第4話
生き返ったのだという実感も湧かず、いつのまにか能力が書かれた紙を握りしめながら家に帰っていた。未だに現実という実感はないが、あの出来事は現実である。という事を強烈な死の記憶と、リースを見たときに感じた神々しさが主張してきている気がした。
それでも、もしかしたらとてつもなくリアルな白昼夢だったのではないかと、自分を完全に信じることができていなかった。
「神様召喚」
能力の使い方などを知らなかったが、なんとなく声に出していた。神様召喚の方を口に出していたのは、『自身操作』の方は具体的にどうすればいいのか今の疲れた頭では思いつかなかったからだ。
すると、何かが体からぬけていくような脱力感が襲ってきたと思えば、
「うおっ!」
「やあ光一、さっきぶりだね」
一瞬強い光が部屋を包んだ。光が収まった時には自身を生き返らせた張本人(いや、張本神か)であるリースが目の前にいた。
「あ……」
「まさかこんなすぐに呼ばれるとはね、何か用かい?」
「いや、その、現実味がなくて……なんとなく呟いてみただけで……」
まさか本当に呼び出せるとは思えず、しどろもどろな返答になってしまう。しかし、リースはそんな歯切れの悪い言葉よりも、光一の能力がきちんと動作しているかのほうが気になるらしい。彼女は何度か光一のじろじろと見ていた。
「うん……しっかりと能力は根付いてるみたいだね。何も無いならようなら、もう帰るけど何か聞きたいことでもあるかい?」
「そういえば、神の従者の手伝いって具体的に何をするんだ?」
「一番は、神の不始末を何とかすることだろうね。神を裏切って神の従者としての力を悪用するやつや、不正に力を蓄えようとする神の企みを阻止するのを手伝ってもらうのが多いかな」
光一からすれば、自身を特別だと言ってくれたリースの顔に泥を塗るような真似は絶対にしないと誓えるのだが、そうでない者もいるのだろう。そして、そういった輩を人間界では力を発揮できない神に代わって何とかするのが神の従者としての仕事の一つだということは理解できた。
「それじゃ、質問も終わったようだしそろそろ私は帰るよ。キミの魔力でこっちにきたからあんまり入ると、魔力切れで倒れちゃいそうだし」
そう言い残し、リースは光の粒子になって消えた。光一蘇生した時と同じエフェクト、恐らく天界に戻ったのだろう。
一人になると、急に疲れが出てきた。今日一日で今までの一生分を上回るくらいに数奇な体験をしたのだ。精神的にも、肉体的にも疲れ切っていたようで、食事も取らずに自室のベッドにダイブした。
「神の従者、か」
光一は、ベッドに寝転がりながらそう呟いた。もうここまで来たら信じるしかない。自分は一度死に、“神の従者”としてよみがえったのだと。
「……」
自身の手を見てみる。いつもと変わらない手だが、この手には、この身には間違いなく神の従者としての能力が備わっている。
(今日は、色々あって疲れた)
しかし、今はそれを検証する気も起きず、光一は襲ってきた睡魔に身を任せた。
朝日が差し込み男の顔を照らす、いつもならばうるさく鳴る目覚まし時計によって男は起きるが、今日は違った。
『グッドモーニング光一、もうそろそろ時間だよ』
「!?」
突如、脳内に響く少女の声に光一は飛び起きた。声の主を見つけようと周りを見渡すが誰も居ない。
『言っておくけれど私はそこに居ないよ、この声は光一の脳内に直接届けているからね』
「神様ってのはそんなことも出来るのか」
『まあね、あまり長続きしないし、従者にしか使えないけれどね』
朝からモーニングコールをしてきた神様ことリースと、そんな会話をしながら光一は朝の支度を始めながら、今だ慣れない念話を続ける。
「ちょっといいか?」
『何だい? 光一』
「大したことじゃないんだか。昨日神様召喚を使った時に脱力感に襲われたんだけど、原因は何か分かるかい?」
『ああ、それは単に魔力を消費しただけだよ。神の従者としての能力とは言え、あれは召喚魔法の一種だからね』
「魔力?」
いきなり魔力という日常では聞き慣れない単語。“魔力”など創作物のなかでしか聞いたことがない。魔力について詳しいことを聞こうとしたのだが、
