第3話 ペルゲのアポロニウス
ペルゲと積は、ペルゲの先生である広瀬に会うために、飛行機に乗りトルコへと向かっていた。広瀬がいるペルゲ遺跡はトルコの南西部で地中海沿岸の都市である。
「おい、ペルゲ、その風景はどこだ?」
と、積はペルゲが持っていた写真の風景を興味本位に尋ね、それに対してペルゲは答えた。
「ペルゲ遺跡さ。初めて見たが、でかい石造りの建物と柱ばかりだな。一体、ここに俺を呼んで何をする気だ?」
ペルゲは手元の写真を不思議そうに見つめて、そう思ったことも口に出した。
ペルゲは写真を内側のポケットにしまい、突如語り始めた。
「『ペルゲ』はかつて古代ギリシャの都市だった。アレキサンダー大王というやつが一体を収め、その後ローマ帝国によって支配された。また、当時は地中海においても特に栄えた町で、競技場をはじめとする様々な建物が建てられ、たくさんの人が住んでいた。そして、その都市で生まれ、数学の世界で現代にまで語り継がれる人物がそこで生まれた。その名はアポロニウス。」
それに続くように、積は広瀬について話し始めた。
「広瀬さんは数学界でも有名で、尚且つ優秀。ペルゲが学生時代の頃、称号を得たことによってその名は一躍話題となった。『アポロニウス』、誰もが欲しいと思う肩書きだ。」
2人は語り合いながら目を瞑り、座席で寝落ちしてしまった。
その頃、数学界では所属していた人々は騒がしい様子を見せていた。その中で、落ち着いた様子を見せる男がいた。その男は書類に目を通し、何かを企んでいるかのような表情を浮かべていた。
そこへ部下がやって来ると、「例の件はどうなった?」
と、その男は部下へ言った。
「現在、アキレスが追跡中です。間も無く始末し、その後こちらに戻って来るでしょう。」
と、部下が男の質問に対して答えた。
すると、その男はアポロニウスについてのことが書かれた書類を手で丸め、ゴミ箱へ投げてしまった。
「ところで、奴はどこにいるんだ?」男はそう部下に尋ねると、
「アキレス曰く、現在トルコの地中海沿岸部にいるとの情報が入っております。」
と、答えた。
「罰当たりなやつだ。これから除名されるというのに、地中海へ行くとは。
男はそう言って椅子から立ち上がり、後ろの窓の方を向き、密かに笑った。その後、再び前を向いて呟いた。
「これで26のうちの2つが空いたな。うちから2人を埋め合わせにし、我ら組織の発展に追力する。」
「そういえば、ここ最近数学界に2人新たに所属したと噂がありますが、その1人が巷では話題になっているそうですが、ご存知ありませんか?」
そう部下が男に伝え質問すると、「さあ、知らないがそれがどうしたんだ?そして何でそんな話題になっているんだ?」
と、男は言った。
部下はそれに応えた。
「私も詳しいことはよくわかりませんが、その1人は『計算鬼』と呼ばれているそうです。」
すると男は部下に退出を促し、再び座っていた椅子に座り、パソコンを開き、厳しい顔で何かを検索し始めた。
ペルゲと積はペルゲ遺跡に辿りついた。そこには誰1人いる気配がなく、ただ大きな石造りの建物や柱がありった。
そこを2人はひたすら歩きながら広瀬を探した。
「しっかし、本当にすごい場所だな。広大な丘、そして木造のものが一切なく、全部石。草が生い茂っていて、土は乾いている。日本とは大違いだ、こんな光景見たことない。」
「ああ、アナトリアでは最大の都市の一つだったからな。」
と、積とペルゲは思ったことを口に出し合い、周りの建物を眺めていた。
すると後ろの方から足音が聞こえてきた。その音の主はペルゲの先生、広瀬であった。
「長旅ご苦労、よく来てくれたな。」
と、ペルゲと積に挨拶代わりにそう言うと、2人は後ろを振り返りった。
「先生、一体何を企んでるんですか?あなたは人と会う時、自分からは呼ばず、しかも直接人と顔を合わせるような人ではないはずです。先生は数学界から追われているんですよね?」
