第26話

そう、免許証を出した。

あの時も。あの店で。

今は一言付け足しておけば良かったと思っている。

「私は童顔だから、年齢が分かるように免許証を見せておく。」と。


免許証と来れば1つ不審感でいっぱいになる事がある。

車の行き帰りに通る店。

ショッピングモールの系統の店。

もちろん息がかかっているだろう。そこも度々利用していた。

その店で、シニア割という割引サービスが始まる。

そのサービスを受けるには、身分証明書の提示が必要だった。

勿論、母は60を過ぎているので、免許証を提示した。

そのサービスの大々的な広告は、時期的なものだと思うが、私には、「本当に60才だったら見せてみろ。」という風にしか思えなかった。


その頃、私と母は既に付きまといをされていた。

あの店で私が免許証を見せた事は、広まっていた筈である。


そして以降どうなったか?

母がシニア割の為に免許証を見せた後、とても早い内に、そのサービスは打ち切られた。

見せられて困った奴がいるのではないか?

それが私と母の感想だった。

それとも皆の前で、母がシニアサービスを受け続けるのか不都合だったか。

そっちだろう。

堂々と免許証を見せ、当たり前のようにシニアの割引サービスを受ける母。

だが、この人は30代だと流れている。

すると、サービスを不正に受けている人がいるという声が起きる。

いつも誰かが傍に付きまとい、良いことではなく、嫌がらせをする為に近くにいるのだから。そんな声が上がるのは時間の問題だっただろう。

そして、値引きがあるという事はお金が絡んでいる。他の人より安く購入出来るのだから。

そうなると警察が介入する事にもなる。

それは誰かにとってまずかった。

そんなところだろうか?


そう、お金が絡むとマズいのだ。

だから言っている。

私と母のデマで、金儲けはしていないかと?

そう言えば駐車場も増設されたような。

何か新しい建物も出来たような。

気のせいか?


1つ言っておきたい。

いいとこ取りは許さない。

例えば、お前が、お前の家族が、あろうことか私と母のデマで金儲けをしたとする。

そうであるなら、

「悪いことをして金儲けをした奴だ。」

と、死ぬまで指を指され続けろと言っている。

死ぬまでだ。

いつお前は私と母から手を引くつもりだった?

手を引くつもりはなかっただろう?

金儲けをしながらも、私と母に指を指し続けようとするのは絶対に許さないと言っている。

お前が指を指されれば、私と母から自然に離れていくのだ。


お前なら言える。

「嘘をついて何が悪い?金儲けだ。」と。

言ってしまえ。楽になる。

いい奴ぶろうとするから、両方取ろうとするからうまくいかない。

お前の大切な家族にも、目立つ事は控えろと伝えるべきだ。牢屋に選ばれると。

オレのために、私のために。

お父さんの為に、お母さんの為に。

将来の夢は諦めてくれと。

目立つ事は控えてくれと。


私のウラタとの結婚も諦めさせたお前だ。

簿記1級を持っている私を働きに行かさなかったお前だ。

お前の家族にも全てを諦めさせろ。

そもそも、犯罪をしたという事はそういう事だ。

しっかり理由を話す必要がある。

私と母に金輪際手を出してはいけない理由を。


ついでに免許証の事で思い出した。

あの店で、私は個人情報が載っているから、写真と生年月日の部分だけを見せた。

端っこの方だけを。

そして、ウラタと結婚する予定で、ウラタとお待ちの紙に書いていたから、余計に名前の部分は伏せておいた。


お前はきっとこう思ったのだろう。

「嘘をついているから全部見せれない。」


何もかもを自分の都合の良い方にしか考えないその癖が、お前をどんどん悪くしていっている。


警察に今から言うのではない。

もう既に言った後なのだ。

お前は、私と母を散々な目にあわせた後なのだ。

交番よりも、ずっとずっと上の人が私に聞いた。

「何か心当たりは?」

私は答えた。

「喫茶店で焦げたトーストを注意してからです。」

こういう事が事実だ。

事実の積み重ね。

それが、私と母以外の人にも起こっている。


因みに、いいとこ取りは金儲けをした奴だけにいるのでもない。

お前が信用しているであろう職業の中にも、いいとこ取りはいる。

結局、その存在が、お前にとって心強いものではなく心配材料になっているのだと私は思う。

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