第50話
「ホントに勝つなんて……」
「なんとか、な」
ふらふらになりながら親指を立てる斉藤に、信じられないといった様子で肩を貸す山崎。
「自分の腕に気を発射させずに溜めるとは、随分無茶なことするな」
「なんだよ、俺の奥の手なのにもう気づかれちまったか」
そう、斉藤が最後の一撃で行ったのは、気を腕に溜めて放つという通常の使い方ではなく、気で強化した腕で殴りそのまま気弾を放ったのだ。それは砲身もなしに大砲の弾をゼロ距離で爆発させるようなもので、当然ながら斉藤の方にも多大な被害がある。
それでも、あの瞬間に一撃で谷貝を倒すとならばこの選択は最適と言える。
「俺のが強いなんてまで言ってくれたんだ、あんぐらいしなきゃな」
「聞こえてたのか」
「まあな」
そこまで話したところで、斉藤は小さく笑うと肩を貸してもらっていた山崎から一歩離れた。
「ちょっと、そんなボロボロなんだから無理しないほうが……」
「いや、このままじゃ山崎だって上手く戦えねぇだろ」
「っ」
斉藤の言葉でようやく山崎は今の状況が理解できた。というより、今までは谷貝という大きな敵がいたから考えないようにしていたこと。
「もう、この場には俺らしかいないんだろ」
「ああ」
短く言い切った光一が、腕を組んだ姿勢から戦闘の構えをゆっくりととり、それに対抗するようにときおり痛みで顔を歪めながらも斉藤が構えをとる。
クラス代表に慣れるのは二人だけ、その事実がボロボロの斉藤の体に戦闘態勢を取らせていた。
「ちょっと待った!」
戦闘に向けて高めていた集中力が、その甲高い叫びで一気に削がれ、斉藤と光一が声の方に顔を向けると、
「山……崎?」
「強い二人が抜けるべきだったかしら? 私もそれに賛成するわ」
山崎が自らの意思でアルマを全て解除していた。
『山崎志乃 アルマの全着脱により失格とする。これにて代表決定戦は終了だ、残りの生徒はすみやかに戻るように』
どこからか聞こえてくるスピーカー越しの笹山の声を最後に、Fクラス代表決定戦は幕を閉じたのであった。
「なあ、これで良かったのかよ」
「何よ」
放課後、光一は笹山に呼び出されていて遅れると言われ、とりあえず二人でキャッチボールをしていたのだが気まずい沈黙を破るように斉藤が口を開く。
「何って……代表決定戦のことだよ。俺と光一に譲るような真似して」
「確かに、あのまま戦えば斉藤には勝てたかもね」
「だったら」
「でも、今の私じゃ上位クラスには勝てない」
斎藤の言葉を遮って山崎は続ける。
「ほんの少し前までは私達Fクラスが優勝なんて夢物語だと思ったけど、アンタらを見てたらもしかしたらって思うようになったの。だから、このクラス代表戦は任せるわ」
「……おう!」
「ふむ、言いつけは守っていたようだね」
「このぐらい出来ないと優勝なんて夢のまた夢ですからね」
光一が笹山に呼ばれた先は保健室であった。肝心の笹山は明日以降に行われる上位クラスの代表決定戦の準備があると言って、そうそうに居なくなってしまった。とはいえ、ここに呼ばれた目的は光一が無茶な倍率で
「言いつけを守っているとはいえ、保険医としては毎回高い倍率で
「ま、それは良質な治療ができることを信じてるってことで」
「褒めてもなにも出ないからね。舞も高倍率で半壊したアルマに払う予算と、回復剤の予算で頭下げるのに文句いっていたぐらいなんだから」
「そんなに予算厳しいんですか?」
「Fクラスについては三割がキミのせいだからね」
光一が使っているアルマは、入学当時に配布された基本的なものをそのままである。いくら配布APが乏しいFクラスといえど、多少のカスタムや新しいアルマの一つくらいは購入できるものだが、光一はそれをしていない。
その理由は、初期そのままのアルマは修理費用をすべて学園が負担してくれるという救済処置である。光一のように高い
「それで、キミの目標は優勝だっけ?」
「それが何か」
「今でもそれは変わってないの?」
いつもの柔らかい雰囲気から一転、射貫くような目線とともに葉波が問いかけた。
この言葉には二つの意図が隠れている。最初に高い目標を掲げておくというありがちなモチベーションアップの方法としてクラス対抗戦優勝を掲げているだけで、実際の目標はクラス代表ということなのか? というのが一つ。
もう一つは、優勝を目指すとなればこのままの出力で闘うのは厳しい。しかも、今年はここ数年の主席でも一番の実力があると言われている一ノ瀬がいる。つまり、光一がそれらと闘おうとするなら
半分警告、半分脅しのようなその問いに、
「もちろん、今でも変わっていませんよ」
一切のよどみなく答えるのであった。
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