第10話
あの人は最近ブログを更新し続けている。
この前のブログ。
オレは読んだ後、悔し涙が出た。
オレなんかが涙なんか見せてはいけないのに、そう思いながら。
知らない事が沢山ある。
その事さえ息苦しくて泣いた。
泣き出したら涙がなかなか止まらなかった。
きっとあの人の思いが伝わったんだと思う。
同時にオレの気持ちも固まった。
家族には迷惑をかけるけど。本当はそんな事避けたいけれど。
でも、オレはそれ位の事をしている。
そして、あきらとその仲間の事を思い出している。何から何まであの人達を否定し続けていたあいつらを。
オレは薄っぺらい毎日を送っている。
元々そうだったかもしれない、でも、あの人達に犯罪をしてしまってからの毎日は、余計に薄っぺらく思えた。
そう言えば昔、休憩室で誰かが言った。
「まだ捕まってない。」
今オレは思っている。
「まだ捕まってない、ただ、それだけじゃないのか?」
オレのスマホはあの人達の居場所が分かる。
オレは追いかける事はやめた。
だが、通知はそのままにしている。
オレたちは、時計を見ながら、何から何まで時間を計った。
家からの時間、ショッピングモール内のトイレに行く時間、駐車場を出る時間。帰宅した時間。
オレたちは完璧だった。
なぜ、そんな事をしたのか。
それは、皆であの人達の家を見に行く為。あの人達がショッピングモールに入ってから帰るまでの間に、あの人達にばれない間に家を見に行く為。写真だけじゃ物足りない、そういう事だ。
そしてオレたちは現物を見て何と言ったか。
「マンションだな。」
「へぼいよな、せめて一軒家に住んどけよ。」
本当に勝手な奴等だと自分で思う。
「あの人60代らしい。」
そんな話も漏れ聞こえた。
「噓よ噓。私がこの年でこれよ。」
「あれで、60代なら、整形よ、整形。」
「だよねー、今度顔じーっと見てくるわ。」
「私も。」
あのお母さんの方は、きっと何回も何十回も、じーっと見られ続けては、写真も撮られまくったんだろう。その光景がすぐ頭に浮かぶ。
それほど見て、何枚も写真を撮っては拡大して、また、それを見て、それでも年を分からなかったのか?60代の人を30代って?自分の方が年上って?
おばちゃん、あの人達は整形していない。
オレたちは毎日居場所を流してた。
おばちゃんの負けだ。
逆におばちゃんが整形した方がいい。
オレが美容外科医なら、きっとこう薦める。
「顔が大きいから、顎を削って、鼻も少し高くしましょう。あ、そうそう忘れてました。あの人の事を目が小さい。そうおっしゃっていましたね。なので、目はとびきり大きい二重にしましょう。見違えますよ。」
こんなにも医者になりたいと思う日が来るとは夢にも思わなかった。オレは勉強は苦手でなれやしない。でも、本当に言ってやりたいと思う。
他にも色んな事を言っていた。
「あの子、簿記1級持ってるって。そう言ってたよ。」
「簿記1級?何それ?」
「簿記1級なら難しいんよ、多分。」
「ふーん、英検1級とどっちが難しいの?」
「そこまではよく分からない。」
「ふーん、どうせ噓よ噓。」
「ははははは。」
「そうよね。あの子嘘つきだもんねー。」
「虚言癖よ。母親があんなんだからああいう子が出来るのよ。困ったもんよね。」
あの人の言葉がうつった。笑わせんな。
何でもかんでも噓で済ますなら、最初から犯罪には手を出すな。
お茶の間でやっとけよ。お前こそ、そういうレベルだろうが。
憎しみいっぱいに吐き出した言葉が、オレをすーっと楽にしてくれた。
ずっと喉の奥の方にあって気持ち悪かったもの。
それが少し位取れた気がした。
どうせ、何を言っても全部否定するなら、何であの人達に寄っていくんだよ?
最初から関わる必要がどこにあるんだ?
あきらの姿が見えた気がした。
いつの間にかあの人のブログが川のように流れている。それを挟んでオレとあきらは対岸に立っている。そんな景色の夢を見た。
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