第48話
「チッ、あいつらも使えねぇな。探知系のサブアルマを貸してやったのに取り逃がすなんてな」
谷貝は、使い捨ての探知を行うサブアルマをいくつかクラスメイト達に配っていた。この演習は圧倒的な力を見せつけ、山崎を言いなりにするのが目的である。、その為には、厄介そうな光一を処理するために人海戦術で光一を襲わせたのだが、
「うまく逃げてきたみてぇだが、これで戦況がひっくり返ったなんて思うなよ。お前らはたった三人、こっちはまだまだ兵隊がいるんだからな。」
ここに光一が現れたということは、方法こそ謎だがうまく包囲を撒いてきたのだろう。おおかた、光一、斉藤、山崎の三人も通信できるようなサブアルマを使い、ここに光一を呼び込んだ。そう、谷貝は思っていた。
「? さっきまでどんな話していたか知らんが、もう生き残っているのはここにいる奴らだけだぞ」
「「「は!?」」」
さっきまでにらみ合っていた筈の三人の言葉が重なり、信じられないといった表情で光一の方に視線を向ける。
「嘘だと思うならウィンドウ見てみろよ、この演習中の途中経過が見られるだろ」
その言葉を聞いて、三人は一斉に襟章に触れてウィンドウを開く。電話やチャットは封じられているが、この演習の途中経過がリアルタイムで表示されるという機能に目を移すと、
『実践演習 残り時間42分 残り人数 4人』
そんな無機質な表示が目に飛び込んできた。
「し、信じられるか! 俺の兵隊たちに何をしたっていうんだ!」
「何って……普通に倒したが? 多対一での戦い方をもう少し教わってからやるべきだったかもな」
光一の服装は多少汚れているものの、そんな激闘をこなしてきたとは到底思えない。つまり、それだけの人数に襲われても涼しい顔をして切り抜ける事ができるだけの力があるということだ。
「フフフ……まさかお前がそこまでやる奴だとは思ってなかったぜ。気に入った、俺たちで組まねぇか? 俺とお前ならいいところまでいける、来年以降は安泰だ。どうだ? 悪い話じゃねぇだろ」
(まずいっ! ここで谷中のやつが谷貝についたら終わりよ!)
「ちょっと待ちなさい……」
「断る」
山崎からしても魅力的に見える提案であったが、光一は山崎が引き留めようとする前にきっぱりと言い切った。
「なあ、さっきの事で頭に来てるなら謝るぜ。普通に考えて強い二人が抜けるべきだろ?」
「その言葉には同意するが、それならなおのことお前と手を組む気は起きんな」
煽るように大げさにジェスチャーする光一に、谷貝のこめかみにピキリと力がこもる。
「一応理由を聞こうか、ぶちのめす前に」
「強い二人が抜けるんだろ、だってお前はいいとこ三か四番手だろ」
その言葉を聞いた時、谷貝は頭のどこかが切れるような音がした。
「どんだけ馬鹿なんだよ! テメェらはっ!」
顔を赤くしながら、怒号が喉の奥から漏れてくる。
「せっかく俺が生き残らせてやるって言うのに、断わるどころか俺がこいつら以下だって!? 寝言は寝ていいやがれ!」
幼いころからアルマに関することは大体できた。事前の模試でも油断しやすいと言われることはあったが、この名門学園でもCやBクラスにも入れるとは試算が出ていた。それなのに、入学試験で偶然にであった一ノ瀬のせいで、こんなFクラス送りになってしまったのだ。
なら、この状況での最善手は、Fクラスであるということを利用すること。その為に入念な準備をしてきたというのに、目の前の雑魚がそれを断るということは、これまでの鬱憤も合わせて谷貝を激高させるには十分であった。
「もういい、とりあえずお前は死んどけや!!」
谷貝の叫びと共に、何も無い筈の背後からガチャガチャと重低音を響かせ巨大な砲台が現出する。
「こんなものまでコピーしていたって言うの……!」
谷貝が出現させたのは、通常三人で使用するはずのトリプルバーストのアルマ。Eクラスではクラス内上位が力を合わせてようやく発動させたものだが、谷貝の力はそれをたった一人でコピーするに迫る。
「はぁ、はぁ、はぁ。コイツで、終わりだぁっ!!」
とはいえ、かなりの無理をしたようで肩で息をして余裕はなさそうである。それでも、直撃すればまず耐えられないと、谷貝はそう思っていた。
「ま、とりあえずこれでお前がクラス一位ってことはないよな」、
「噓……だろ!?」
惜しむらくは、合同演習の際にライトがEクラスのトリプルバーストを受け止めたことを、谷貝は知らなかったということか。
トリプルバーストから放たれた砲弾をあっさり受け止められた谷貝は、目の前の少年がこんなクラスにいていいレベルではないという、遅すぎる理解をようやく示したのであった。
「おい、いい加減休めたろ。それとも俺が手伝った方がいいか?」
「ヘッ、ちょっとばかり体あったまるのが遅かっただけだ。俺一人でやらせてくれよ」
谷貝が息を整えていると、光一の視線は谷貝のさらに後ろ。脱落寸前までにボロボロになっていた斉藤に向いていた。
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