『そろそろ時間だからこの通信を打ち切るよ、じゃあね、光一』
魔力という単語により混乱している間にリースとの通信が切れ、声が聞こえなくなってしまった。光一は、後で魔力についてはゆっくり聞けばいいかと、朝の支度を終えると学校へ行くために家を出る。
「おはよう、光一」
「おはよう智也、その傷どうした?」
光一が教室に入ると既に天河が登校していた。振られた手を見てみると、手のひらに妙に可愛らしい絆創膏が貼ってはるのに気付く。久崎にでも貼られたと予想したのだが、
「いや、朝登校していたら人にぶつかって擦りむいただけだよ」
それはあっさりと外れた。“どうせ、またよくわからん女子何かあったのだろう”そこそこ長い付き合いだ、ある程度の予想はつく。それに、天河の女運についても理解している。そんな、たわいもない会話をしていると担任の教師が来たので光一達は自身らの席に座る。
「えー今日は、皆さんに新しくこの教室で一緒に学ぶ転校生を紹介します」
そう担任が口にし、生徒達がざわめきだす。今の時期に転校生とは珍しい。
「そう騒ぐな、今から入ってきてもらうから、皆仲良くしてあげろよ」
担任の“おーい、入っていきていいぞー”との言う呼び掛けに応じ、教室の前のドアから長い金髪を揺らし、整った顔立ちの女生徒が入ってくる。それは、傍目からしても“美人”と太鼓判を押されても違和感のないほどであった。
「父の仕事の都合で転校してきました、
「鳳條の席は……智也の隣が空いているからそこに座ってくれ」
「はい、わかりました……って、あんたは先程の方!」
「そっちこそ朝の時の!」
面識が有るなら丁度いいと、担任が転校生の席を決めチャイムが鳴り、休み時間となると転校生の周りには人だかりができ、話題好きのクラスメイト達に質問責めにあっていた。
休み時間となり、鳳條がクラスメイトに質問責めにあっていた一方。暇を持て余していた光一は、朝の天河と鳳條の会話について聞いてみる。
「智也、お前転校生と面識があるみたいだが、どうしたんだ?」
「大したことじゃないさ。朝、話したぶつかった人っていうのが鳳條なんだよ」
「なるほど、そういうことか。どうせお前の事だから、その拍子に色々やってそうだけどな」
「ば、ばか野郎! いくら俺でも初対面の人にそんなことするかよ」
「その言い方だと、初対面じゃなきゃするみたいに聞こえるがな」
そんな会話をしながら生徒たちの朝の時間は過ぎていく。そろそろ休み時間が終わりそうな時間になり、生徒たちは各々の席へと戻る。天河もその例に漏れず、自席に戻り次の授業の用意をしていると、
「……」
何やらもじもじと、ばつの悪そうな顔をする鳳條が目に入った。最初は何故かそんな表情をするのか疑問に思っていたが、一つの可能性を閃いた。
「教科書見せようか? 鳳條さん」
「え……なんで」
そう、転校してきたばかりで教科書を持っていなかったのだ。これは天河の推測だが、彼女はお嬢様なだけありプライドというものが高そうと予測していた。そんな性格だからこそ、気軽に教科書見せてとは気恥ずかしくて言えなかったのだろう。
「なんでって言われても……鳳條さんだからかな(鳳條さんは転校生だし、なら多分教科書ないと思ったんだけど)」
「!? ……え、ええ。お願いしますわ」
天河から返答に驚く鳳條。この返答では、鳳條に気があるかのように捉えられかねないのだが、どうやら気づいてはいないようだ。
「じゃあ机をくっつけるね、鳳條さん」
「私には灯という名前があるのよ。あ、あまり殿方には名前で呼ばれたく無いけれど、朝のこともあるし、フレンドリーな関係を築きたいから灯でいいわ」
「そうか、なら俺も智也でいいよ」
「ええ、よろしくお願いね、智也」
僅かに赤面したのを
そんな会話を聞かされたクラスメイトの内、大半の男は「チクショウ、俺達は名字にさん付きなのにいきなり呼び捨てかよ。お前のところの女運をこっちに分けろよ」といった視線を送り。山崎と久崎は「朝のことってなによ、あとで説明してもらうからね」と言った視線を送っていた。ちなみに光一は。
(魔力ってどうしたら自由に使えるんだ?)
