第60話

(さて、それでは良い狙撃ポイントでも探しましょうか)


 クラス対抗戦がスタートしてから、Aクラス次席である鳳上は背中から二つのファンネルと機械によって作られた羽を展開する。機械仕掛けの戦乙女デウエスヴァルキリー、鳳上が持つ能力スキルであり、展開している間は機械の羽による飛行とファンネルによる探知が行えるというものである。

 このクラス対抗戦において、初動の動きは重要である。集中力が同調シンクロ率という戦力に対して大きな要素となる以上、先手をとって一撃を加えることができれば一気に有利になる。そのため、先手を取れると同時に不意の攻撃に警戒することができる探索系の能力スキルは強力な能力スキルといえる。


(私の熱線アポロンゲイザーの有効射程は百メートル弱、できれば身を隠せる高台なんかがあると理想なのですけれど……)


 そして、鳳上の持つ能力スキルはそれだけでない。熱線アポロンゲイザー、熱のビームを右手から照射するという文字にすれば単純な能力スキルであるが、その貫通力と気力が続く限り撃ち続けられるという強力な特性を有している。それどころか、この二つの能力スキルを鳳上が発現したのはこの学園に入学する一年前である。

 そう、二つの能力スキルの発現に成功した通称ダブルに、今年入学した生徒の中で一番早いのは谷中紘一だと斎藤は考えていたが、実は違う。この学園に入る前に鳳上が既にダブルへの覚醒を成し遂げている。彼女は入学試験では意図的にこの能力スキルを使ってはいなかったが、それはあくまで能力スキルに頼り切らずとも学園のトップになれるという自負のもと自分に課した枷であった。


(しかし、現実は学園次席。……で! す! が! このクラス対抗戦であの一ノ瀬を倒して、今度こそ私が学年主席に相応しいと認めさせてあげますわ! ……おっと、大声はNGでしたわね)


 思わず高笑いをしそうになるのを堪え、鳳上はさらに歩みを進めようとしたその時、ファンネルが誰かが近くにいる気配を捉え意識をそちらに向ける。ファンネルが受信した映像を眼前に出現させたディスプレイで確認すると、


(この見た目は……確かFクラスの代表でしたわね)

 

 そこに映されていたのは、目の上のたんこぶである一ノ瀬がなぜか目をかけているFクラス代表こと、光一であった。一ノ瀬本人が入学試験で苦戦したとは言っていたが、彼はどうも闘いを楽しむためにしばしば手を抜く悪癖があるのは鳳上も知っていた。

 だがしかし、一ノ瀬が光一を高く買っているのも事実であり、クラス対抗戦で光一を倒したとなれば主席である彼に自分のことを認めさせることができるだろう。そう考えた彼女は、足音を立てぬように歩き、羽をできるだけ折り畳みながら光一のいる方へ向かう。


(いましたわ)


 鳳上が光一を肉眼で確認できる距離まで近づくが、あちらはまだこちらに気がついていないようである。木々によって鳳上の姿が隠れているのもあるが、どうやらあちらに探索を行えるような能力スキルやアルマを持っていないのだと考え右腕に熱線アポロンゲイザー、の為のエネルギーを溜める。


「なっ……!!!??」


 完全に不意打ちで放ったはず、それでもミスがあったとしたら木々に隠れて熱線アポロンゲイザーを放ったせいで、光一に着弾する前に木々が焦げる音が鳴ってしまったことだろうか。その音に反応した光一は即座に鳳上の方を向くと、右手で熱線アポロンゲイザーを受け止める。

 鳳上からすれば、その多少反応されようとも、熱線アポロンゲイザーの貫通力であれば生半可な防御などそのまま貫通して致命傷を負わせられると踏んでいたのだが、それがあっさりと右腕で受けられてしまうなど想定外である。


(いや……いつもの癖で無意識に手加減してしまっただけですの……次こそっ!)


 鳳上の熱線アポロンゲイザーはその性質上、あまりにも戦力差がありすぎると致命傷を負わせてしまうことから、安全装置がある学園に入る前は常に手加減をして発動をしていた。その時の癖で手加減をしてしまった。目の前のFクラスに耐えられてしまったのはそのせいだと考え、鳳上はバックステップで距離を取りながらファンネルと右腕を光一に向ける。


熱線アポロンゲイザー、最大出力!!」


 二つの能力スキルを発現させてから長らく使い続けてきた鳳上にとって、能力スキルの応用すすら実現できるまでになり、最初は右手からしか放てなかった熱線アポロンゲイザー機械仕掛けの戦乙女デウエスヴァルキリーのファンネルから放つことができるまでになっていた。

 三方向からの全力射撃を一転に集約させた鳳上の持つ最大の威力を持つ一撃、目の前の相手は最初から全力を持って倒さねばならないという判断を即座にできるだけ、彼女はやはり優等生なのだろう。


「……限界突破オーバーリミット

「えっ?」


 ただ、目の前の相手がそんな優等生の理屈だけで説明がつくような相手ではないのも事実なのだが。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る