「はっ。」
と、途中積はペルゲの話を聞き、思わず心の声が漏れてしまった。
「どうしてですか?あなたはあれ以来、そんな目立つような人ではなかったはず。何があったんですか?どうしてこんなことになったのですか?」
ペルゲは最後泣きながらそう話すと、広瀬は何も言わずにペルゲの方を見つめた。積は沈黙の中で近くの柱にもたれかかり、愕然として、そこに座り込んでしまった。
広瀬は横にある柱を眺め、突然話し始めた。
「ユークリッドが敗れた。これでもう数学界は戦乱の渦だ。ユークリッドは俺が入っていた事務所のリーダーだ。そして俺はその称号を取りに行く。それが事務所の中での役目だからな。」
話の途中、広瀬は柱に近づき、その根元を見つめた。
「そして対決の前にユークリッドからもらった暗号を解読したんだ。どうやらそれがまずかったのか、誰かにバレちまって日本から逃げて来たってわけだ。」
「その暗号はどこにあるの?」
と、ペルゲは尋ねると、
「ここにあるけど、あるものを通してじゃないとわからないと思うよ。」
そう言って、突然広瀬は見つめていた柱の根元を蹴り始めた。
それにびっくりした積は起き上がり、慌てて柱から離れた。広瀬が蹴った柱は傾き始め、やがて倒れてしまい、柱と近くの石が砕けてしまい、砂埃が辺り一面に立っていた。広瀬は柱が立っていたところを覗き込み、
「おお、あったぞ。」
と言い、1人で喜んでいた。
それを聞いたペルゲと積もそこを覗き込んだ。中には電子レンジぐらいの大きさで、四角く綺麗に整った石灰岩のようなものが入っていた。
広瀬はそれを1人で取り出し、近くにそっと置いた。
「一見普通の石灰岩の塊に見えるかもしれないが、こいつは計算機だ。実は暗号の中にこいつのことが書いてあったんだ。」
広瀬はそう言って、計算機に被った砂や埃を手で払った。
「これを見せるために俺をここに呼んだんですか?」
と、ペルゲは話すと、広瀬はペルゲの肩に手を当てて言った。
「見せるためじゃない、渡すためだよ。お前にこれを託す。そして、これを使って『アポロニウス』の称号を手に入れてくれ。いや、俺の次はお前が名乗るんだ。」
「先生はこれからどうなるの?」
そうペルゲは広瀬に尋ねた。
「おそらく称号は剥奪される。でも、この手で『ユークリッド』を名乗り、26の中に入ってやる。」
広瀬は空を見上げ、笑みを浮かべてそう言った。
ペルゲと広瀬が話している直後、積はポケットから銃を取り出した。
「足音がかすかに聞こえた。誰か来るぞ。」
と言って、周りを警戒しながら2人に注意を促した。
広瀬は置いていた計算機をペルゲに渡した。
「託したぞ、ペルゲ。」
そう言うと、ペルゲは計算機を両手で受け取り、小さく頷いた。
「積くん、その銃を渡しに寄越してくれ。俺はここであいつを迎え撃つ。お前らは早く逃げろ。」
広瀬はそう言って、積に銃を渡し、ペルゲと積は広瀬を残して足音が聞こえた反対側の方へと走っていった。
ペルゲは途中で走るのをやめて後ろを振り返ったが、既に広瀬が見えなくなっていた。
すると、広瀬のところへ何者かが現れました。
「アポロニウス、お前を始末にやって来た。」
広瀬は後ろを振り向き、顔を見ると、声の主はアキレスであった。
「どうやら勝負を挑みに来たようだな?要は既に済んでいる。」
広瀬はそう言って、ポケットに両手を突っ込んだ。
ペルゲと積は走るのをやめて後ろを振り返った。走るのをやめた理由は、ペルゲが大きな塊を持ち運び疲れたからと、誰も追ってこなかったからであった。
すると、遠くで爆発音が鳴り、大きな煙が立ち上がった。
「先生・・・。」
「広瀬さん。」
2人は小さく呟き、立ち上る煙を見上げていた。
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