第13話
オレたちは、異常だった。
途中から目の色も変わって、行動がエスカレートする。
あの人達が、じっと黙ってお茶をしていた、やられっぱなしだったあの人達が、ある日を境に警察の話をし始めた。
あきらもひどく焦ったに違いない。
その頃からあきらは色んな事を言い始める。
誰かが聞いたことにハッキリ答えなくもなった。
そのハッキリしない受け答えが余計にオレたちをエスカレートさせる。
あの人達が店に入るや否や、オレたちは少しずつ、少しずつ、ぞろぞろ、ぞろぞろ入店して、周りを囲んだ。そしてレンズを向ける。
録画開始。
何を言っているか聞いてやろうじゃないか。そう意気込んで。鼻息荒く。偉そうに。
自分が年上だと思い込んで。
年齢だけじゃない、何もかも、何もかも、お前らより上の人間なんだと思い込んで。
お前らは悪い奴。そして何を言おうが噓をついている。その言葉しか頭になかった。
不快な顔をされていても、気付かぬ振りをして、すかして。
最初から待ち伏せをして、そこの席しか座れないようにもした。
何もかも暗黙の了解で進む。グループが違ってもそんな風にあの人達を取り囲む。
あきらが赤い服を着たらいいと言った頃、あの人達の車は赤色だった。
赤色の服を着る人はいても、赤色の車にする人は減った。
なぜか?
あの車が通れば誰もが連絡し易いように。
通った瞬間にあの人達の車だと誰もが判断し、連絡しやすいように。
そんな雰囲気になった。
とても自然に。そんな風になった。
ショッピングモールは大勢の人間が出入りしている。ショップの店員だけではない。電気、大工、インテリア関係、システム関係、清掃、植栽、その他、多数。
そんな大勢の人間がこんな風に動いていく。
オレはプールの授業を思い出した。
学校のプール。
最初、1人2人で流れを作ろうと動いても、プールの中は何も変わらない。だが、それが10人20人、次は30人40人。クラス全員、学年全員。
そうなると、大きな流れが出来る。
グルグルグルグル。
グルグルグルグル。
同じ方向に回り続ける。
そしてその流れは最初の1人2人が止めようとしても止まる事はない。
オレは急に思い出した。
すっかり忘れていたあのおじさんの事だ。
あの人の車が通り過ぎたのを見計らって、オレたちが移動しようとしていた時。
「居場所流してるな!」
見知らぬおじさんにいきなり怒鳴られた。
オレたちは無視してその場を去った。
それでも心の中は
「何だよあのおっさん。ウザい。」
そう思ってムカついた。
警察呼んでやろうかとも思った。
オレたちはどうかしていた。
オレたちは、自分が犯罪を犯している自覚がなかった。
いつもあの集団は、大丈夫、大丈夫と言っていた。
だからと言ってあの集団はオレを助けてくれただろうか?
この宙ぶらりんの感覚。大丈夫と言っても、毎日毎日言い訳しようと動いている。
あの人達を追っかけて。
大丈夫と言いながら、あの人達を見張っている。
老人はただただ歩き続け、若い奴らは車、自転車、電車、バス。何もかもを駆使してあの人達を追っていく。
車に自転車まで乗っけて。そんな奴さえいた。
あの人がポストを使っていたらポストを使う為に郵便物をいつも用意して持ち歩く。
とにかく何でもあの人達と同じ事をしたらいいとあの集団が言い始める。
言い始めたのか、勝手に解釈を広げたのか。同じ色から同じものに、同じものから何から何まで同じに、いつの間にか、なったのかもしれない。
なんて安っぽい解釈だろう。
なんて自分勝手な解釈か。
こんな事で助かるなら苦労しない。
付きまといをしていた事を付きまといをして誤魔化そうとしている。
結局は犯罪をやり続けているだけ。
それでもやっぱりオレもしがみついていた。
どうにかして助かりたいと。
あのおじさんは今何処にいるんだろう。
あんな風に叱ってもらえる間にどうしてオレは止めなかったんだろう。今になって、ひどく後悔している。
同時にハッとする。オレはとても重要な事を見逃していた。
誤魔化しなんて通用する訳がない。
オレたちのやっている事。それを見ている人が、他にも沢山いる。息を潜めて、じっと見ている人が。あのおじさんみたいに。
オレは今、やっと現実に引き戻された気がした。助からない。目頭が熱くなる。
それでも。
大きなため息のような、長い、長い、息。
そんなものを吐いた。
悪いことをしたら捕まる。
オレが元々いた世界。
オレの周りにあった風景。
やっと帰ってこれた気もした。
本当はずっとそれを望んでいたんだ、本当は。
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