第30話
「お前ら集まれ、話し合いの時間も限られてるんだ。とっとと決めるぞ」
開始早々、森の中で一塊になって移動していたFクラスの中で口を開く者がいた。
「決めるったって何をだよ」
「決まってる。役割だよ、役割。このまま役割もはっきりとしないまま動いたところで格好の的だぜ」
切り出したのは谷貝であった。現状、Fクラスのメンバーが固まって動いているのは、“人数がいれば安全だろう”というぼんやりとした考えてを持つ者が多いというだけのことであり、統率の取れた他クラスに攻め込まれれば崩壊は目に見えている。
「全員、装着(インスタリアム)できている数と同調(シンクロ)率を言っていってくれ」
谷貝とその取り巻きの提案により、Fクラスの面々は自分の装備を見せると同時に、谷貝がチーム分けをしていく。大体は五人一組で括られ、流されるように分けられていった。だが、Fクラスの人数は三十一人であり、
「……」
「おやおや、一人余っちまったなぁ」
一人余るのは必然である。とはいえ、役割を分けるというのならば、防御役は人数を多めに、遊撃役は少なめになどの調整がきくものであり、一人余るというのは意図的にでもなければ起りはしない。
「そういえば、この前のアルマ演習の成績、随分と良かったみたいじゃねぇか。それなら一人でも大丈夫だろ?」
一人余った光一に、谷貝はニタニタと笑みを浮かべながら言い放つ。ただ流されているだけのクラスメイトは勿論、この場で圧倒的な武力を持つ谷貝を恐れて、この決定に口を出そうという者はいなかった。
「おい、それはないんじゃないか!」
ただ一人、斉藤を除いて。彼は同じチームに割り当てられたクラスメイトの制止も無視して、谷貝に詰め寄る。それを二人の間に割り込んで止めると、
「別にいいさ、このぐらい問題にもならない」
「でもよ……」
斉藤がまだ言いたそうにするのを無視して、谷貝の方に向き直る。
「それで、一人なのはいいが役割はなんだよ」
「役割だと?」
「この班分けは元々そういう話だったろ。 それとも、こんな落ちこぼれいじめる為にやったというなら、これ事情は聞かんがな」
「チッ……だったらテメェは遊撃隊の隊長にしてやるよ。隊長なんだからそりゃ結構な人数倒してもらわんとなぁ!?」
「いいのか? 小心者のリーダーの守りを固めなくて」
「言ってろ!」
谷貝の怒鳴り声を背に受けながら、光一は森の中に姿を消していくのであった。
「なあ、あいつ大丈夫なのかよ。谷貝にあんなこと言って一人なんて無茶だぜ」
斎藤のチームメンバーが、単独行動する光一を心配する。しかし、
「光一は冗談や虚勢であんな事言う奴じゃないさ、あそこまで言うなら自信があるんだろ。だから大丈夫だ」
今度は斉藤がチームメンバーを止めた。彼と光一との付き合いは特段長い訳ではない。それでも、彼は知っている。谷中光一は誰よりも努力し、自分なんかよりもずっと強い。
あれ以上、自分が光一の待遇に口を出いていたならば、次に矛先が向いていたのは自分やそのチームメンバーだったかもしれない。あの時、谷貝に向き直る前の顔はそれを見越していようであった。
(光一、待ってろよ。早いとこ役目果たして合流するからな)
森の中に消えていった友人の背中を見つめ、斉藤は更なる実力をつける為の決意を固めるのであった。
(一人になれたのは好都合。さて、どうするかね)
森に入った光一は、集中(コンストレイション)を発動してトレーニングアルマの同調(シンクロ)率を引き上げると、強化された脚力で一気に距離を取る。初期位置から察するに、このあたりはDクラスが向かっていた場所だったはず。それならば、向こうから攻めてきてくれるなら楽である。
そこまでは考えていたが、肝心のDクラスの姿が見えない。恐らくFクラスのように役割分担をしていたところ、それが難航してしまっているのだろう。
(ま、動きがあるまではここで待ってみるかね)
今は近くにあった木の上に身を隠しつつ、休憩がてら考えを巡らしている最中である。
(しかし、谷貝とやらは意外と頭は回るみたいだな。あの動きを見るに、もう少し上のクラスでも問題なさそうなんだが、なんでFクラスなんかにいるんだ)
頭に浮かぶのは谷貝のこと。彼はリーダーの立ち位置を取ることで、クラス全員の情報を一気に手に入れたのだ。代表決定戦までほとんど時間はない。この時点での同調(シンクロ)率等の情報を知るということは、ただでさえクラストップの実力を持つ彼がさらに代表の座を盤石にするということである。
光一の情報は偽の情報を伝えておいたが、それでも警戒されているのは避けらていない。ここで大暴れしてもいいのだが、それでは谷貝の“光一の実力を測る”という目的に乗ってしまうということでもある。
「……ん?」
これからの動きに悩んでいると、森の枝葉を踏みしめる音が近づいてきた。
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