第21話

 電車に揺られること数十分、窓の外を見るリースに見とれているとあっという間に着いた。


「うんうん、電車って初めて乗ったけど、景色を見てるだけでも面白いものだね」

「ここまで電車を楽しそうに乗る人を見たのは初めてだよ」


 冷静さを装いながらも、テンションの高さを隠そうとしていないリースに、ローテンションでつっこっみを入れつつ着いていく光一。

 駅前の広場に出た辺りから一気に人が増え、先を歩く彼女と離れそうになってしまい急いで足を速めようとしたその時、


「おっと、忘れてた」

「? なっ!?」


 リースが光一の方に戻ってきたと同時に、その手をとった。柔らかいだとかすべすべだとか、そんな感想が無限に浮かび思考が真っ白になっていく。


「ほら、行こ。エスコートしてくれるでしょう?」

「ああ、そうだったな」


 リースの笑顔を見て、緊張がほぐれた光一は彼女を先導する形で先に調べておいた総合施設へと足を運んでいく。彼自身、行ったことはなかったが、駅前からの人の流れを見てなんとかたどり着けた。


「へー、ここが今回の目的地ね」

「突然決まったことだし、ここなら大体の施設は揃ってるみたいだからリースも満足いくかと思ったんだが……どうだい?」

「うん、今日はめいいっぱい楽しもうじゃないか」


 着いたのは、ショッピングモールにゲームセンター、映画館に果ては水族館まで入った総合施設で、とりあえず娯楽といえばここといった区画到着した二人は、片端から堪能する勢いで店を巡っていく。

 元の世界でも一度、二人で遊んだ事はあるが、悲しいかな光一の地元ではここまでの施設はなかった。専用ヘルメットを被り、五感を再現したフルダイブ式映画館に、まるでファンタジー世界にいったかのような体験ができるヴァーチャルゲームセンターといった、この世界の技術力をフル活用した娯楽施設は圧巻で、光一もいつしか夢中になっていた。


「いやー、楽しかったね」

「そうだな、ここまで遊んだのも久しぶりな気分だよ」


 遊びに夢中になっていたせいもあり、既に時刻は午後二時を回ろうとしていた。今は休憩がてら広場のベンチで休んでいたところだ。


「おっと」

「どうした?」


 光一が近くの自販機で買った飲み物を渡すと、リースがなにやら”しまった”と言わんばかりの声を上げる。


「いや、こういう時はお弁当を持っていくものだと読んだものだからさ」

「ま、今日は移動も多いし弁当はかさ張るだろうからな。今日は適当な屋台でも行こうよ」


 一体どんな本を知識源としているのか疑問に思いつつも、二人は近くにあったクレープ屋に並ぶ。店頭のサンプルとにらめっこするリースと、


「ね、キミはどれにする?」

「そうだなぁ……これにするかな」

「じゃ、私はコレ。おじさん、チョコとイチゴのクレープ二つね」

「あいよ。お嬢ちゃん、可愛いからおまけしといたよ」

「ありがとう、おじさん」


 それを後ろから眺める光一。こうして、眺めているとただの可憐な少女とも思えるのだが、魔力視を使用すると分かる。非常に人間に近しい魔力を出しつつ、その底は全く見えない。

 天川智也のように、その才能がゆえに底が見えないのではなく、そもそもの種族が違う。神と人、それも凡人との違いが顕著に表れているようだった。それでも、


「ね、光一の方はどんな味?」

「あ、ああ。割と苦めのチョコクレープだよ」

「へー、どれどれ」


 凡人なりに彼女から貰った力を最大限利用して、彼女の力になれるのならば己の全てを捧げよう。そう、


「っ!?」

「うん、甘いアイスと苦めのチョコソースがいい味だしてるね」


 自分の手に持つクレープにかじりついてきたリースを見て、再度思いを固めたのであった。




 午後はリースの希望で本屋などを巡り、満足した表情での帰宅途中、


「お二人さーん、ちょっと見ていきやしませんかね」


 薄暗い路地に座る露天商が声を掛けてきた。広げられた商品はガラクタのようなものばかりだったが、”アルマパーツ”と書かれた小さな電子部品が目に止まった。


「光一……これ」

「ああ、だ」


 見ると、その部品は大量にあり、値段は一つ数万程度。これは正確な相場よりも大幅に安い。

 違法パーツ。元々、アルマは光一のようにそれを扱う学校の生徒や国の許可がなければ、一定以上の出力を持ったものの使用は禁止されている。

 だが、それでも違法にリミッターを解除した製品が出回ることが時折あるのだ。その売人の一人が目の前の怪しげな男なのだろう。


「断る。違法なモンを買う趣味はないんでね」

「それはそれは、立派な心掛けで……でも、あっしも商売なんでね」


 パチンと、男が指を鳴らすと後ろからチンピラまがいの男が三人ほど出てきた。彼らはその両手や足に二つ程度のパーツをつけていた。それも十中八九違法パーツだろう。だが、そうだとしても一般人でを脅すには十分な武器だ。


「一つでも買って頂ければ、痛い目を見ることはありませんよ」

「そこの女にキズつけられたくないなら、とっとと言う事聞いた方がいいぜ?」


 男たちのいやな笑みを見せつけられた光一は、一つ。大きなため息を着くと、


「……リース、先帰っててくれないか。泥でも撥ねてその服を汚したくない」

「オーケー、光一。今日は楽しかったよ、また行こうじゃないか」


 そう言うとリースの体が一瞬光り、彼女の姿はその場から消えた。これで、彼女を人質に取られるという最悪の展開はなくなった。


「な、なんだぁ!?」

「女が消えたぞ!?」

「テメェ、一体何しやがった!」


 男たちの声を無視して光一は口を開く。


「先に言っとくぞ、今すぐ絡むの止めるなら見逃すが?」



 

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