計算記

仙人小山

第1話 結成!アルゴリズム


 人類は数式を生み出し、さまざまな文明を育んできた。時代が経過し、人々は計算の速さと正確さを競い合うようになった。そのなかで、数多くの数式を解き、秒速で答えを導く『計算鬼』と呼ばれた者がいた。


 陸前ペルゲは、今日も計算に追われていた。彼はアルゴリズムという事務所で働いており、さまざまな計算の依頼を引き受けていた。


「ああ、計算が終わらないわ。明日が締め切りだってのに。」

 ペルゲは計算を中断し、一休みした。


「おいおい、計算が進んでないって、もう時間が経ってるじゃないか。」

 積孝正は厳しい表情で言った。積は博学で、大学を首席で卒業し、剣道八段、射撃はグレード1、将棋は百戦百勝と、非凡な能力を持っていた。


 ペルゲはコップの水を飲み、少し疲れた様子で不満をこぼした。


「それにしても、パソコン、まだ修理中なの?それがあれば計算が早く終わるのに。」


「すまない、まだ修理中だ。もち、治るまでに時間がかかるよ。スマホを使って計算すれば?」

 建部和弘はスマホを見ながら、あまり気乗りしない口調で答えた。建部は眼鏡をかけており、特殊なレンズのせいか、曇っていて、誰も彼の目を近くで見たことがない。また、口癖のように「もち」という言葉を使う。


「この部屋は寒いから、スマホを使うとバッテリーが早くなくなるんだ。面倒くさいけど、仕方ないよ。」

 ペルゲは建部の提案に反論した。


「そういえば、今日高校生の男の子が来るって言ってたよね?」

 小野寺小町は掃除をしながら思い出した。彼女は事務所の看板娘で、昔からペルゲのそばにいたことから、現在も事務所で働いている。


「ああ、名前は忘れたけど、地元の高校生が弟子入りしたいって言ってた。もうすぐ来るんじゃないかな?」

と、ペルゲが答えた。


「それにしても、こんな時期に弟子入りなんだろう。高校生って冬は忙しいし、受験勉強や冬期講習会があるだろうに、ここに来ても楽しくないだろうな。」

 積とペルゲは考え込んだ。


「そうだ、この計算の依頼、今から来る子に任せよう。微積分ぐらい高校生ならできるだろう。」


「おい、いきなり来た子に計算を押し付けるなんて、お前、客をどう思ってるんだ?」


「いやいや、客じゃなくて弟子だろ、弟子!だったらこのぐらいの仕事はタダでやってもらわないと。」

 ペルゲと積は言い争った。


 そのうちにドアが開いた音が聞こえ、後にドアが閉まる音がし、その後男子高校生が現れた。


「はじめまして、澱高校普通科2年の川内大介です。今日からお世話になります。」


「よろしく、俺は所長の陸前ペルゲ。こっちは助手の積孝正、あちらが機械担当の建部和弘、そして彼女が経理の小野寺小町。以上、4人がメンバーだ。」


「よろしくお願いします。」

 お互いに自己紹介を交わした。


「ところで、君はどうしてこの事務所で弟子入りをしたいと思ったんだ?」

 積は川内に質問した。


「僕は来年の冬に受験を控えています。第一志望校は名門帝北大学です。帝北大学はどの学部も倍率3倍、合格者の9割は全国の名門高校出身のエリートです。そこに僕は来年合格するためにどうしても計算力を身につけたいんです。」


 川内は気持ちを込めて語った。


「無理だな。うちに来ても計算力なんて身に付かないぞ。もちもち、俺も計算は得意じゃないよ。」


「ちょっと、どうしてそんな夢を壊すようなことを子供に言うのよ。謝りなさいよ。」

 小町は建部に対して怒った。


「でも、別にそこまでして帝北大に行かなくてもいいんじゃない?別に建部を援護する気じゃないけど、俺も帝北大を無理に目指さなくても良いと思うよ。」

と、ペルゲは言った。


「そうですか?」

「ああ、そうだよ。剣術や射撃、勉強だって全てトップを取ってきた。でも、ペルゲに会って俺は計算でトップを目指したいと思った。ていうか、ペルゲ、お前もそうだろ?」


「別に1番を目指してるわけじゃないけど。でも、素直に表に出してないだけかもしれないな。」


 ペルゲと積、川内の3人の会話が弾みはじめた。


「ペルゲさんも何か目指しているものがあるんですか?」

 川内は興味津々に尋ねた。


「特に目指しているものはないけど、最近数学界に入ったんだ。理由は特にないけどね。」


「へっ、あの数学界に入ったんですか?」

 数学界とは人々が計算によって競い合う世界だ。数学界には指定の大手組織に所属することで入界できる。


「やっぱり、計算鬼の名前は伊達じゃなかったんですね。噂は聞いていました。難しいものや面倒な計算は何でも計算鬼が解決すると。」


「まあ、入ったって言っても昨日のことだけどな。ペルゲと俺の2人で。」


「へー、そんなんですか。ペルゲさんと積さんの2人で入ったんですね。でもどうして数学界に入ったんですか?」

 またもや川内は興味津々に尋ねた。


「実は俺の先生がここ最近急に姿を消したんだよ。先生は昔からの知り合いで、こんなに突然何も言わずに姿を消すような人じゃない。その理由を探るために数学界に入ったんだ。」

と、ペルゲは話した。


 話の途中で、川内はもっと興味津々になり、質問をした。


「その先生はどのような方ですか?有名な方なのでしょうか?もしかして、数学界にいる方ですか?」


「ああ、彼は数学界に所属しているよ。それに、とびっきりの優れた人だ。彼が作成する計算式や図形の曲線は美しい。見た瞬間に魅了されるようなものだ。」


 ペルゲは夢見心地に語った。


「へー、そうなんですか。でも、それじゃあいつがここに現れるかどうかわからないですね。すみません、いろいろ質問してしまって…。でも、ありがとうございます。」


 川内は謝罪したが、面白い話を聞いて、微笑んだ。


 ペルゲはコップの水を飲み干し、途中だった計算を川内に渡した。


「お前のこと、なんとなく理解した。だから、弟子入りするならこれらの問題を今日中に解いておけ。採用試験だから頼んだぞ。」


 ペルゲはそう言って、事務所の奥に消えていった。


「へっ、今日中に?しかも、微積分の問題ばかりじゃないですか。」

川内は戸惑いながら紙を受け取った。


「あいつ、本当に自分の作業を来たばかりの高校生に任せやがった。」

 積はあきれた表情で言った。


 とある高校生が来たことにより、事務所は少し新鮮味が増した。そんな雰囲気の中、建部のスマホにパソコンの修理の完了の通知が届いた。

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