第59話
「花梨、どうする」
安室が刀に手を添えたまま東堂にささやく。目の前の男は明らかに格上であり、クラスの格だけで図るのならクラス対抗戦でも上から数えた方が早い実力者である。それこそ、この学園に入った段階では東堂も安室も逆立ちしたって敵わないぐらいの実力差がある。
事実、東堂も花梨もこの学園に入ってから成長を続けてきた自負はあるが、それでBクラス主席相手に勝てると策もなしに考えるほど楽観的ではない。それでも、
「二対一で戦えるなんて今ぐらいさ」
「そうだな、ここで逃げたら勝ち目なんてないよね」
二人は視線を合わせると萩野相手に戦闘態勢をとる。安室の感覚は辺りに他の参加者はおらず、目の前の萩野が一人でいることを示している。ここで逃げたところで、のちにもう一人のBクラス代表と合流されたらさらに勝ち目は薄くなる。もちろん他の参加者に倒されて、より楽に漁夫の利を得られる可能性もあるが、東堂と安室の二人は逃げた先の勝利よりも、目の前の闘いを選んだ。
「作戦会議は終わったか?」
「待っててくれたんだ」
「雑魚相手にそこまでせっつかねーよ」
「その言葉、後悔してもしらないわよ!」
安室が一騎当千の出力を一気に引き上げ前に出る。萩野は右腕のアルマで刀を受けて反撃に出るが、それよりも速く安室が横に回り込んだ。
「うぐっ!」
「ナイス花梨!」
安室が回り込む直前に、その後ろからハイキャノンを東堂が発射したことにより萩野はギリギリまでその弾丸を視認出来ずに直撃してしまう。致命傷でこそないものの、のけぞらせるぐらいにはダメージが入っている。
(いける!
安室は感覚から目の前の萩野が
これなら押し切れば倒せる、そうでなくとも身体能力という点に関してはこちら二人が完全に上回っている。そう確信した安室が、東堂の援護により隙ができた萩野に止めとばかりに強力な一撃を首めがけて放つ。
「きゃぁ!?」
「へぇ、下位クラスの割には良い
刀を振り抜いたはずが、萩野はそれをあっさりと掴むと前蹴りを放ち安室の腹に突き刺した。萩野の動きはそれまでとは違い、明らかに何らかの
(ここまで使ってなかったってことは、単純な強化系じゃないのかもしれないな。どっちにしろもう少し引いて戦わないとまずそうだね)
「麗、まだやれるかい?」
「もちろん!」
萩野の蹴りで吹き飛ばされた安室を受け止めながら、東堂は目の前の戦力差をなんとか埋めようと考えを巡らせていく。安室の方も腹を押さえてこそいるが、まだ心は折れていない。撃たれたところをさすりながらこちらを観察する萩野を睨みつけ、安室と東堂の二人は再度立ち上がる。
「せやっあぁぁ!」
「まだ折れないのか、頑張るねぇ」
安室の刀を避けながら萩野は少しばかりうんざりしたような口調で話す。東堂と安室の見立てでは何らかの
これまでは安室がガンガンと前に出て、どうしても避けられそうにない時だけ東堂がカバーをしていたが、今度は安室はじっくりと刀の距離を保ちながら東堂がハイキャノンで攻める。このために東堂はハイキャノンを改造し、威力を高めにいったのもあり
「……ちっ」
攻めようよとすると、その気配を察知した安室の合図によりお互いがお互いをカバーする連携により萩野は攻めあぐね、イラつきから舌打ちが無意識に出た。
(ここだ!)
「花梨!」
「了解! 麗」
アルマ戦において、集中力が削がれるようなことはそのまま
「え?」
ただ、この作戦はあくまで
「花梨ーー!」
まさかこの瞬間まで萩野が右腕につけた大砲を隠しているとは思っていなかった。常に不意打ちの危険性があるこの戦いで、少しでも防御力を上げ即座に攻勢に出るためにも装備できるアルマは全て
「っ! 大丈夫、ギリギリ防御したっ……」
(妙だな……Bクラス主席の割に軽いような)
東堂が頭に浮かんだ疑問を先に進めるのを妨害するように萩野は一気に攻勢に出てきた。右腕は東堂と同じくハイキャノンに変化しており、安室の攻撃を受けながらも東堂の砲弾を牽制していく。
(やはり何かがおかしい……私の砲弾の方が明らかに威力が高い)
東堂の砲弾と萩野の砲弾がぶつかると、東堂の砲弾が打ち勝つのは砲弾に強化APを振った関係上ありえると思っていたが、Bクラス主席の力があるというのにここまで一方的に弾の威力で勝てるのは疑問がある。それでも一瞬砲弾が止まるだけでも萩野には十分な猶予である。
「な……に?」
そして、安室の攻撃を強化された拳で弾いた萩野は後ろにステップして大きく距離をとった。砲弾の威力では東堂が勝るというのに、遠距離にわざわざ移動した。萩野がハイキャノンを乱射し、東堂が
それは、一度でも見ていれば忘れることもできないような単純かつ強力な熱線を発射する
「なかなかやるじゃないか。ただ、いい加減めんどくさくなってきたし幕を引こうじゃないか」
「あ……あ」
「くっ……そおっおおお!!!」
その圧倒的な弾幕量に、二人の叫びも塗りつぶされてしまうのであった。
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