第7話 インターネットブログによる『宇宙虹人イカホロ』レビュー
使命、運命、戦い、祈り。宇宙虹人イカホロに浄化されるということ
『宇宙虹人イカホロ』感想(ネタバレあり)
『宇宙虹人イカホロ』まったくの初見である。
全二十六話、子供向け特撮番組ということもあり、あくまでもイカホロの強さ・格好良さを堪能するものとして仕上がっている。現代の感覚でいえばツッコミどころや退屈で冗長に感じられる話もそれなりにあるが、まあ観て良かったなと思える作品ではある。
しかしイカホロは抜群に格好良く描かれているが、出てくる怪獣二十六体は少々残念な仕上がりである。
予算と時間の兼ね合いもあったのかもしれないが、中には「それ、青いビニールシート被っただけじゃない?」という怪獣もおり、何かもうちょっと頑張れなかったのかという感じだ。
『宇宙虹人イカホロ』は今でもたまにグッズが作られたりするが、ほぼイカホロであって怪獣の商品はあまりないように思う。
しかしオレはこの二十六体の怪獣が嫌いになれないというか割と好きかもしれない。
なので今回はこの怪獣について書こうと思う。
ネタバレをするとこれらの怪獣は全員元人間である。
宇宙皇帝ダイダイという悪い奴が、無辜な人間たちに怪獣になるための種を植えて、それを発芽させて怪獣を作るのである。
彼らは第一話で主人公の少年アカツキが参加した「やさか天文教室」メンバーの二十六名だ。
宇宙皇帝ダイダイは夜空を見上げる天文教室の人間二十六名全員にその場で一斉に種を植えた。(たいへん効率が良い)
天文教室の参加者は老若男女さまざまで、星を見ることに興味のある人々の集まりだった。解説する先生、その助手の大学生、高校生カップル、会社員、まだ小学生にもならない女の子、その付き添いのお婆さん、そして主人公アカツキ。
見える星ひとつひとつに喜びの声をあげていたあの人たちが怪獣になって倒されてしまったとは。何も悪いことなんてしていないのに。
ちなみに出てくる怪獣の名前は制作側の「子供たちに言葉を覚えてほしい」という願いが込められているため必ず「二字熟語+カタカナ」で構成されているのだが、まさか天文教室の参加者達も自分たちが「興隆ギオカーラー」「混沌カルカル」「巧妙ヒタムロン」といった凄まじい名前で呼ばれる日が来るとは思いもしなかっただろう。
イカホロは戦いの最後に必ず「アヌエヌエの矢」という浄化技を使う。
これは破壊された街を直す力でもあるが、どちらかというと怪獣を浄化する力の意味合いの方が強い。この技は人間だった怪獣を「倒す」のではなく「眠らせてあげる」のである。
ここで気付くのは、イカホロは地球を守る正義の味方ではなく、怪獣にされてしまった可哀想な人間を弔いに来たお坊さんに近い存在だということである。
ただし作中ではイカホロは一貫して強いヒーロー扱いのためイカホロが「弔いにやって来た」存在だということは視聴者が俯瞰すればそう見えるということに過ぎない。
さて『宇宙虹人イカホロ』に出てくる二十六体の怪獣の内、知名度が高い怪獣は「興隆ギオカーラー」「斜陽ヒタグロック」「厭世ハルバッティ」の三体だと思う。
滅多にグッズにならない怪獣が選抜されるときは大体この三体が描かれる。
「興隆ギオカーラー」はイカホロが最初に戦った(弔った)記念すべき怪獣である。
残り二体についてはこれから書いていく。
「斜陽ヒタグロック」は恐らく一番知名度が高い怪獣である。
何故かというとこれは主人公の少年アカツキが怪獣になった姿だからである。
グッズ化の怪獣枠は高確率でこの斜陽ヒタグロックで埋まる。さすがは主人公といったところか。
アカツキもやさか天文教室の参加者であるため当然怪獣になるのだが、主人公なので発芽するのは最後、最終話である。
第十五話でアカツキは宇宙皇帝ダイダイの息子・インディゴと和解し、彼を仲間にすることに成功するが、アカツキはこのインディゴから、怪獣が全てやさか天文教室の参加者であることを知らされる。
アカツキは自身の消滅は怖くないが、怪獣になって誰かを傷付けるということはどうやら怖いらしい。随分と老成している小学生である。以下台詞書き起こし。
