ふたりの比





朝。


教室の扉の前で、私はひとつ息を吐く。


ジャラジャラと大量の小物を付けたスクールバッグを肩にかけ、ヒールで廊下の床を蹴る。


もアイラインもばっちり。


根本まで染めたハーフアップのシュシュと、ピアスがワンポイント。


今日も。


私はかわいい。


そして教室の扉の前で、私はひとつ息を吐く。


ごくりと生唾を飲み込んで。


勢い良く扉を開いた。


教室中の視線が一気に私に集まる。


クローン人間のように全く同じシルエット。


黒髪ロングのシースルー前髪たち。


「……」


私は視線を無視して大股で歩くと、どかっと一番前の席に座る。


くすくす、という雑音も気にしない。


「おら、席着けー」


プリン頭にジャージ姿の担任が気怠げに入ってくる。


私の姿を見るなり、「お、今日のメイク100点じゃね」と余計な一言。


「他の奴らも見習えなー。どいつもこいつも同じような恰好しやがって」


「えー」「あはは」「はーい」


死ね。


死ね。


マジで死ね。





昼休み。


私はいつものように、机に突っ伏して寝たふりをする。


「真面目ちゃん」


という単語だけを、周囲の会話の中から耳が拾ってしまう。


その時、そっと私の手に何かが触れた。


心臓が跳ね上がる。


寝たふりをする私の机の端に、腰かけるようにして、ひときわ長い黒髪をポニーテールでまとめた彼女。


他の友達と話しながら、私の手の中に何かを潜り込ませると、離れていった。


私はそれをトイレの個室で確認する。


折り畳まれたノートの切れ端に綺麗な文字。


「放課後 いつもの場所で」





「おかしいでしょ!?」


私の訴えを、彼女は呆れたような顔で受け止める。呆れた顔もかわいい。


「そうねぇ…」


「社会に出たら化粧もできなきゃなんだから、今からちゃんとやっておけって先生も言ってたじゃん!!」


放課後。誰も来ない校舎の裏が、私たちの秘密の場所だ。

大股開きで校舎の端に腰かける私の隣で、彼女はこんな場所でも姿勢正しく座っている。

ていうかスタイル良過ぎ。


「真面目ね」


「む」


「ふふ、怒った?」


悪戯っぽい彼女の流し目を見ると何も言えなくなる。

ほんとにノーメイク?


「若いのは今だけなんだから、わざわざお肌を傷付けるようなことしたくないじゃない? 化粧は必要になってからでもさ」


「でもやっぱりおかしい…!」


ただ聞いてもらいたいだけの私の愚痴は、しかし途中で彼女の唇に塞がれた。


「なっ…」


「私たちだって、おかしいじゃない」


「……」


彼女の綺麗な頬は、チークを入れたようにほんのり赤くなっている。


彼女の手が、再び私の手にそっと重なる。


(その通りだ…)





END

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マスクの日 天木犬太 @y_suket

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