第9話 島津羽莉(2) ※性描写あり(百合)
次に会ったとき、んのんちゃんは素直にこう謝った。
「ごめんね羽莉(うり)ちゃん、んのん本当は、新しいお友達と会うのが怖かったんだ。良い子だって聞いていたんだけど、本当に仲良くなれるか自信がなくて。だから逃げちゃった。約束を破ってごめんなさい」
んのんちゃんはわたしがあげた飴を指先でいじりながら続ける。
「でも、もう大丈夫。三原さんって子、多分会ってもこわくないと思う。約束の日をもう一度決めよう。でもね、その前に少しだけんのんに勇気をわけて」
そう言ってんのんちゃんはわたしに身を寄せる。そしてわたしの胸に顔を静かに深く埋めた。わずかな隙間から見える瞼は祈るように閉じられ、睫毛の先は頼りなく震えていた。わたしは彼女を落ち着かせるために頬を撫でる。
「羽莉ちゃんとこうしていると、やっぱり落ち着く。ねえ、んのんが生まれてきたのって、間違いなんかじゃないよね。学校のみんなも家族もんのんのこと嫌いだけど、んのんはこの世界で生きてていいんだよね」
「そんなの当たり前だよ。んのんちゃんは生きていていいんだよ」
「女の子ってやっぱり優しいね。んのん、女の子に生まれて良かった」
んのんちゃんはそう言って、わたしの下着に手を入れて女の子の証をなぞった。世界から見捨てられたんのんちゃんは、ときどきこうやってわたしの身体の輪郭を確かめて安心に身を浸すのだった。
「羽莉ちゃん、ちゃんと女の子だね。安心する……」
電気が通っていない階段下の秘密の部屋は昼でも薄暗い。電池式のランプを七つ置いてなんとかお互いの姿が見えるくらいだ。んのんちゃんはわたしの胸に顔を埋めたまま何度もわたしのかたちをなぞった。
わたしはんのんちゃんを抱きながら、脳裏に一輪の花が開いていくさまを見た。
これはわたし達の秘密の儀式だ。わたし達はあるときは暗闇で、あるときは荒廃した野で花を咲かせる。この花の名前はわからない。わたし達はこのうつくしい花を咲かせることで互いの結びつきを強めていた。
わたしはんのんちゃんを拒絶しないし、んのんちゃんもわたしを拒絶しない。わたし達は生きるのが下手な生き物どうしだ。わたし達は世間に溶け込もうと努力するけれども上手くいかずに爪弾きになっている。普通に振舞おうと世間にすり寄るけれども、結局空回って他者に嫌われてしまう。わたし達は似た者同士寄り添って傷をなめ合っているのだった。
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