「ぼくが怪獣になったら、ぼくはこの街を壊すだろう。父さん母さん七色少年探偵団のみんなのこともわからなくなる。イカホロ、ぼくはきみにも容赦なく襲い掛かるだろう。ぼくは怪獣に、自分を制御できない恐ろしい化け物になってしまう。だからどうかちゃんとぼくを倒してほしい。みんなを傷付ける前にちゃんと倒してほしい」
いかにも主人公らしいきりりとした喋り方であった。対してイカホロはこう告げる。以下台詞書き起こし。
「アカツキ、私はきみを倒すんじゃない。救うんだ。きみの美しい魂を安らかな眠りにつかせるんだ。それに、きみは化け物なんかじゃない。たとえ見た目が変わろうとも、きみの魂の美しさは変わらない。きみは勇者だ」
きりりとしたアカツキに対してイカホロもやはりきりりと返している。死を目前にしているというのに両者湿っぽいところはひとつもない。特にアカツキなど小学生なのだからもっと弱気になってもいいくらいなのだが超然としている。アカツキは普段から誰にでも優しく勉強もスポーツもできる完璧超人であるが、そういう超然とした人間でないとイカホロを召喚する勇者としての資格は得られないのかもしれない。
いよいよアカツキの身体に異変が起きる。醜い怪獣になっていく中、彼はイカホロを信じて虹色の笛を吹き始める。笛は最後アカツキの巨躯に押しつぶされて割れてしまうのだが、破片が虹のようにきらきらと輝いていて何とも言えず綺麗であった。
斜陽ヒタグロックはイカホロに容赦なくボコボコにされた後浄化される。
その後は七色の光に包まれたアカツキが明るい笑顔を見せながらイカホロと共に地球を去る。
このカットで『宇宙虹人イカホロ』は終了である。
実際はどうだかはわからないが、きっと他の怪獣も浄化後はこんな風に七色の光と共に人の姿に戻っているんじゃないかな、と想像できるような終わり方でオレは良かったと思う。
さて「厭世ハルバッティ」は第十一話に登場する。
厭世ハルバッティはイカホロが唯一浄化できなかった怪獣である。
厭世ハルバッティはイカホロではなく民間の日暈研究所が独自に開発した兵器によって倒された。
日暈研究所は、独自に怪獣の研究を行っている組織であり、怪獣出現の後に街の人が一人消えることに気付いていた賢い集団だ。(ちなみに怪獣の名前は彼らがつけている。勝手に)
しかし彼らは「イカホロを呼ぶ代償に人が消えている」という誤った結論を出した。だから、街の人を守るためにイカホロが来る前に怪獣を倒したのだ。
イカホロなしで倒してしまったのでもちろんこの怪獣は浄化されず、苦しんで死んだ。アヌエヌエの矢なら美しい光に包まれて消滅するが、そうではないので巨大な死体も残ったままだ。
第二十話にて、イカホロは仲間になったインディゴの肉体を借り、アカツキと共にこの怪獣の骨を見に行く。怪獣は大きすぎて処理できず、骨が未だに放置されているのである。悪臭も凄いのでこの近辺に住む人々はこの怪獣を激しく憎んでいた。そんな怪獣にイカホロとアカツキは花束を捧げる。
オレはこの可哀想な怪獣「厭世ハルバッティ」に心惹かれる。
この怪獣がやさか天文教室の誰だったのかは作中では明かされないが、唯一浄化してもらえなかった彼(彼女)を思うと何だかやりきれないのだ。
同じ怪獣なのに厭世ハルバッティのときだけイカホロが来てくれない。
「浄化後に七色の光と共に人の姿に戻っているのではないか」と思わせる最終回後の余韻の中にも厭世ハルバッティの姿はないのである。
厭世ハルバッティの骨はそう簡単にはなくならないだろうし、下手したら今も残っているかもしれない。骨が残っている間はそこに住んでいる人々はずっと彼(彼女)を疎み続けるだろう。その中には彼(彼女)の家族や友達もいることだろう。
イカホロとアカツキの捧げた花束は彼(彼女)の救いになっただろうか?
花束のひとつやふたつでどうにかなるとはオレには到底思えないのだが、厭世ハルバッティ的には、苦しみの中に長くいたために小さな花束を貰っただけでも救われた気持ちになったのかもしれない。
アカツキこと斜陽ヒタグロックも悲劇だが、イカホロが傍にいてくれただけ随分ましだったと思う。
オレの感想は以上です。次回の更新は来月になります。
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