第24話

 本日はHRと始業式関連のみの日程であり、早々に放課後となった生徒たちは思い思いに集まり帰っていく。


「ぷぷ、アンタそんな余裕ぶっこいてる感じなのに試験できなかったんだ」

「俺もアルマ学は苦手だったが、それより悪いのか」


 光一もその例に漏れず、齋藤、山崎の二人に絡まれながら帰り支度をしていた。

 

「そうだ、さっき貰った封筒に試験結果あったろ、見せあおうぜ」

「いいわよ」


 二人に迫られた光一は、渋々成績表が入った封筒を取り出す。それぞれの成績表を広げると、


山崎志乃:国数英理社ア 52,30,29,33,41,42

同調シンクロ率 右腕:21.2% 左腕:22.5% 胴:31.6%


齋藤謙二:国数英理社ア 21,6,16,22,36,38

同調シンクロ率 右腕:35.7% 左足:32.9% 


谷中光一:国数英理社ア 98,92,100,67,60,54

同調シンクロ率 右腕:10.3%



「うぉ、なんじゃこれ」

「模試でもこんな成績見ないわよ……」


 アルマとの同調シンクロ率を引き上げるのは指数関数的に難易度が上がると言われており、撃墜戦のプロや、アルマ軍の軍人の平均ですら七、八十パーセント程度であることから同調シンクロ率を上げるというのは至難の業なのだ。

 だが、指数関数的に増加するということは、初めの内は比較的容易に上がるということでもある。試験でも使われる初期アルマは最低でも十パーセントの同調シンクロ率があれば起動する。最も同調シンクロ率が上げやすいとされる利き腕ですらギリギリ、こんな数字でなぜあの二次試験を突破できたのかは二人の常識では計り知れない。


「だからあんまり見せたくなかったんだよ」

「いくらなんでもこの成績は……普通科だったら割といいところ行ったんじゃないの?」

「確かにBクラスぐらいなら入れるんじゃないか?」


 この学園における普通科というのは、アルマを装着インスタリアムする実習を行わないだけで、座学では触れる。とはいえ、元の世界のように国数英理社も重要である。普通科の方もアルマ学科ほど格差があるわけではないが、普通科の上位クラスに入れれば将来も一安心できるエリートコース。

 なのに、目の前の光一はアルマ学科の道を選んだ。どう見ても無謀に近い選択に、皮肉ではなく純粋な疑問としてそんな言葉が出たのだ。


「なに、少し倒したい相手がいてな」


 どこか遠い目をする光一が、一体どんな思いを持ってその発言をしたのか、二人は想像も出来ないのであった。




「へっくしょい!! 誰か俺の噂でもしてるのかな」

「試験に時間ギリギリにきた事かもよ」


 一方その頃、Cクラスでは一人の男が大きなくしゃみを響かせているのであった。









 時間は少し巻き戻り、実技試験後の事。ほとんどの生徒の採点はAIにて終わり、最終確認を人力にて行えば終了する。筈だったが、


「さて、皆さん集まったようですね。それでは、職員会議を始めたいと思います」


 アルマトゥーラ学園の教師たちが集められたのは、AIでは決めきれなかった例外について。


「今回の入学試験ですが、Aクラスの方は良い生徒たちが集まったようですな。時坂先生」

「ええ、一ノ瀬はここ数年の入学生でも抜群のセンスに筆記も良好。少し戦闘に熱中してしまうのが玉にキズですが、あの鳳上家のお嬢様と一緒に主席、次席の二人としては最高でしょう」


 世間話として、上位クラスを受け持つ教師たちが話すなか、


(ふーむ)


 アルマ学担当でもあり、撃墜戦の試験監督を務めた笹山は手元の資料に目線を落としていた。


「今回の議題ですが、お手元の参考資料。そちらに記載された生徒らをどこのクラスに入れるか。ひいては合格させるかです」


 学年主任、星来菜ほしらいながそう言うと教師たちは皆手元の参考資料の方を見る。


「特にこちらの生徒、天川智也の方は、こちらもご覧ください」


 その言葉と共に、教師たちが囲むテーブルの中心にホログラムの映像が映し出される。それは、撃墜戦で天川智也が能力顕現者エクスプレスナーとして覚醒し、黄金の鎧を纏った瞬間の映像。


「これは…………」

同調シンクロ率の跳ね上がり方に加えて、試験終了時にはアルマの修復も確認できました」

「計測時にはDクラス程度、筆記も含めればEクラスが妥当では?」

「しかし、能力顕現者エクスプレスナーならせめてCクラスには入れるべきでしょう」

「AIの測定基準を覆すのですか?」

「それを判断するために今回集まったのでしょう」


 議論は白熱した。そもそも能力顕現者エクスプレスナーとなる条件じたい不透明な部分も多いなか、これほど強力なスキルも珍しい。


「それでは、Cクラスということでよろしいでしょうか」

「ま、妥当ですかね」

「そうですな」


 たっぷり三十分ほどの時間、教師たちが議論をかわし結論を出す一方。笹山は一人、主任でもあり最終決定権を持つ星の隣に移動して、もう一つの資料を指さす。


「この生徒、合否決定がまだのようだけど」

「笹山先生、今は職員会議中ですよ」

「いいだろ、どうせ他の先生たちは天川の方に夢中さ」


 はぁ、と星は小さくため息えをつくと。


「それもそうね。舞は天川智也の方はいいの?」

「そっちはどうせ合格するでしょう。それよりも、私はこっちの生徒が落ちそうって方が信じられないね」

「そう? 撃墜戦をクリアしたのは驚いたけど、この同調シンクロ率じゃアルマ学科は厳しいんじゃないかしら。それに、筆記は良かったから普通科の編入資料を渡すつもりだけど」


 星の意見はもっともである。そもそも、光一の同調シンクロ率は下手な小学生でもなしえるほど低い。忙しい学年主任の身、そんな存在の映像まで確認する時間はないのだろう。だが、笹山は知っている。


「来菜、撃墜戦の日、私が手首を痛めてるのは知ってるよな」

「ええ、華波が言ってたわよ。珍しいわね、転びでもした?」

「こいつの拳を受け止めたんだ」

「!」


 その日の笹山は、本気の戦闘用ではないにしろ安全のためにアルマは纏っていたはずだ。なのに、受け止めた手首の方が持たない。そんな拳、学年主席となる予定で、入学生の中でもトップの同調シンクロ率を誇る一ノ瀬でもできはしないだろう。


「まあ、私もこいつの底を見れた気はしない。だけど、今年は平均が優秀だからFクラスに一つくらい空きがあったんじゃないか? 多分、面白いものが見れると思うぞ」

「そうね。舞がそこまで言うなら、その生徒、とって見ようじゃない」




 天川智也の問題も議論し終わり、再び真面目な雰囲気に戻った星が会議の解散を告げる。

 最後に会議室を出た笹山は、


「今年のクラス対抗戦は面白くなりそうだ」


 不合格から“合格”に変わった、谷中光一の資料を見て、密かに笑うのであった。






 





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