そんな事を考えながら、教師が来るまで自分の世界に浸っていた。
「…………えー、ここはsinxの値がこうなって」
四分の一程度の生徒が夢の世界に入るなか、光一はその眼に魔力を巡らせていた。
(なるほどね、誰しも魔力は持っているってことか)
魔力を視認できるようになって初めて分かったことだが、おおよそ生き物と呼べるものには大なり小なり魔力はあるらしい。個人差はあるものの、魔力を通した目で辺りを見渡せば、人は勿論のこと、空を飛ぶ鳥に今しがた自分の目の前を通った小さな虫ですら、淡く、薄く発光していた。その中でも、光が特に強いのが三人、
(これが、あいつらと俺の“差”ってやつか)
机に突っ伏し、堂々と寝ている斉藤と、背筋を伸ばしているがその目は閉じられている久崎。この二人は、明らかに周りよりも魔力の光が強い。そして、
(智也…………っ)
天河智也、彼の光の強さが強いのは勿論、なにかが他の物とは違う。まるで、自分との格の違いを見せつけられているようであった。
対する自分は、辺りを見渡せば分からなくなってしまうほど特徴がなかった。動け、集まれと願えば、自分の魔力は手足のように動く。だが、何もしなければあっさりと埋もれる。平凡の烙印を押したように。
鳳條が転校してきてから一週間が経過した。すっかり鳳條は学校に馴染み、運動も勉強もできる文武両道転校生として話題になっていた。天河や久崎、山崎たちとも仲がよく、それを通じて光一も何度か話す程度の関わりはあった。
「光一。今週の週末暇か?」
とある放課後、帰り支度の最中に斉藤から話しかけられた。最近は魔力や気といったものについてリースに教えて貰っているので、特にこれといった予定はない。
「別にないが、何かあるのか?」
「いや、鳳條の誕生日パーティーの招待状を貰ってな。あと一枚だから誘いに来た」
「誕生日パーティーとは、まるでお嬢さまだな」
その言葉を聞いて、斉藤は“知らないのか?”といった顔をする。
「鳳條は鳳條グループのお嬢さまだぞ」
「マジで」
「マジだって、俺も本人の口から聞くまで知らなかったけどさ」
鳳條グループといえば、世界でもトップクラスの会社だ。まさかそんなお嬢さまとがクラスメイトだとは夢にも思うまい。よしんばそんなお嬢さまが転校生してきたとしても、そんな彼女のパーティーの誘いに参加できるとは夢にも思はないだろう。
そして週末。集合場所の駅前から黒塗りの高級車で迎えられ、着いたのはとある街中の高層ビルの一つ。明らかに高級そうな受付で光一たちが招待状を見せると、スタッフに通されたのは豪華なパーティーホールだった。
「皆さん、本日は来ていただいてありがとう。お父様にちょっと皆さんの事を話したら“是非とも招待しなさい”と押し切られてしまって」
「いいよいいよ、俺も灯の誕生日祝いたかったし」
「……っ、ありがとう……ございますわ」
予想外の返答に顔を赤くする羽目になった鳳條であった。が、すぐにいつもの顔に戻ると、
「会場はここと上二つのホールで行っていますわ。ここはお父様の知り合いの子等が多くいるホールですわ。上はお父様やお母様の知り合いばかりですわね。私はこれからお父様の所にいってきますので、皆さんまた後で」
そう言い残して、鳳條は光一たちを置いていってしまう。
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