第52話

「笹山先生、ちょっと話があります」


 クラス対抗戦のための会議が終えたのち、光一は笹山に会いに来ていた。最初は職員室に行ったのだが、姿が見えずいろいろ探し回った結果保健室のベットを一つ占領する笹山の姿をようやく見つけたのだ。


「なんだ? 今私は忙しいから訓練には付き合えないぞ」

「忙しそうには見えませんけど」

「事務作業前のちょっとした休憩中だ」


 体育座りをしながら、手元のタブレットを操作していた笹山はため息をついて光一の方から視線を背けた。まるで、しかられた子供が言い訳に悩んでいるかのような雰囲気が漂ってくる。


「谷中くん、あんまり舞をいじめないでよ。これでも君の事を思っての事なんだから」

「……どういうことです?」


 ばつの悪そうな笹山を助けるように、マグカップを二つ持った葉波が声をかけてきた。光一と笹山にコーヒーの入ったカップを渡すと、自身の席に戻り笹山の方に目配せをした。


「VRフィールドで撃墜戦をする際の一番の特徴はなんだと思う」

「身体能力の差が出にくいところですかね?」

「違う。脱落リタイヤの安全性が高いということだ」


 光一の指摘も完全に間違っている訳ではない。いや、むしろ彼からすればこの部分こそ一番危惧するところなのである。VRフィールドでは事前に測定された筋力量などから推定された肉体を使って動く。この肉体はほぼ現実と遜色なく動かすこともでき、五感もしっかりと再現されている。

 しかし、気や魔力といったこの時代でも存在がようやく認められ始めたばかりのものの再現はほとんど出来ていない。つまり、光一の気力強化や魔力強化はVRフィールド内で使えないという訳だ。


 同じアルマ、同じ同調シンクロ率ならば技量と気や魔力に身体能力の強化で有利を取れる光一にとってこのハンデは痛い。


「お前の闘い方については少し問題がある」

「だとしても」

「あそこまで自分の身を顧みない闘い方、いつかが起こっても不思議じゃない。私は教師だ、生徒にそんなことをさせるわけにはいかないんだ」


 笹山の言葉に反論しようとしたが、食い気味の言葉に潰されてしまう。確かにVRフィールドは光一にとって不利なる要素が多い。ただ、それは何も光一を貶めようということではなく、身を削るような闘いを続ける彼を心配してのことというのは分かった。


「……分かりました」


 だからこそ、光一はそれ以上の言葉を、貰ったコーヒーと一緒に飲み干して保健室から出ていくのであった。



「いいの? 一人の生徒相手に行事の裏事情まで教えて」

「ああでもしないと、もっと上の方まで抗議に行きそうだったからな。どうせ限界突破オーバーリミットの出力を抑えろといっても耳を貸さないだろう」

「それもそうかもね。でも、珍しいじゃない、舞がそこまで入れ込むなんてさ。もしかして昔の舞と重ねてる?」

「そうかも……しれないな」


 光一が去った教室で、二人はそんな会話をしながら昔を懐かしむのであった。




『どうやら決定は覆らなかったみたいだね』

『仕方ないな』

『大丈夫なのかい? 随分な戦力ダウンになりそうだけれど』

『ま、それはそうだが。だとしても勝ってみせるよ、リースから貰った自身操作ちからはそう簡単に負けないいさ』

『そう言って貰えると嬉しいね、応援してるよ。光一』


 廊下を歩く途中、リースから念話が飛んできた。従者である光一の主ということで、彼女は自由に光一の視界と聴覚を共有できると前に言ってことから、先ほどの会話を聞いていたのだろう。

 大きく戦力ダウンしたのは事実。だが、それでも光一の心は揺るがない。己の価値を認めてくれた彼女の顔に泥を塗らぬように、もう一度決意するように宣言するのであった。



「さ、となれば装備選びは真面目にやらないとな」


 クラス対抗戦出場者には、少しでもクラス間の差を埋めるという名目で追加のAPが配布されている。それでも簡単にクラスの差は縮まらないのだが、このAPの使い方でこれからの闘いを左右しうるだけのポテンシャルはある。

 入学してからずっと初期装備と貰ったトレーニングアルマだけで闘って来た光一にとって、初めてとなるアルマ購入をするために、そういった店が並ぶ学園施設、通称“購買部”に足を運ぶのであった。





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