第4話 悪魔と海でおはなし

「だいぶ幸せオーラが溜まってきたようですけど、それでもまだ疲れた顔をしていますよ? これはまだまだ、甘やかしてあげないといけませんね」


「おにーさん。どこか行きたい場所はありますか? 私のこの翼で、おにーさんの行きたい場所にひとっ飛びで連れて行ってあげますよ!」


 翼を見せびらかして自慢気にポーズを決める少女。主人公は行きたい場所をリクエストした。


「海に行きたい? 分かりました! それでは、海にひとっ飛びしちゃいますね!」


 空に飛び上がり、主人公は風の音に包まれる。


「しっかり掴まっててくださいね? えっ? そんなに申し訳なさそうにして。大丈夫ですよ。おにーさんは優しいですから。どこを触られても、私、気にしません!」


 しばらく飛び続け、海を目指す少女と主人公。心地よい風切音が耳を包み込む。


「私、実は人間界に馴染めなくて、ずっと不安だったんです。でも、おにーさんが優しい人でとっても安心しました。おにーさんになら、私、なんでもやってあげたくなっちゃいます。本当ですよ?」


「おにーさんが特別なんです。 他の人とは、こんなにお話ししたことなんてありませんから。こんなに優しいんですから、おにーさんには幸せになって欲しいです」


「あっ。海が見えて来ました。では、着陸しますね」


 砂浜に降り立った2人。波の音とカモメの鳴き声が響き渡る。


「うーん。潮の香りと、波の音が気持ちいいですね〜。おにーさんが海に行きたがっていたのも納得です。少し、一緒に座ってのんびりしましょうか?」


 砂浜に座る2人。主人公は遠慮して少女から距離を取ろうとする。


「もうっ。そんなに離れて。良いんですよ? 私ともっとくっついても? 誰も見ていませんし。今はおにーさんと私の2人っきりです。ほらほら、遠慮せずに」


「おにーさんの身体、あったかいですね〜。このまま眠ってしまいたくなってしまいます〜。ふふっ。おにーさんは、なんだか緊張してますね。大丈夫。私はおにーさんの味方です」


「おにーさんと一緒だと、とても安心します。私、人間界に来てからずっと1人で寂しかったので……。おにーさんのおかげで、私の方がなんだか幸せな気持ちになってきちゃいました……。ふぅ……。落ち着きます……」


 しばらく静かに波の音を堪能する2人。少女の寝息が聞こえ始める。


「おっと、つい眠ってしまいました! すみません。おにーさんを癒やすつもりが、私がこんなに気持ち良くなってしまって……。えへ、えへへ……」


「よしっ。せっかくですから、海の中でも入ってみましょうか?」


 海の中に入ると言われ、思わずキョトンとする主人公。


「あれ、どうしました? そんな不思議そうな顔をして。さっきまでのこと、見てましたよね? 私の力なら、海の中だって入れますよ。それっ!」


 少女が目一杯両手を広げると、2人は巨大な泡に包まれた。泡の中は、プクプクと不思議な音が響いている。


「特製のおっきな泡で、私とおにーさんを包み込みました! 力を入れて触ってみてください。ほら、どうですか? 全然割れないですよね? これなら、2人で海の中に入ってもへっちゃらです!」


「あれ? なんだか不安そうな顔をしてますね。大丈夫です。私がおにーさんをだっこして、泳いであげますから。ほら、ざっぷーん!」


 少女に抱きかかえられたまま、海に入る主人公。海に飛び込む音の後、水中を漂う音に包み込まれる。


「泡の中なら、水も入ってきませんし、冷たくもないですよね? 私に身体を預けて、おにーさんはリラックスしてください。たっぷりと癒やされてくださいね? ほら、力を抜いて〜。リラックス〜」


 しばらく泳ぎ続ける少女。水中を突き進む音が心地よく響く。


「どうですか? 海の中で、私に身を任せてプカプカするの。気持ちいいですか? うんうん。気に入ってくれたようで良かったです!」


「海の中って、神秘的で素敵ですね〜。陸上では見られない生き物もいて。でも、ここにいるのは、私とおにーさんの2人だけ。……誰にも邪魔されません。なんにも気にしなくて良いんです。ゆっくりと、疲れを癒やしてくださいね」


 その時、キュイキュイと何かの鳴き声が聞こえてきた。不思議そうに耳を澄ます少女。


「おや? なんでしょうかこの音は? とても綺麗で、癒やされる音ですね……」


 尾ひれを持つ影が、2人の前に姿を現した。それは、1頭のイルカだった。


「わぁっ! なんですか、この生き物。可愛い〜! とってもキュートです。……イルカっていうんですか? 人間界には、こんなに可愛い生き物がいるんですね〜」


 イルカの鳴き声と水中の音、少女の感動する吐息が漏れ聞こえる。


「この子、ずいぶん人懐っこいですね。ずっと私たちの周りを泳いでます。可愛いですね〜」


「えっ? 私の方が可愛い……? えぇっ!? な、なんですか急に!? そんな風におだてても、何も出ませんよ! それに、私よりイルカさんの方が可愛いですから! まったく……おにーさんは……。悪魔をからかうなんて、とんでもない人です……」


 赤面しながら動揺する少女。困惑しながらも、満更でもない様子だった。


「でも、ちょっとだけ、嬉しかったですよ? ありがとう、優しいおにーさん……」


「では、そろそろ戻りましょうか?」


 水中の癒やしの時間が終わり、再び浜辺へと戻ってきた2人。少女はひと仕事終えたような顔をしていた。


「ふぅーっ! 気持ち良かったですね〜! おにーさんも、だいぶ幸せオーラが満ちてきましたね。良かったぁ……」


 少女の言葉を聞き、主人公は悲しげな表情を浮かべた。少女は不思議そうに主人公を見つめる。


「あれ……? どうしたんですか? そんなに悲しそうな顔をして。あっ。大丈夫ですよ! おにーさんから幸せを奪ったりしません! 最初はそのつもりだったんですけど、もうやめましたから……! おにーさんが悲しくなるようなことを、私は絶対にしません!」


 主人公はそれでも悲しげな顔を浮かべる。いよいよ困り果ててしまう少女。


「どうしたんですか……? なんでそんなに、寂しそうな顔をしているんですか……?」 


「おにーさんを幸せにするためなら、私なんでもやってあげたいです。私に出来ることなら、遠慮なく言ってくださいね?」


「……もしかして、私がこのまま帰っちゃうんじゃないかって、不安なんですか? あー、なるほど。そういうことでしたか。おにーさんも、私と一緒にいたいと思ってくれてるんですか……?」


「私、おにーさんのこと、好きです。変ですよね? まだ出会ったばかりなのに……。こんな気持ちになるなんて。でも、おにーさんの雰囲気が、そうさせるんです。おにーさんも、私のこと、好きですか……? ふふっ。優しいおにーさん。ありがとうございます。でも、もっと好きになってもらえるように、私、これからも、もっと頑張りますから!」


「大丈夫ですよ。私は、ずっとおにーさんと一緒にいます。疲れた時には、いつでもよしよししてあげますから。だから、大丈夫、大丈夫……。よしよし……」


「私に甘えたくなったら、いつでも言ってくださいね? またマッサージと耳かきをしてあげますから……♡」


 波の音とカモメの鳴き声。そして少女の優しい笑い声が、主人公の耳を癒やし続けた。

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あまあま悪魔っこがあの手この手で甘やかしてくれるASMR ざとういち @zatou01

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