第22話
アルマは基本的に電子パーツとして携帯するのが一般的であり、光一の所属するアルマトゥーラ学園では配布される襟章にアルマパーツが入っているのだが、今日は私服、当然持っていない。
介護用などの一般に普及しているアルマパーツならば、そもそも出力が抑えられている以前に人に危害を加えようとすると強制停止する機能が付いているのだが、目の前の違法パーツではその機能に期待することもできない。
「“見逃す”だと? テメェ、今の立場分かってんのか」
チンピラの一人が、光一の言動にイラつきを隠さず反応する。
「そっちこそ、たかだか三人程度でいいのか? 素手相手に負けたとなれば面目丸つぶれだぜ」
チンピラの凄みを受けてなお、涼しい顔をして構えをとる光一。売人は“正気か?”といった顔をして路地裏にと消えていった。それも当然、傍から見れば武器を持った相手を三人同時に素手で相手取ろうとしているのだ。無謀としか思えない。
「ガッ!?」
「え?」
だが、それは
光一がやったことは簡単、一足に戦闘のチンピラの前まで移動して、勢いのついた蹴りを相手の顎に直撃させた。文字にすればなんてことないのだが、魔力で全身を強化した人間がやれば、その動きを見切るのは難しい。
それこそ、違法パーツで脅す程度のことしかできない相手には、まるで一瞬で移動したかのように思えることだろう。
「テ、テメェ! アルマ持ってやがったのか!」
「いや、お前ら程度なら素手で十分だよ」
二人目は光一の初撃をなんとかガードするが、それは囮。空いた方の手で腕を掴み相手の足を払う。拳に気をとられた相手は、あっさりと転倒し、止めの踏みつけで締める。
「さて、残るはアンタだけだが」
「ひ。ヒィ!?」
最後の一人を見るとその顔は信じられないものを見るような眼をしており、背を向けて逃げ出した。
光一に特に追う理由もない。アルマを纏っていても、衝撃は内部に伝わるのとその体重は大きく変化しない。その二つを利用した闘いができると分かっただけでも収穫としよう。そう自分に言い聞かせて帰ろうとしたその時、
「ッ!?」
何かが高速で飛んできた。見た目は創作物にでも出てきそうなオレンジ色の光線。とっさにクロスした両手でガードしたが、服の袖が焦げる臭いを感じる。魔力強化かした腕であっても、ほんのりとした熱さを感じる。
間違いない、これはアルマによる攻撃だ。それもあのチンピラ程度とは格が違う一撃。
(まだ誰かいるのか?)
この一撃の主と戦闘になるのなら、あの一ノ瀬との闘い並の激戦になるだろう。少し腰を落とし強化に回す魔力を増加していく。
「あなた達! 大人しくしなさい!」
高く、気品のある声とともに現れたのは長い金髪を揺らす少女だった。身に纏うアルマは全身を覆い、背中のメタリックな羽根とその周りを飛ぶ数個のユニットがオレンジ色の光を蓄えていた。
機械天使とでもいうのだろうか、その口調と立ち振る舞いを少し見ただけでも分かる。
「ここが違法パーツの取引現場になっているのは分かっています! さあ、襲っている人を解放しな……さい?」
勇ましく登場した少女だったが、路地裏の先に広がっていた光景は、予想とは大きく違っていた。違法パーツを纏う男たちが倒れ、素手にしか見えない少年が立っていた。
先に捕まえていた売人は“素手で抵抗しようとしている男がいる”とは聞いていたが、まさか素手でアルマ相手に勝つなど少女の常識にはない。
「アンタ誰だ? 警察ではないみたいだが」
「え、ええ。 オホン、ご挨拶が遅れましたね。私の名前は鳳上灯、どうやら手違いで攻撃してしまったことはお詫び申し上げますわ……ゲラルド!」
鳳上灯と名乗った少女が、パチンと指を鳴らすとその後ろに黒服の男が現れる。
「これを、足りなければおっしゃって下さい」
差し出されたのは一枚の小切手、焦がしてしまった衣服の弁償なのだろう。その金額はかなり多かったが、貰えるものは貰っておこうの精神で黙っておく。
「それじゃ、弁償もしてもらったことだし、俺はもう行かせて貰うよ。売人の仲間はそこらに転がってるから、話聞きたいなら起こせば」
「あ、ちょっと!?」
これ以上ここにいても面倒なことになるのは目に見えている。それを感じ取った光一は鳳上に背を向けて走り出す。それは、
(並行世界ねぇ……、その割には顔ぶれが変わらんな)
あまり長く顔を合わせていると、前の世界への感傷に浸りそうだったからなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます