第58話
一瞬の浮遊感を感じたのもつかの間、光一の視界に入ってきたのは木々の生い茂る森であった。ぐるりと辺りを見渡すと、背の高い木々に阻まれて視界は悪く、奪還戦をおこなっている森よりも見通しは悪い。視線を空に映すと、雲ひとつない青い空と円形であるフィールドの中央に木が一本も生えていないはげ山が一つ鎮座していた。
すると、空に雲の代わりに突然空中に巨大なディスプレイが表れる。それに映っていたのは、今回の対抗戦の責任者でもある笹山であった。
『全員無事にダイブ出来たようだな。それでは、ただいまからクラス対抗戦を開始する! 皆全力を尽くすように』
そう言うと、ディスプレイにBATTLE STARTの文字が映し出される。それと同時に、他の場所にも散り散りにダイブしていた生徒たちが同時にアルマを纏い動き出す。
(かなりシンプルなフィールドみたいだな)
例年のVRフィールドでは、現実の学園では難しいフィールドを再現することがほとんどであったが今回は流れを変えたせいなのか奪還戦や入学試験などで何度も戦ったフィールドに近しいものとなっていた。
(それよりも……やっぱり無理か)
光一はアルマを付けた右腕を見る。楽島の改造の結果、初期のアルマから一回り大きくゴツくなったそれは耐久性に大きく振ってほしいという無茶な要求をできる限り叶えてくれたようである。
光一が懸念していたのは、アルマの耐久値ではなく魔力と気のことである。右腕に魔力を込め肉体強化を試してみるが、その耐久性が上がったような気はしない。気の方は魔力に比べればほんの少しだけ強化が行われているような気がしたが、それでも戦闘に耐えうる代物ではなかった。
(多分、現実の方は強化されてるんだろうけどVR世界までは
パルスギアを被った現実の体はベットの上で横になっており、体が動かないように神経の信号をブロックしている。そのせいもあり、強化された感覚こそないが現実の右腕は魔力で強化されているのだろが、それでは今回の闘いでは意味はない。つまり、笹山にそんな意図はないとしても光一はこの戦いにおいて魔力や気による肉体強化の使用を封じられたも同然というわけだ。
(まあ、うすうす分かっていたがな。それでもやりようはある)
VRフィールドで行うと聞いてから、この可能性を考えていなかった光一ではない。トレーニングアルマを含むサブアルマの動作も正常であることを確認すると、深い森の中に消えて行くのであった。
「ぐあっ……!」
「やったわね、麗」
「ああ、なんとか最速リタイアは避けれたな。花梨」
対抗戦が開幕してから数分時点、この戦場で一番運が良かった選手はDクラス代表である東堂花梨と安室麗の二人であった。この二人はランダムであるはずの開始位置が非常に近く、安室の
安室はあの合同クラス演習から特に力を伸ばしており、最初はパワーやスピードを強化することしかできなかった一騎当千の
「それにしても随分と麗は伸びたわよね、もう私も抜かされちゃったかも」
「そんな謙遜しないでよ、花梨だって伸びてるじゃない。私も離されないように必死なんだからね」
防御に関していえばもっと上のクラスにさえ通用する東堂と、感知能力にまで
「……花梨、止まって」
僅かに先行していた安室が、手を横に出して東堂の歩みを静止する。安室が戦闘準備とばかりに腰を落とし刀に手をかける。だが、その顔はさきほどEクラスの一人と闘う直前のようなものはなく、緊張と恐怖、そして迷いが混ざったような表情をしていた。
(……どうしたの麗?)
(この先に気配がする……それもかなり大きい気配が)
木々が生い茂る森の視界は悪く、東堂からすれば何も分からないが、感覚が強化されてる安室がそう言うのであれば間違いないのだろう。そして、先手を取るというアドバンテージがあってなお攻めるのを躊躇するほどの相手だというわけだ。
「ッ! 花梨! 避けて!」
安室の言葉を受けて、東堂はその言葉の是非を確認するより先に回避行動に出る。その信頼がなければ、目の前の木々をなぎ倒す数十の砲弾が直撃していただろう。
「おっ、いきなりついてるじゃねーか。
なぎ倒された木々の先で東堂と安室を見ていたのは、Bクラスの代表である萩野圭太であった。
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