第25話

あの人のブログを読む。

怖い話は、何となく文字の表面だけに触れながら読み進めた。


最近オレは地図を買った。

あの人の家。

ショッピングモール。

オレはどんどんバツ印を地図に書き込んでいく。

その後に数字。

ここのバス停からここのバス停は何分。

だからこのタイミングであの人の車とすれ違う…と。

あっという間に書き終えた。

毎日毎日付きまといをしていた成果。

どこからどこまでが何分掛かるのか、皆皆の情報を収集した成果。


ふーっと息を吐く。

持っているマジックを、人差し指と中指の間でクルクルクルクル回した。

「こんな事は簡単なんだけどな。」

机に頭を押し付けながら地図の上で上半身、大きく伸びをした。

また、ふーっと息を吐く。

衝動的に本屋で買った地図。

何かをしようと思ったのだが、その何かは今ひとつ分かっていなかった。


そんなオレは、またぼんやり考えるのだった。

オレの中に残る引っ掛かり。

それが何か。

「警察。」

そうだ、警察だ。

あの集団は、警察と繋がっていると公言していた。

だからオレは自首するのを止めたのだ。

オレみたいな立ち位置の奴等はそうかもしれない。

言ったところで、真面目に対応してもらえるのか。あの集団に逐一報告されるのであれば、言った後どうなるのか。

きっとここぐらいまで想像して、皆が諦めている。

ただ、それが本当なのか?

あの集団は、悪いことをやっても捕まらないとオレたちを勇気づけているのか?

それとも、警察に言ってみろ、どうなるか?とオレたちを脅しているのか。


オレたちを脅しているのなら、あの集団は捕まる事を恐れている事になる。

じゃあなぜやったのか?と思ってしまう。


だとすれば、勇気づけているのか?

いや、そんな事もない。

他の奴等はどうか知らない。

けど、オレに関して言えば全くもって迷惑なだけだった。

30代だと聞かされていた人が60代だった。

生意気なガキだと聞かされていた人が30代だった。

その間違った年齢を本気で信じさせてくれるような老けた顔ばかりに囲まれていた。

そして、あの人たちよりオレの方が貧しかった。頭も悪かった。

オレは公立だ。

親からかけて貰ったお金も少ない。

お金イコール愛情か?と言われたら何とも言えない。

それでも、お金をかけてもらっていない方とお金をかけてもらっている方との二者択一ならば、やはり、お金をかけてもらった方が愛情をかけてもらったという事になるのかもしれない。

お金をかけることも愛情だと判断するのかもしれない。


結局、こんな現実を目の前に出されて何が楽しいのか?

あの集団はこんな結果を予想していなかったのだろう。楽しくないという事。

あの人たちに自分から突っ込んでいけばいくほど、こんな事しか出てこない。

そして、あいつらは不都合な事実は全くと言っていいほど何も教えてくれなかった。


オレがどこまでの気持ちであの人たちに犯罪をしていたのか、自分自身理解出来ていない部分がある。

ただ、もしオレが、あの人たちのデマを聞いて、一瞬でもあの人たちに対して優越感に浸っていたのなら、何か一瞬、夢を持った気がしたのではないかと思った。

どんな夢か、何の夢か分からないけれど。


オレはあの人たちの近くで喫茶店に座った時の事を思い出す。

オレたちと同じようにあの人たちを取り囲む、いい歳した男2人が言っていた。

「夢も希望もない。」

片方の男はずっと貧乏ゆすりをしていた。


その通りだ。

ないどころか、夢は悪夢に、希望は絶望に変わった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る