第2話 コンピュータからの便り


 ペルゲたちは計算の依頼が片付いたため、休息をとっていた。事務所にはペルゲ、積、そして建部の3人しかおらず、くつろいでいた。


「これでようやく休めるな。手計算であの量を片付けられたのはすごいぞ。」


「いやいや、他人に任せて計算していなかったじゃねーか。」


 ペルゲは積に自分が話した内容に突っ込まれつつも、浮かれた様子でそう呟いていた。


「ペルゲ、この前修理に出していたパソコンが直ったそうだから、今日中に届くぞ。もち、事務所に戻ってきたら俺がネットサーフィンで使うけどな。」


 建部は少し嬉しそうな表情でペルゲにそう伝えた。建部はスマホの画面が小さく見づらいため、画面の大きなパソコンが気に入っているらしい。


「そういえば、ペルゲ、俺たちが数学界に入ってから何も連絡が来ないな。彼らは別のことで忙しいのか?」


「ああ、きっと何か大事なことがあったんだろう。臨時の会議か、所属メンバーの脱退とかさ。」


 ペルゲと積は推測をしながら話していた。しかし、突然、彼らは何かに気づいたかのように目を丸くして固まってしまい、建部も自身の推測を述べた。


「もしかして、ペルゲの先生に何かあったのかもしれない?もち、根拠はないけどな。」


 3人は黙り込み、事務所内に冷たい空気が漂った。その空気を切り裂くかのように、事務所のインターホンが鳴った。宅配業者が修理に出していたパソコンを届けに来たのであった。


 建部は玄関へ行き、パソコンが入った箱を受け取った。箱を開け、修理されたばかりのパソコンを取り出すと、喜んでいた。


「そうだな、根拠はないし、そもそもあんなに目立つ数学者じゃないからな。」


 ペルゲは推測を否定し、新たな話題を提供した。


「そうだな、お腹も減ったし、何か食べよう。」


 積はソファーベッドに座り、ペルゲはお菓子を取りに行った。一方、建部はカウンターでパソコンの電源を入れた。


 しかし、しばらくしても画面は表示されず、電源ランプだけが点灯していた。不思議に思った建部は、積にパソコンを見せ、状況を確認させた。


「パソコンの画面がつかないんだけど、直ってないのか?もち、このパソコンは修理に出した業者から届いたものだけど。」


 建部は不安げに言い、積は首を傾げた。


 そこで、ペルゲがお菓子を持って2人のところに戻ってきた。


「2人ともどうしたのか?」


 質問してきたペルゲに、建部は事情を説明した。


「そうか、それならエンターキーを押せば解決するんじゃないか?」


「おいおいペルゲ、そんなことやったらまた壊れるかもしれないだろう。電源ボタンを長押しする方が良いだろ。」


「いいじゃん、どうせ直っていないんだからさ。えーい!」


 ペルゲと積は口論しながらも、ペルゲは構わずパソコンのエンターキーを押した。


 すると、パソコンは急に「ピー」という音を立て、その後人間の声が聞こえた。


「先生?」


 思わずペルゲは声に反応し、声に出してしまった。


「分かるかな?私の名は広瀬潔、別名アポロニウスだ。おそらくこの声を聞いているということは彼はやってくれたんだね。そんな説明をしている暇はない。ペルゲ、お前は今すぐペルゲ遺跡に来い。伝言は以上だ。」


 広瀬の声が聞こえなくなり、謎の機械音がなり始めた。


『ピピピー、ピピー、ピ、ドカーン。』


という音を立て、パソコンが急に爆発した。爆発は大きくなく、事務所内はパソコンの部品と食べ物が飛び散り、黒い煙で覆われた。


「皆、大丈夫か?あーあー、せっかくお菓子持って来たのに…」


「結局パソコンは壊れたか。しばらく使えないな。」


 ペルゲと建部はがっかりしてそれぞれ一言呟いた。


「お前らはお菓子とパソコンのことしか考えてないのかよ。それより、先生に何かあったのか?」


「いや、わからない。ただ、何か大変なことがあったに違いない。この数学界に。」


 積の質問にペルゲはそう答えた。少し不安そうな表情を見せながら、玄関へ行き、ドアを開けた。


「それじゃあ、散らかった物片付けるか。」


ペルゲは箒とちりとりを取り、片付けを始めました。




 その頃、建部が修理に出していたパソコンはまだ修理途中で、見た目があまり若くない女性が修理作業をしていた。先程ペルゲたちの事務所を訪れた配達員も同じ場にいた。


「例の物を届けて参りました。修理の具合はどうですか?」


と、配達員風の男性が言いながら、着替えていた。


「ぼちぼち。」


 女性はぶっきらぼうに答えた。彼女はエンジニアで機械の修理も得意だが、あまり乗り気ではないようだった。


「建部にはパソコンを直せと言われ、広瀬にはよくわからない音声データを渡され、あたしにそれをペルゲという小僧に送れと言われた。それを不良品のパソコンに取り付け、アルゴリズムとやら言う事務所に送った。あいつらはあたしを召使いみたいに扱いやがって。」


女性は手を動かしながら、建部と広瀬のことで溜め込んでいた愚痴をこぼした。


「まあ、メカのことなら二日町さんに頼れば解決するって巷では有名ですから。」


 男性は女性に機嫌を直そうとしつつ言った。


「やつは今トルコにいるんだって?」


「ええ、寒いので暖かい地中海にでも行きたかったのでしょう。」


 男性は女性の問いかけに答えた。すると、女性は手を止め、指の関節を鳴らした。


 すると、コーヒースタンドからコーヒーカップにコーヒーが注がれ、男性が取って女性のところへ持っていった。


「熱いですよ。あと、こぼさないでくださいよ。」


 男性は注意しながらコーヒーを渡した。


「まずいなあ。」


 女性は一口飲み、不満そうに言いました。


「すみません、砂糖入りますか?それとも新しいのに取り替えましょうか?」


 男性が心配そうに尋ねた。


 しかし、それに対して女性は

「違う。」

と、回答した。




 ペルゲたちの事務所「アルゴリズム」には、小町と川内がやってきて、5人で今日あった出来事を話した。ペルゲと積は旅支度を整え、爆発したパソコンと先生のことについて説明した。


「とりあえず、先生の居場所がわかってよかったですね。」


と、川内はほっとした様子で言った。


「パソコンが爆発した理由はわからないけど、先生からの伝言を伝えるために誰かが仕掛けたんだろう。」


 ペルゲは自分の推測を話した。


「でも、なぜペルゲ遺跡に来いって伝えたのかな?もしかして、『ペルゲ』って言う名前の繋がりで?」


 小町はジョークを交えて自分の推測を話した。


「それはあり得る。ただ、そこでしか話せない何か重要な話があるんだと思う。」


 不安そうな表情を見せる川内はペルゲに尋ねた。


「ペルゲさん、まさか危ないところに行くつもりじゃないですよね?」


 それに応えるように、ペルゲは言った。


「分からない。ただ、遺跡というくらいだからすごいところに違いない。」


 積は旅支度が整い、スーツケースを閉じた。その際、スーツの胸ポケットにナイフ、内側のポケットに銃を収めた。


「用意はできたぞ。」


 ペルゲは元気よく建部、小町、川内ら3人に出発の挨拶をし、積と共に事務所の玄関のドアを開けて出て行った。

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