第47話

「そんなッ! ハッタリに決まってる!」

「別にそう思うのは勝手だが、おかしいと思わなかったのか? 他の参加者に会わないことをよ」

「!」


 山崎は言い返せなかった。谷貝の言う通り、その言葉が真実であろうことは今までの自分が証明してきたようなもの。


(それじゃあ、やっぱり谷中のやつは……)

「おい! 何二人で話し込んでるんだよ! ここに俺だっているんだぜ」


 山崎が下唇を噛んで谷貝を睨みつけていると、横に居た斉藤が自分のことを誇示するように叫んだ。


「ああ。いたのか、お前。そうだ、お前今すぐ脱落リタイヤしてくれよ、そしたらAPもやるし痛い思いだってしなくて済むぞ」

「ふざけんじゃねぇ! それに、光一のやつはお前みたいな腰抜けの策にやられるような奴じゃねぇ!」


 斉藤からすればただの売り言葉に買い言葉な煽り文句であり、友人を侮辱されたことに言い返しただけにすぎなかったのだが、


「チッ、これだからFの奴らは嫌いなんだ。損得勘定もできねぇのか……いいぜ、まずはお前らをボコってからもう一度だけ聞いてやる」


 何らかの地雷を踏みぬいたのか、谷貝の顔が明らかに不機嫌になると同時に戦闘の構えをとりだした。


「へっ、燃えてきた。お前と闘うのは初めてだからな、ちょいと楽しみだぜ」

「言ってろ、Fクラス」

「テメェもFクラスだろうがッ!」


 斉藤は気合を込めるように声を上げながら谷貝目掛けて突撃するが、その一歩目を踏み出したところで顔面に握りこぶし程の弾丸が飛んできた。斉藤はそれを右手で払いのけるようにして防ぐも、息次ぐ暇もなく飛来する弾丸に完全に足が止まってしまう。


(あれはハイキャノンのアルマ。谷貝のやつFクラスじゃそうそう買えるものじゃないアルマまで持ち出して……だったら)

「斉藤! 援護するわ!」

「おう、サンキュー!」


 谷貝の持つハイキャノンのアルマは、Fクラス程度ではそうそう起動させるところまで持っていくことが難しい上に、砲弾は別売りというコストの悪さもあるが、その分威力はお墨付きである。

 両腕をクロスして防御を固める斉藤だったが、じりじりと踏ん張る足が後退していく。ただ、ハイキャノンには再装填リロードという隙がある。弾倉に込められるのは六発が限度、普段ならその僅かな隙を突こうにもこの距離では再装填リロードが間に合ってしまう。しかし、


敏捷付与エンチャントアジリティ

(よし、これならッ!)


 山崎の援護があればその問題は解決する。彼女の能力スキルにより強化された速度なら、再装填リロードさせる間もなくこちらの距離にもちこめる。その筈であった。


「なっ!?」

再装填リロードの隙なんて分かりやすい弱点晒すかよ」


 現実はそう甘くなく、体に響く鈍い音と後からやってきた鈍痛が襲う。ハイキャノンの直撃を受けたのだと気付くのに時間はかからなかった。ぐらりと揺れる意識をなんとか繋ぎ止め、斉藤が谷貝の方を睨みつけると、


銃火器贋作バレットフェイク こいつを見てもまだ向かってくるか?」


 そこに有ったのは、谷貝の左腕のハイキャノンが砲身から煙を吐きながら消えていく光景であった。


銃火器贋作バレットフェイク?)

「それがアンタの切り札ってわけね……」

「わざわざ教えてやったんだ。これで俺とお前らとの絶対的な差ってやつが理解できたか?」


 斉藤だけは頭にハテナを浮かべていたが、銃火器贋作バレットフェイクのワードが出てきた瞬間山崎の顔には絶望の色が染みだし、谷貝の方は煽るような余裕が浮かんでいた。

 銃火器贋作バレットフェイク。この能力スキルは顕現している者が多いわけではないが、その歴史は古く、限界突破オーバーリミットに並んで先の大戦時にも重宝された能力スキルである。その中身は、“触れた重火器型のアルマをコピーを作り出せる”という強力な能力スキルである。コピーのストックやコピーの精度、個数共に顕現者の技量に大きく依存する能力スキルであり、顕現に至ってからこの短期間にここまでの精度でコピーを作り出せる谷貝は、間違いなく格上の存在であると誇示しているようなものだ。


「オラオラッ! デカい口叩いた割にこんなもんかよ!!」

「ぐっ……」

(不味いわね、完全に手数で押されてる)


 リロードないし弾切れという重火器アルマにあって当然の隙が無い。不利になることは分かっていたが、ここまで一方的にやられるとは思ってもいなかった。

 二手に分かれる戦法も取ってみたが、同時に複数の砲弾を構えられる谷貝相手には無意味、背を向けて逃げようにも後ろから狙い撃ちされるのが目に見えている。


(せめて私が回復付与ヒールエンチャントを使えたら良かったんだけど)


 山崎の技量では傷を癒す付与エンチャントはまだできない。消耗しきった今、彼女の脳裏に諦めの二文字が浮かび、


「さて、これで分かっただろ? お前が生き残るには俺の仲間になるしかねぇんだ」


 谷貝から最後の提案が飛び込んできた。


(たかだか学校行事、これ以上私のワガママで斉藤を傷つけさせるわけにもいかないわね)


 山崎は隣で自分を以上にボロボロになり、膝を付きながらも闘志を衰えさせず谷貝を睨みつける斉藤の方視線を移し、その提案を飲もうと口を開こうとした。その時、後ろの茂みからがさりと誰かが出てくる音がした。


「おっ、あっちの方も終わったみたい……だ、な!?」

「え?」


 谷貝の話を信じるなら、残りのクラスメイトは全て光一の討伐に向かっているとのこと。つまり、こちらに向かって来た人物は光一の討伐を終え、その報告にきた誰かだと思ってたのだが、山崎たちの後ろの人物を見る谷貝の顔はみるみるうちに驚愕に染まり、それにつられて彼女が後ろを振り返ると、


「よう、思ったより苦戦しているじゃないか」


 そこに居たのは、数十というクラスメイトに襲われていた筈の光一であった。

 

   






 





 


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