第23話
なかなかあの人のブログは更新されなかった。
その間、オレはあの人が電車に乗った行き方で、あの人がもう行かなくなった駅まで行って電車を下りた。
オレがその駅で下りても、その周辺を歩いても、ぞろぞろオレたちがやったように、周辺が騒がしくなる事もなかった。
それで普通だと、それが普通だと思わされた。
あの人の普通を奪った。
他人の普通を奪う。
そういう事が犯罪なのだとも思った。
駅を下りると、あの人のブログに書かれていた周辺があった。
残念と言えばいいのか。
とても都会的で便利な街。
すぐ近くには沢山のテナントを収容出来るビルがあった。
中に入れば、オレが働くショッピングモールに入っているテナントがいくつも軒を連ねていた。
オレはすぐに外に出た。
きっと、あの人のおばあさんはこの立地の良さで、老人ホームを決めたのだろうなと、こんなオレでも理解する事が出来た。
そして思った。
その良さを満喫出来たのだろうか?
人恋しくなる季節の変わり目のせいか、オレは会ったことのないあの人のおばあさんを勝手に想像して、うっすら涙ぐんでしまった。
オレはもう一度ビルの中に入る。
認めたくないものを認める為に。
「簡単だ。」
さっきオレの頭に浮かんだ言葉。
簡単なのだ。
あの人たちのデマを流す事。
店長会議なんかで流せば、いとも簡単なのだ。
オレは鼻をこすった。
こすりながら薄ら笑いのような笑みを無理矢理のように、にーっ、に変えてオレはその街を出た。
あきら、お前はさ、ずっと嘘をつく自信がなくて消えたんだな。
あまりにも本当の事が書かれていて。
オレに教えてくれてない事もいっぱいあるもんな。
そして、お前は昔、あの人の近所にいたんじゃないのか?
オレとあきらを含めたあの集団には、元々温度差があった。
オレがニヤつくのとあの集団がニヤつくのとは、面白く感じている度合がまるで違っていた。
行動がエスカレートする程、あの集団は楽しそうに見えた。
ただ、楽しかった分、逆になった時の苦しさは想像を超えるものがある。
あの集団は分かってきたのだろうか?
ショッピングモール。
オレが仕事で入ってから、工事はいくらでもあった。
元々あってもおかしくない場所だと言えばそうなるが、あの人たちの居場所連絡を密に密にしていくのと比例して増えていったのは否定出来ない。
色々なものが変わる。
店の装飾から椅子、植木でも何でも。
ポスターでも床でも何でも。
要はショッピングモールは、仕事を増やしたいと思っている人間にも、もってこいの場所なのだ。
あの人が最初の方にブログで書いていた。
お前らにとってこんなにも居場所を流すことが容易い事だったと分かっていなかったと。
オレは胸が苦しくなる。
あの集団は、何もされていない人間を掴まえてここまでする事に、一体何を感じるのだろう?
何もされていないのだ。
オレだって。
あの集団が言い出した。
そして、それを毎日毎日、消しゴムで一生懸命消しながら歩くあの人たちがいた。
そんなあの人たちのことを
「嘘つき。」とあの集団は言った。
最初から、スタートの段階から間違っているという事を、あの集団は気付かないといけない。
本当に目を覚まさなければいけない。
「ウラタ」と書いてあったのには理由があった。
あの人の父親と言っていた人も、あの人の叔父だった。
オレは最近あの集団の事ばかり考えている。
悪いことをする奴は孤独じゃなければいけない。
だからあの集団が沢山の人間を巻き込んだのは失敗だとオレは思う。
被害者ぶっていると思われるのも、お前もやったのは同じだと言われる事も承知の上だ。
あの集団もきっとブログを読んでいるのだろう。
オレは何もかもを信じ切っている訳でもない。
小説なのだから。
だが、小説だからこそ、とも思っている。
そして、あきらやあの集団から聞かされる事よりは何千倍も信用出来ると思っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます