第16話

叔父?

笑える。

マジで笑える。

あきら、お前の家では叔父さんの事をお父さんって呼ぶのかよ?

とにかく、そろそろ出てこいよ。

お前に言いたい事は山ほどあるんだ。


笑える。そう言ったけど、笑えない。

全然笑えない。

あの集団は、何かしら似たような事を言ってはその場をしのいだ。

オレがすぐ浮かんだ事。

あの人の家、本当にマンションか?

あきら、オレはお前の実家を見てみたい。


あの人のブログを見た。

ボーッと思い出した。

昔、あの人が下着を選んでいる写真が回ってきた。その写真を回した奴は女だった。

何とも言えない気分になった。

女としてこれをやるのか。

やっぱり、何とも言えない気分になった。

オレが正社員になる前に別れた彼女。

短かった。

あきらが紹介してくれた女。

オレが必死であの人達の話を聞こうと躍起になった時期。

あの人達とすれ違うエスカレーター。

オレの両目を手で覆ってキスをした。

別れて正解だった。

別れた後、

「あいつはダメだ。」

あきらはそう言っていた。どういうところがダメだったのか?お前の思惑通りに動かないところか?

彼女は当分出来そうもない。

見ての通りこんな世界になった。

今この中から、あの人達の居場所や写真を1度も流した事がない、そんな女を見つける自信はない。


あの人達は全部知っていた。オレたちの悪事を。

ムキになった事まで見抜いていた。


オレはあの人が老人ホームに行っていたのも知っている。なぜならショッピングモールの駐車場に車を停めていたから。

そこからあの人は電車に乗る。

勿論、オレは動きはしなかった。

仕事中だった。

ただ、真面目に仕事をやっていたかと言われると首を縦に振れない。

きっとあの人は何もかも分かってる。そう思う。


あの人は1人で老人ホームに行く。

毎回流れてきた写真もあの人だ。

その写真と、あの人のブログ。

誰が推理してもブログを書いているのはあの人だと分かる。

あの人が37才だと分かる。

ガキじゃない。

登校拒否でもない。

まず、どこに登校するのか?

あの集団は言い訳が出来なくなった。

それが心から嬉しかった。

ブログが始まった途端あきらは姿を消した。

あきらも絶対に読んでいる。


ん?

何かに引っ掛かる。

ブログには、言い訳してるのだろうと書かれていた。

果たしてそうだろうか?

夏の日。

老人ホームの帰り道。あの人はどういう訳か、片方の靴の一部を剥がして帰ってきた事があった。

その写真をあきらが面白そうに見せまくっていた。


本当に言い訳する為にあの人に近寄ってたのか?

違うんじゃないか?

警察に言われてるなんて1ミリも思わず、あの人の年齢も調べることもなく、毎日毎日懲りもせず、嫌がらせする為だけにまとわりついていたのではないか。

皆に見せるネタとして。

本気で警察のことが心配なら、もっと何か違うはずだ。

そしてオレもあの集団とは違う。

心の隅っこにはいつも不安があった。

この温度差にオレは今相当ムカついている。


あの人は毎日毎日、家を出てから帰るまでずっと見張られ付きまとわれていた。

あの人達を見つけたら誰もが連絡をするから。それを誰もやめようとしなかった。

その事がどんなにあの人達の人生を変えてしまっているのか、オレはブログを読むまで考えもしなかった。

ふと思った。

なぜオレは通報しなかったのだろう。


あきらの言う事を全て信じているわけではなかった。

それは本当に偶然の事。

車を運転しているあの人と、帰り道が偶然重なった。

信号待ちが同じだった。

ガキが運転している?

