第18話

能力顕現者エクスプレスナー!?」


 アルマ、それは科学とオカルトが融合した偶然融合した結果誕生した技術。その実態は未だに謎な部分も多く、現状アルマの技術をここまで高度に扱えているのは日本のみ。それもその筈、このアルマが生まれたのは第二世界大戦中、追い詰められた日本のとある天才による発明なのだから。

 そして、そのアルマの未だ解明されていない謎の一つが能力スキル。アルマを纏った者が、ある一定以上の同調シンクロ率を超えた際に、アルマにはない筈の動きをする現象。それはいつしか能力スキルと呼ばれ、それを自由に発現できるほど同調シンクロ率の操作に長けた人物は能力顕現者エクスプレスナーと呼ばれるようになった。


(まさか、受験生の段階でここまでできるなんて……)

「酷いなー。この人が必死になって逃がしてくれたのに、無駄にするなんて」


 少年、一ノ瀬蒼真いちのせそうまは天才である。天川が国崎流の技を使用して抵抗しようにも、一ノ瀬のスキル、鋭利な刃シャープエッジの前には分が悪かった。

 そして、それは国崎も同じ。


「武術の経験はあるみたいだけど、それに合ったパワーも、スピードも足りないね」

(つ、強い。同調シンクロ率が違い過ぎる)


 ただ単に、高いパワーとスピードに任せた戦闘狂ならなんとかなったかもしれないが、自由自在に出現する無数の刃のせいで一ノ瀬に接近することすらままならない。国崎も圧倒されて天川の横に転がされ、自身の力のなさを悔やむ。


「さて、まあまあ楽しんだしここで退場してもらおうかな。もう満足したし」


 自身の後方にいくつもの刃を浮かばながら、一ノ瀬はピストルの形にした指を国崎と天川に向ける。


「じゃあね」


 ピストルを撃つするジェスチャーに合わせて、後方の刃が一気に発射された。

 国崎は来るであろう衝撃に思わず目をつぶってしまう。そして…………


「…………」


 気絶している筈の天川の指が、ピクリと動いた。









(俺にもっと力があれば……)


 気絶していた天川は、未だ殆ど見えない視界で彼女が倒され、二人揃ってピンチな事はおぼろげな頭でも分かった。そして、いくら力を込めても動かない体では、一ノ瀬に勝つことも、国崎を守ることもできない。

 渾身の力を込めて、せめて国崎の盾になろうと体を動かそうとする天川。


(なんだ…………体が、熱い)


 すると、ドクンと心臓が大きく跳ねた気がしたと思えば、体の芯から力を持った熱が湧き出す。それを留めておけたのは数瞬、その湧き上がる熱は体の外に勢いよく溢れ出したのは、一ノ瀬の刃が発射されるのと同時であった。


「と、智也……?」

「へえ、まだ楽しませてくれるんだ」


 発射された刃の雨で砂煙があがり、それが晴れるとそこに居たのは、黄金の鎧に包まれた天川の姿であった。

 無数の刃はその鎧に傷一つつけることもなく防がれ、天川は一ノ瀬へ殴りかかる。それは防がれたが、両腕をクロスして防ぎながらも一ノ瀬が大きく吹き飛ばされたことから、天川の力が跳ね上がっているのは未だ状況を理解してきれていない国崎にも理解できた。だが、


「!?」

「その力、まだ使いこなせていないみたいだね。不安定だよ」


 黄金の鎧が一部、剥げた。攻撃で破損したというよりは、それを維持する力が不安定なため消えたといった様子であった。それでも黄金の鎧を纏った天川は、能力スキルを使う一ノ瀬と競り合う程の力を見せる。

 国崎も、天川が時間を稼いでくれたお陰で多少は回復し、天川に助太刀しようと立ち上がる。その瞬間、一人の生徒が飛んできた。弱った二人を狙ったというわけではなく、誰かに殴り飛ばされてきたといった様子で、反射的に蹴りで迎撃すると、パキリとアルマの割れる音と共に、


『試験クリアです。初期位置に戻ってきて下さい』

「え?」


 国崎のアルマからそんな機械音声が流れた。

 それに驚いているのもつかの間、またもう一人の生徒が飛んでくる。それは一ノ瀬と闘う天川の背中に直撃するが、その程度で彼の黄金の鎧が揺れることはなく。それどころか激突の衝撃で最後のアルマを破損させたことにより、


『試験クリアです。初期位置に戻ってきて下さい』


 天川のアルマからも国崎と同じ機械音声が流れる。


「あーあ、クリアしちゃったかー」


 一ノ瀬はその機械音声を聞いて、がっかりしたような言葉を吐くが、その語気はまったくそうは聞こえなかった。


「ま、そんなことは関係ない。さあ、続きをしようか!」

「!ッ 何を」


 天川と国崎の試験クリアを知りながらも、一ノ瀬は二人に襲い掛かる。その目は試験の合否など関係ない、ただの戦闘狂のものであった。

 このままでは、永遠に一ノ瀬は付いてくるだろう。天川が不安定な黄金の鎧を構え、再度闘う意思を固めたその時、


「なあ、お前ら。俺が飛ばしたやつ知らないか? なんか倒したと思ったら、いつまで経ってもカウントされないから確認しにきたんだが」


 一人の受験生が森の奥から歩いてきた。口ぶりから、先ほど天川と国崎が止めを刺してしまった二人を飛ばしたのはこの男なのだろう。右腕しかないアルマが目を引き、その顔には見覚えがあった。


「あれ、お前は」

「アンタは……」


 谷中光一と天川智也が互いの顔を思い出したのもつかの間、一ノ瀬が光一に襲い掛かかる。光一は一ノ瀬の拳を受け止め、追撃の刃も左手で受け止める。


「邪魔しないでくれないかな、せっかく面白くなってきたのに」

「誰だお前」


 一ノ瀬は楽しみを邪魔された子供のように、不機嫌に光一を睨みつける。既に説得が通じる様子ではない。


 光一と一ノ瀬、この世界の外からきた異常イレギュラーVSこの世界アルマの天才がぶつかる。


 





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