第23話
「~~それでは、皆さんこの学園で有意義な三年間を過ごせることを祈っています」
期待に満ちた顔に、長い話にうんざりした顔、緊張で固い顔が並び、新入生たちが様々な思いを巡らしながら入学式はつつがなく終わる。
式が終われば、新入生たちは各々のクラスに歩いていくのだが、その顔は入学式の最初以上に緊張している。クラス分け、各生徒は自分がどのクラスに割り振られたのかは分かっているのだが、クラスメイトとなる人物を知らない。
「ほら、いくわよ」
「おう、良かったな。二人とも同じクラスで」
「そうね……ありがと」
「なにか言ったか?」
「な、なんでもないわよ! ほら、早く」
天川智也と国崎凛の二人は、Cクラスと刻まれた襟章をつけてクラスの方へ小走りで向かう。その顔は緊張と同時にこれからの生活の希望に満ち溢れていた。上位クラスと呼ばれるA、B、Cクラスの面々は皆そんな表情であったが、逆に、
「……」
「……いこうぜ」
「……おう」
D、E、Fクラスの面々の顔は暗い。やっとの思いで入ったと思えば、押された下位クラスの烙印。気落ちするなという方が難しいだろう。さらに彼らのやる気を削ぐのが、
「おい、見ろよ。Aクラスの教室」
「凄えなぁ」
教室設備や待遇の差である。最上位のAクラスともなれば、下手な大学の大教室に匹敵しかねない広さの部屋に、個別のモニター、空調など至れり尽くせりといったところだ。一方、最下層のFクラスはボロボロの木の机、椅子に黒板といった数世代前かと見間違う教室。ちなみに、この設備は昔の廃校のものを再利用しているらしく、徹底的なコストカット事情がうかがえる。
この格差をバネに頑張ってもらいたいというのが表向きの理由で、本音は入試で良い成績を取った生徒が怠けることのないよう、下をみせているともっぱらの噂である。
(席は……あそこか)
この世界基準では、黒板に木の机、椅子は愕然とするものだが、谷中光一にとっては特に驚くこともない。元の世界より机が少しガタつく程度だ。
Fクラスの大半が他クラスの設備に見とれているなか、早々と席に着く光一。席は窓際の一番端と悪くない。
「山崎?」
「え?」
「あ」
思わず口に出てしまった。女生徒の顔は山崎詞乃に酷似しており、うっかり口に出してしまったのだ。
彼女からすれば、見知らぬ男にいきなり名前を知られていたようなものだ。驚いたような顔をするのも無理はない。
「何? いきなり名前まで知ってるなんて、ストーカー?」
「断じて違う。山崎という名前の知り合いに似てたから、つい。」
「ふーん、どうだか」
当たり障りのない返答で誤魔化したが、二人の間に流れる空気はいいとは決して言えない。女生徒は携帯をいじりだしながら、光一の方を疑うような目で見ており、
(背中の視線が痛い)
誤魔化すように外を眺めるのにも限界を感じてきたところだ。何かこの状況を打破してはくれないかと思っていると、
「おう、早いな! 一番に教室入ったと思ったのに、もう二人も先にいたか!」
ガタイのいい男子生徒が光一の前に座った。
「俺の名前は齋藤謙二だ! 趣味は野球で好きな事も野球だ! よろしく」
その顔からなんとなく分かっていたことだが、知り合いとそっくりな顔と声で話されるとどうしても混乱しそうになる。
「谷中光一だ。よろしく」
「山崎志乃よ」
「おう! よろしく!」
人によって暑苦しいとまで言えそうな熱気だが、そのおかげで光一と山崎の間の微妙な空気も吹き飛ばされたようで、光一は心の中で感謝の念を伝えていた。
「皆さん、おはようございます。私はこの一年Fクラス担任の渡辺辰次です、これから一年間よろしくお願いします」
三人でたわいもない事を話していると、いつの間にかクラスの面々も着席しており、最後に入ってきた温和そうな教師が黒板の前で挨拶をする。
「さて、入学式でも言われましたが、まずは入学式おめでとうございます。いまから、既に資料を春休み中に渡しましたが、襟章の機能について話したいと思います」
教壇に立った渡辺教諭は、チョークを手に取り説明を開始する。
光一も付けているこの襟章。これは学生証であり、同時にアルマの格納庫にもなっているハイテクな代物であり、毎月学園内で使用可能な通貨もこの襟章に振り込まれる仕組みなのだ。
戦闘に耐えうる純正品のアルマが非常に高価なしろものであるのは、国が氾濫を防ぐため意図的に値を釣り上げており、この学園内で使用可能な通貨、通称APを使用することで定価で購入することができるのだ。
優秀な成績を残せば、上位クラスへの編入もあると説明されている。そのためには入学式でも使った基本アルマだけではない、自分だけのアルマパーツを見繕っていくことも重要であると、入学式後に配布された資料にも書かれていた。
「さて、最後に何か質問はありますか」
渡辺教諭がチョークを置き尋ねると、廊下側の一番前にいる男子生徒が手を挙げた。
「この席順は何で決まったんですか」
「二次試験の成績順ですよ」
その言葉を聞いて、クラスの視線が質問をした男子生徒と、
「……ん、何だ?」
何やら考え事をしていたらしき男、谷中光一に向けられたのは言うまでもない。
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