オレはその事を敢えてあきらに言わなかった。


あの集団が最初に標的にしたのはあの人だ。

37才のあの人を生意気なガキだと言って。

それがその内、母親の方になった。

そしてその内、苗字が違うと言い出した。

家まで紹介して、

「ほら、表札と違うだろ?」と言った。

あきらが何を言いたいのか初めは分からなかった。

あんなに親子と言っておいて、いつも一緒にいると言っておいて、次は姉妹だと言い出した。

更には友達同士とも。

話を次から次へと変えていった。

オレはあきらに少しずつ不信感を抱いていた。


案の定、あの集団は言い出した。

あの人達が家を出てから10分後位に付いて行けばいい。

ばれないように、言い訳しようと。

家を出たのは連絡してやるからと。

大多数の人がそれをありがたく思っていた。

オレはその時に確信する。あの人が運転しているのを見せない為だと。

だけど、皆がやっているとやらないオレだけ捕まるのではないかという不安が出てきた。そして結局やっていた。


今は冷静に考える事が出来る。

自分達が言い出した事。始めだした事。

そのせいで警察に言われたとなるとあの集団は困るのだ。

だから視線をそらさせる為、いつも色んな事を言った。

「こうしたら助かる。」

その内、

「間違ってないのか?」という反発が起こる。

すると、あの人達は嘘つきだと言う。

「こうしたら助かる。」

その内、

「何か、おかしくないか?」そんな反発。

また、あの人達は嘘つきだと言う。

これを永遠に繰り返すつもりだったのだ。

生きてる間中?ずーっと?

嘘つきだと言いながら、ずっと付きまとっているくせに、確実な証拠を持ってきたことは1度もなかった。

そんなに自信があるのなら、

「もし間違ってたら死にます。」

そんなタイトルでも付けて動画でも投稿したらどうなのか。

あの人達は嘘つきだと。

自分が間違ってたら飛び降りると。

飛び降りて見せると。


オレは考えた。

おかしいことに気付きながら、なぜオレはあの集団に従ったのか。

それは自分が犯罪をしていると分かっていたから。

認めたくない事実。

捕まるのは嫌だ。

いつの間にかそんな気持ちを人質に取られていた。

そしてそれは、自分が犯罪者だと自覚するまで分からない。オレが悪いとオレの脳みそが認識するまで。

そんなトリックに大多数がかかってしまっている。昔も今も。

人間はいとも簡単に操られるのかもしれない。妙に納得してしまった。

他人事みたいに。

同時にジワジワと腹立たしさが込み上げてくる。

沢山の人間を巻き込んで、楽していたのはあの集団だ。

今日は眠れない。

眠れないほどに腹が立つ。


オレはあの人達にそこまでする気はなかった。言い訳がましいと思われるのは承知だ。

あの人達にとって、オレは犯罪者の1人。

でもオレは、本当にそこまでする気はなかった。

あの人達の付きまとい、ストーカー行為。

やったオレが悪い。オレが全部悪い。

ただ、言い訳しようと、いつまでもいつまでも終わりにしないのは、あの人達から離れないのは、ずっとずっと悪質だと思う。

今日は頭が冴えている。

何だろう?

あの人の家の周りで起こった嫌がらせ。

あの人の父親は亡くなっている。

でもあの集団は、今の今でも生きているとオレたちに言いふらした。

そして、その人は叔父だった。

自分が言いたい答えみたいなものが、なかなか出てこない。グチャグチャな頭の中。

整理するには相当時間かかかる。


あの人達は、悪いことをしたオレたちの、無意味な言い訳に、ただただ付き合わされて毎日を過ごしている。

日替わり定食みたいに、毎日毎日、目の前に違うオレたちが登場する。

言い訳と言っても自分の都合の良い日しか来ないオレたち。


あの人達の時間は戻ることはない。オレが死んでも戻せない。

お前だよな?言い訳しようと言い出したのは。

犯罪を提案した上に、やった後も、言い訳しようとずっとあの人達の時間を潰させる。

イラつく対象も自分達ではなく、全部あの人達に向けさせる。

オレのイライラを受け止めるべきはお前だったよな。卑怯者。

心のどこかで全く異質の決意が生まれたけれど、オレはまだあの人のブログを読み進めなければいけない。


あの集団は、困った時にいつもそれを出した。

オレはその出来事を知らない。

ショッピングモールで働き始めたのはそれより後だ。

ここには受け継ぐように語り継がれている事があった。

「あの人達はクレーマー。」

ブログにあった、ショッピングモールでの事件。きっと関係がある。

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