ふたりの比
朝。
教室の扉の前で、私はひとつ息を吐く。
ジャラジャラと大量の小物を付けたスクールバッグを肩にかけ、ヒールで廊下の床を蹴る。
つけまもアイラインもばっちり。
根本まで染めたハーフアップのシュシュと、ピアスがワンポイント。
今日も。
私はかわいい。
そして教室の扉の前で、私はひとつ息を吐く。
ごくりと生唾を飲み込んで。
勢い良く扉を開いた。
教室中の視線が一気に私に集まる。
クローン人間のように全く同じシルエット。
黒髪ロングのシースルー前髪たち。
「……」
私は視線を無視して大股で歩くと、どかっと一番前の席に座る。
くすくす、という雑音も気にしない。
「おら、席着けー」
プリン頭にジャージ姿の担任が気怠げに入ってくる。
私の姿を見るなり、「お、今日のメイク100点じゃね」と余計な一言。
「他の奴らも見習えなー。どいつもこいつも同じような恰好しやがって」
「えー」「あはは」「はーい」
死ね。
死ね。
マジで死ね。
◆
昼休み。
私はいつものように、机に突っ伏して寝たふりをする。
「真面目ちゃん」
という単語だけを、周囲の会話の中から耳が拾ってしまう。
その時、そっと私の手に何かが触れた。
心臓が跳ね上がる。
寝たふりをする私の机の端に、腰かけるようにして、ひときわ長い黒髪をポニーテールでまとめた彼女。
他の友達と話しながら、私の手の中に何かを潜り込ませると、離れていった。
私はそれをトイレの個室で確認する。
折り畳まれたノートの切れ端に綺麗な文字。
「放課後 いつもの場所で」
◆
「おかしいでしょ!?」
私の訴えを、彼女は呆れたような顔で受け止める。呆れた顔もかわいい。
「そうねぇ…」
「社会に出たら化粧もできなきゃなんだから、今からちゃんとやっておけって先生も言ってたじゃん!!」
放課後。誰も来ない校舎の裏が、私たちの秘密の場所だ。
大股開きで校舎の端に腰かける私の隣で、彼女はこんな場所でも姿勢正しく座っている。
ていうかスタイル良過ぎ。
「真面目ね」
「む」
「ふふ、怒った?」
悪戯っぽい彼女の流し目を見ると何も言えなくなる。
ほんとにノーメイク?
「若いのは今だけなんだから、わざわざお肌を傷付けるようなことしたくないじゃない? 化粧は必要になってからでもさ」
「でもやっぱりおかしい…!」
ただ聞いてもらいたいだけの私の愚痴は、しかし途中で彼女の唇に塞がれた。
「なっ…」
「私たちだって、おかしいじゃない」
「……」
彼女の綺麗な頬は、チークを入れたようにほんのり赤くなっている。
彼女の手が、再び私の手にそっと重なる。
(その通りだ…)
END
マスクの日 天木犬太 @y_suket
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