第51話

「おーい、光一。そろそろ時間だから行こうぜ」

「ああ、もうそんな時間か」


 代表決定戦から数日、放課後に光一と斎藤は呼び出されていた。いつものように笹山に呼び出されているのではない、下位クラスからすれば縁のないAクラス近くにある会議室に来るように連絡が来たのだ。

 下位クラスがある旧校舎から上位クラスのある新校舎を繋ぐ渡り廊下を歩く最中、こっちを見る視線がいくつも刺さるが横にいる斉藤は特に気にしていないようである。光一も平静を装っているが、自身操作が無ければいくらか態度に出ていたかもしれないと思うと、その図太さは見習いたいものがある。



「やあ、重役出勤かい?」

「仕方ないだろ、旧校舎の端からここまで結構距離あるんだからよ」


 そんなことを考えながら会議室に入ると、既にFクラス以外の生徒は到着していたようで円卓に座ると隣に座っていた一ノ瀬にそんな軽口を叩かれた。しょうがないだろ、と言いながら席に座ると今度は右隣りの斉藤から肩を叩かれた。


「なんだよ」

「なんだ、じゃねぇよ。光一、お前Aクラスの代表と知り合いなのか?」

「知り合い……なんて改めて考えるとなんて言ったらいいんだろうか」


 よくよく考えてみると、光一が一ノ瀬と顔を合わせたのは入学試験の時が最初で最後である。学年主席である一ノ瀬のことは何かと聞きはするものの、友人と言えるほどの付き合いはない。顎に手を当てて悩んでいると、一ノ瀬が会話に入って来た。


「ふふっ、その通り僕と君の関係を簡単に言われても困るからね。にしたって驚いたよ、まさかFクラスに居たなんてね」

「筆記が悪くてな、歴史は苦手だったんもんで」


 悪かったな、と一言付け加えたところで、光一は一ノ瀬のさらに奥に座る少女がこちらをジト目で睨んでいるのに気づいた。


「なんかお前の隣の人に睨まれてるんだけど、何か変な事でも吹き込んだか?」

「? いや、特にあることないこと話したつもりはないんだけど」


 一ノ瀬に質問するも、何も情報が増えなかった。もし、この世界に来る前の光一の知り合いなんて事を言われたら、不味いことになることは分かっている。しかし、だからといって何が最善かなんてすぐさま判断できるほど高くない自分のコミュニケーション能力に辟易していると、向こうから話しかけてきた。


「あなたが、光一さんかしら?」

「貴方が想像している光一かどうかは知らないが、俺の名前は光一であっているよ」

「実技が圧倒的だった学年主席が撃墜戦で、唯一アルマを破損させられた光一さんですよね。私の名前は鳳上灯、以後お見知りおきを」


 鳳上の言葉に円卓に座る他クラスの生徒が一斉にこちらを見た。それもその筈、上位クラスほど一ノ瀬の強さは身に染みている。もちろん、撃墜戦での圧倒的な成績もだ。その一ノ瀬に迫るとまで言われるとなれば、この反応も自然だろう。

 ざわりと部屋の空気が揺れたところで、笹山が会議室に入ってきたことで雑談の時間も終わりを告げる。



「さて、みんな集まったようだな。それじゃあ始めるぞ、クラス対抗戦のルールについてな」


 先ほどの鳳上の言葉も生徒の心を揺らしていたが、笹山の言葉はそれ以上に生徒たちの心を揺らすのであった。


「今年のクラス対抗戦だが、パルスギアを使ったVRフィールドで行う。大まかなルールは例年通り、先に配った配布資料通りだから、ここでは最終確認といくつかの変更だけを伝えるぞ」


 まず最初に何人かの生徒たちが疑問に思ったのは、会場がVRを使ったものだという点だ。VRフィールドは現実と多少差異が出てしまうものの、体の安全性やフィールドのメンテナンス面で優れ、Fクラスも授業で何度か使用したことがある。

 学園ではクラス対抗戦はVRフィールドでの開催と、現実での開催が交互に開催されており去年はVRフィールドで行われていたことから、当然のように現実で開催されるものだと皆が確信に近い予想していたのだ。これまで一度もこの法則が覆ったことがないといえば嘘になるが、それはVR機材の調子が悪く、VRの年に現実で開催されたことがあるのだ。つまり、現実で開催される年がVRになるのは前例が無い。



「今回のルールは安全装置も付けて行う。意識が落ちたら即刻ログアウトする仕様になっているほか、意図的かどうかを問わず、メインアルマを着けていない瞬間があったらリタイア扱いになるから気を付けるように」




(……なるほど。そうきたか)


 説明をしながら、一瞬こちらに視線を送った笹山の方を見て、光一は多少狂ってしまった計画の練り直しをするのであった



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