第41話

「あー、やっぱりこうなったか」


 気絶した木﨑が地面に倒れる寸前に隠れていたはずの萩野が受け止め、彼の首元に後ろから一ノ瀬の剣が突き付けられた。多少なりとも消耗している一ノ瀬としては、萩野との連戦になるのならさっさと不意を付いて倒してしまった方がいい。

それに、どうせ闘うなら最初から全力で闘いたい。のだ。この状態から萩野が生き残るには、能力スキルの使用はほぼ必須、今までの演習でもひた隠しにしていた萩野の全力ならこの授業の終わりくらいまでは楽しめそうだと、追わず笑みが漏れそうになる一ノ瀬であったが。


「何の真似かな」

「見りゃ分かるだろ。降参さ、降参」


 萩野は片手を上げると、自らの手で装着インスタリアムを解いた。


「降参だっての、これ降ろしてくれよ。アルマもなしに戦えるわけないだろ?」


 武装解除してからも突き付けられている刃を軽く指で弾く萩野。ほんの少し呆けるように動きを止めていた一ノ瀬は、それを聞いてゆっくりと剣を下げた。


「それじゃあな、俺はとっととコイツ連れてリタイアさせてもらうぜ」


 木﨑を担ぎ上げた萩野の後ろ姿を見送りながら、


「アルマなしで戦えないね……普通ならそうだよなぁ」


 呟いた一ノ瀬の言葉を聞くものは居なかった。




 それからというもの、特段大きな動きはなく合同アルマ演習は進んでいった。すっかり戦意が削がれた一ノ瀬がいたとしてもAクラスの有利が揺らぐことはなく、順当に撃墜数、生存数共にトップ。一つ波乱があるとするならば、Cクラスの撃墜数がBクラスを上回るという健闘具合を見せた程度だろうか。






 次の日、合同アルマ演習を終えて何となくクラス内での実力が見えてきたこともあり、クラス内での緊張が徐々に高まるなか、その緊張をさらに後押しするような授業が予定されていた。


「諸君、再来週にはクラス対抗戦の代表決定戦があるが、その前に能力測定スキルズスキャンを行う。名前を呼ばれた者から検査室に来るように」


 アルマの理論を発見した最初の研究者によると、全ての人間は能力スキルを秘めているとされている。しかし、現実に能力スキルを十全に使いこなせる人間は殆どいない。

 その理由として、能力スキルには発動条件アクティベーションと呼ばれるものがあり、これを満たしていない場合、能力スキルが発動しないのである。

 

 この条件は殆どが特定の同調シンクロ率を上回ることであるのだが、同調シンクロ率を引き上げるのは多大な集中力を要し、撃墜戦など激しく動く戦闘で自在に発動条件アクティベーションを満すというのは厳しいものがある。だからこそ演習ではいたずらに同調シンクロ率を引き上げるのではなく、安定した値を引き出すことも重要な訓練の一つである。

 偶然にも能力スキルが発現したが、それ以降発動できなくなったなどという話もアルマが登場したての者が最初に抱えることの多い問題であり、それを改善するためのものが能力測定スキルズスキャンである。


能力測定スキルズスキャンつってもよー、一度は発動しないといけないんだろ。俺たちFクラスなんて発現者エクスプレスナーいないだろ」

「そう言うなって、メジャーなやつならまだ発現してなくても発動条件アクティベーションが出ることがあるみたいだからよ、もしかしたら俺の眠れる力が晒されちまうかもな」

「そんなありきたりな能力スキルが分かったところで底が知れてるけどな」

「ちげぇねぇ」

「「ハハハ!」」


 自習を言い渡されていながら、不真面目に雑談に花を咲かせる生徒らの話す通り、能力測定スキルズスキャンは発動している能力スキル発動条件アクティベーションを言語化すると同時に、前例が多い能力スキルに限るが人に眠る能力スキルを言語化できるのだ。

 今、発現者エクスプレスナーとして覚醒していなくとも、伸びれば覚醒できるとなればやる気を出す生徒もいるだろうとのことで、この学園ではこうして定期的に能力測定スキルズスキャンの機会を設けているのである。


「光一、次だぞ」

「おう、どうだった」

「全然ダメ。ま、分かってたけどな」


 肩を落として教室に帰る斉藤の後ろ姿を横目に、光一は検査室の中に入る。

 そこには、人が簡単に入るような大きさの球体の装着と、その横でなにやらパソコンをいじる葉波と名簿をめくる笹山の姿があった。


「キミで最後だね。それにしても合同演習では大活躍だったじゃない」

「当たり前さ。私に勝ったんだからな、このくらいはやってもらわないと」

「あれは笹山先生が油断してただけですよ。それで? この球体の中に入ればいいんですか」

「そうだよー、上脱いで入ったら中で装着インスタリアムしてね」


 笹山がツンツンと肘で光一の横腹をつつくのを制止ながら、光一は葉並に案内されて上を脱いで球体の中に入った。

 

装着インスタリアム

 

 いつもの言葉とともに、右腕にアルマが装着インスタリアムされる。


『計測開始するよ、準備はいい?』

「いつでも」


 光一は眼前に現れた“Start”の文字を合図に自身の同調シンクロ率を上げていく。そして、十分に上がったところで一言、


限界突破オーバーリミット


 そう呟くと、右腕のアルマが真紅に染まり発する圧力プレッシャーが格段に増大した。が、それは長くは続かず三十秒が経過した時には、色はすっかり戻り光一は肩で息をしていた。


『はい、お疲れ様。出てきていいよ』


 光一が上着を着て外に出ると、葉並が今回の検査結果のデータを襟章にコピーしてくれた。


「しっかしお前も難儀だな。ダブル一番乗りなのに二つともこんな能力スキルなんて」

「ま、確かにそうですけど意外と気に入ってるんですよ。この戦法とも相性いいんでね」


 笹山がからかうように指をさしてきたのを背中に受けながら、小さく笑って光一は検査室を後にするのであった。






【谷中光一の能力測定スキルズスキャン結果】

集約せし力ディスペラード

【条件】

装着インスタリアムしているアルマの同調シンクロ率の平均値が30%を超えていること

【効果】

メインアルマを装着インスタリアムしていない箇所があるほど、装着インスタリアムしているアルマの能力が上がる。



限界突破オーバーリミット

【条件】

発動箇所の同調シンクロ率が65%を超えていること

【効果】

三十秒間指定した箇所のアルマの能力を同調シンクロ率に比例して数倍~数十倍にまで引き上げる。ただし、強化した倍率が大きいほど効果中に疲労と痛みを伴う。





 


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