第28話

お前は、心配になったことがないのか?

誰かのスマホに、私と母の居場所を追いかけた記録が残ったままだという事。


お前は怖くないのか?

既に警察に言われているのに。


そしてこれは疑問だ。

お前は途中で怖くならなかったのか?

私と母、たった2人の人間を、こんなにも大勢で取り囲んでいる事。

この数に異常さを少しも感じなかったのか?


お前が子供であるなら、お前の発言で、お前みたいなガキの発言で、こんなにも大勢の大人が動いていく事。

反対に、お前の近くにいるいい大人がやっているのであるなら、37才の私をガキと言って、乗れても自転車ぐらいだろうと思っているにも関わらず、車で、血眼になって追いかけ回している、そんな大人を1回でも異常だと思わなかったのか?


最近ニュースを見れば、誰もが知っている、そんな会社の責任者が謝罪している場面が多い。


謝罪。

人と人とが起こした事であるならば、当たり前だが、人の手で解決していかなくてはならない。

そんな時に大切な事は、気持ちなのだろうなと思う。

謝罪と言葉では簡単に言っても、それが本当に謝罪になっているのか。

謝罪される側に謝罪だったと伝わっているのか。

周囲が分からなくても、当事者同士には分かるものがある。感じるものがある。


そう、焦げたトーストが2度3度と出てきた時のように。

私はこの時、焦げたトーストが出てきた事よりも、謝罪に来た子供がニヤニヤ笑いながら謝りに来た事を叱った。


お前に念を押しておく。

その時でも、私は30才を過ぎていた。

もちろん隣にいた母も60代だ。


注意した私が生意気か?

「ニヤニヤしながらこんな食べられないものを持ってきて、そんな事をしていたら、お前が死ぬとき、こんなもんしか食べられなくなる。それでいいのか?」

そう言った私は生意気だろうか?

お前に聞いている。


そして、何を同僚に聞いていたかは知らないが、その子供があまりにもびっくりした顔をしているのを見て、私は、今この子供自身が、何歳の人間に注意されているのかが分かるように、鞄から免許証を出してその場で見せた。


何度も言うが、私は童顔だ。

ただ童顔だ。


毎日店に来ている、若い親と子供だから、怖くない、怖くない、そんな程度の事を先輩に言われては、厨房からポンッと背中を押されて出て来た。そんなところだろうと感じた。

やはり、私の察し通りだった。

そもそも、その子供はあまり見かけない顔だった。私と母はその当時、その店を毎日利用していた。店員の顔ぶれは何となく分かる。新顔だ。


最終的に、その子供はしっかり謝罪をした。

そして、その日はたまたま店長が不在だった。そこで、私と母は、副店長とホールを仕切っていそうな社員とニヤニヤしていた子供に名前を書いてもらう事にした。

こういう事があったという証明だ。


その日、私が座った席は入口付近だった。それもあってか、何事かと野次馬根性なのか、面白そうに見ていく奴も多かった為でもある。


子供が名前を書くときに私は言った。

「もしも先輩に、焦げたトーストを出せと言われたなら、そいつの名前も書いとくといい。」

その子供は迷った。

とてもとても迷ったが自分の名前だけを書いた。


そういう事なのだ。

お前が、私と母の年齢を間違えている事は致命傷だ。

なぜなら、大抵の事がばれているから。


思い出せばいい。

学校のクラスのいじめ。

それを解決するかしないかは別として、担任は、誰がいじめていて誰がいじめられているのかしっかり分かっている。

いじめっ子が自分にかわいらしく寄って来ても、この子がいじめっ子だと分かっている。

そのいじめっ子は、ばれているのに、ばれていないと思っている。

お前もばれているのにばれていないと思っている。

だからこんな事になった。

最悪の事態になった。

もちろん、お前にとって。

お前のせいで。


今になって泣いている奴もいる。

今になって。

こちらは涙を流す暇もなかったが、涙も流さなかったお前には進歩したと考えるべきか。

涙さえ流せなくなればいい。

そんな甘いものではない。

そんな緩いものでもない。

お前は知っているな?

私と母が、何人の人に写真を撮られ続けて、何人の人に居場所を流され続けているか。

お前はちゃんと知っているよな。

そんな毎日が何日続いている?

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