下の方に、

<それにつきまして、数学の評定が5、尚且つ計算処理能力評価『秀』の生徒は推薦枠を得られるようになります。>

と、続きが記されていた。


(はっ、これで推薦枠を得られれば・・・。)

と、川内は心の中で呟いた。




 川内はその後、学校の帰りに事務所『アルゴリズム』へ足を運んだ。

「お疲れ様です。」

「学校お疲れ。」

 川内が事務所に入ると、ペルゲが作業をしながら挨拶をした。


「学校どうだった?何かあった?」

 ペルゲがそう言うと、川内は学校からのお知らせに書かれていたことについて話した。すると、ペルゲはそれに反応し、思わず作業をしていた手が止まった。


「数学界、大手事務所『ピタゴラス教団』・・・。」

「何か心当たりでもあるんですか?」

 川内がペルゲの動揺した様子を見て質問をすると、部屋の奥の方から積がやってきて、それに答えるかのように呟いた。


「数学界で最も権力を持つ人物『ピタゴラス』がリーダーの組織だ。数学界の約半数の者は『ピタゴラス教団』に所属している。しかも、俺たちの所属している大手事務所とは仲が悪いと噂がある。」


「そうだったんですね。では、私はここにいてもよろしいのでしょうか?」

 川内は不安そうに尋ねた。


「分からない。近日中に大手事務所で俺とペルゲは顔を合わせることになっている。」

 積はそう返事をして、川内に伝えた。

「ちなみに、2人が所属している大手事務所の名前は何ですか?」


「数学界大手事務所『アルジェブラ』。ユークリッドと広瀬先生も所属していた所だよ。」

 積はそう川内に教えた後、川内は会釈をして、すぐに事務所から出ていった。


 すると、積はペルゲに語り始めた。

「まあ、川内のことは大丈夫だとして、アルジェブラのリーダーは一体誰になるのか分からないけど頑張るしかないぜ。」

「そうだな。さて、エニグマもあることだから、さっさと依頼を片付けるか。」

ペルゲは少し明るい表情でそう答えた。

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